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前世還しのカーヴァンクル  作者: 稲葉めと
2章 白い魔鳥と小さな砦
20/23

19 旅立ちと新たな仲間と

 翌朝、俺たちは旅の支度を終えて町の門まできていた。

 この町の問題も解決し、俺とアオメの探し人を見つけるための手がかりも得られた。

 そう、手がかりを得ることができたのだ。

 この世界には動物、魔獣、ドラゴン、人間、亜人など様々な種族がいるらしいが、その中のひとつに魔族というのがいる。

 魔獣の亜種とでもいえばいいのか、肉体を魔力そのもので構成している人間そっくりな種族で、死ぬとその身体は灰となって崩れ去ってしまうらしい。ちなみに前世の世界のお話ではよく種族ごとに対立していたりするが、この世界ではそういうこともなく、敵対的な個人や組織はあれど種族全体で争ったりはしていないらしい。もっとも知性のない種族は他の種族を襲ったりするし、国家間での戦争など争いがないわけではないらしいが。

 アオメがくすねてきた灰色の魔晶石。あれはその魔族の遺灰が集まった結晶体らしい。


 

「つまりこれは、姉上の亡骸のようなものということじゃな・・・・・・」



 遺灰をやさしく撫でるアオメ。

 知りたいと思っていた姉上のその後より先に、その亡骸と出会ってしまう。

 それは哀しいことかもしれないが、少なくともいま俺たちは歓喜していた。



「あぁ、ようなもの、だ。そのものじゃない」

「お主の能力、あてにしていいんじゃろうな?」

「任せろって、おれには今のところこれしか取り得がないからな」



 俺はアオメに異世界人の転生体であることと、もっている能力についてすべて話していた。

 これからも行動を共にする上で必要だったというのもあるし、隠し事は少ないほうがいいという判断でもある。

 俺たちが悲しみに暮れず喜んでいる理由にも関わっている。

 俺の前世視認でみた遺灰。そこにある人型の人物は俺の恩人だけで、アオメのいう姉上の姿はなかった。

 能力は不発していない、アオメが姉上の魔力を間違えることもなく、この魔晶石が魔族の遺灰なのも間違いない。そこから導き出される結論はふたつ。

 アオメの姉上、セラリアス・アイオライト・ライノセラスは生きている。灰になって、いまも尚。



 そして俺の恩人とアオメの姉上は同一人物であるということだ。

 ちなみにこの遺灰に前世還しは使えなかった。能力を明かしたことでアオメとも相談でき、どうやらこれに関しては無機物だからできないのではなく全て揃っていないからできないのではないかとのこと。それはそうだろう、仮にこれが心臓の部位だったとして、前世還しを使った瞬間心臓だけPONと出てこられたら怖い。

 この灰が鶏たちの体内にあった理由は恐らく食べたからだろう。

 鳥を含めた歯のない生き物は砂や小石を食べて、砂肝とか砂嚢と呼ばれる器官に溜め込んで食べ物をすりつぶしてから消化する。

 その砂を食べ集めているとき一緒になって食べてしまったのだと思う。



「鶏のコカトリス化もそれが原因じゃろうな。強力な魔術師だった姉上の魔力を取り込んで、魔獣へと変異してしまったのじゃろう。凶暴化も突然手に入れた魔力によるものじゃろうな」

「そう聞くと可哀想な事件だったなぁ」

「で、君たちは本当にこのまま行ってしまうのかな?」

「げっ、ドニクスさん」



 振り返ると、そこにはしぶい顔をしたドニクスさんとブラッシングでもしたのか毛並みのつやつやとしたアンドリューがいた。



「げ、ではない。まだ領主様も帰ってきていないし、お礼も渡していないだろう。急ぐ旅ではないのなら、もう少し滞在してはどうだ?」

「いやぁ、その領主様に会いたくないんだよなぁ」

「そうじゃな、仮に領主が帰ってくればお主らは今回のいきさつを報告するじゃろう?」

「まぁ、そうなるな」

「で、領主視点だと自分が留守にしていた間、いきなり特産品が魔獣化した挙句ほぼ全滅してそれによくわからない亜人と動物が関わっていたらしいってなるだろ?」

「ブヒン」

「「俺(妾)だったらそんな怪しい奴(輩)絶対に見逃さない(ぬ)ぞ」」

「あはは・・・・・・」

「ブホ」



 声を合わせる俺たちに、笑いながら目をそらすドニクスさんとアンドリュー。

 そうなのだ、客観的に見ると今回の事件はそうなってしまう。

 無論町の住民たちは俺たちの活躍を分かってくれているし、領主様も話を聞く限りではいい人なのだと思う。

 だが立場のある者には責任がある。危険人物を事情聴取もせず見逃すことはできないだろうし、噂どおり頭の冴える人なら俺やアオメをなにかに利用しようとするかもしれない。領主様の人柄ではなく、その立場そのものが問題なのだ。



「宴の後、気がついたらいなくなっていたってことならドニクスさんも責任を問われずに済むだろ」

「いや責任は多少あるのだが」

「領主に妾たちを捕縛しろといわれて戦う羽目になるのとどちらが良いのじゃ」

「それはごめん被るよ。俺も兵士たちも腕には自信があるし、部隊でなら君たちの魔法ともやりあえると思っているが」



 触手プレイはちょっと、と漏らすドニクスさんにアオメの表情がひきつった。



「まぁいいさ、せめてこれだけでも持っていってくれ」

「うわっと、投げるなよ。なんだこれ」



 いきなり投げ渡された布袋の中にはそこそこの量の銀貨と銅貨が入っていた。



「お、おいこれ」

「安心しろ、部隊のみんなで少しづつ出し合った金だ。領主様の許可が下りなければ褒賞は渡せないからな」

「いいのか?」

「何を言っている、あれだけ助けてもらっておいて謝礼も出さずじゃあ俺たちはこの町の恥さらしだよ」



 そういって方目を瞑るドニクスさん。おっさんのウィンクはちょっとどうかと思うが、お金はありがたく貰っておこう。

 2人に手を振り、俺たちは町を後にした。

 

 



 しばらく歩き、町を振り返る。

 すでに町並みは遠く、思えばたった三日の滞在期間だったにも関わらず本当に色々なことがあった。

 そんな風にしみじみしている俺のズボンの裾がなにかにひっぱられる。

 それはなにか?

 鶏だった。紛うことなき鶏さんだ、日本の養鶏場とかでもみかける真っ白な。



「あちゃー、ついてきちゃったのか」



 昨日の宴会のときのようなミスを何度も犯す俺ではない。この鶏も魔族の灰が消えて綺麗さっぱりただの鶏に戻っているのだろう。

 ほーら前世視認使っちゃうぞ~。まぁコカトリス化はあくまで魔力を得たことによる強化なので転生とは違うみたい、だ、が。



「うおおおおおおおっ!?」



 全力でダッシュしてアオメの背後に回りこむ。

 なさけない? 知ったことではない、俺は戦闘能力皆無だからな!



「ど、どうしたんじゃ突然」

「こ、こ、こここここっかこか」

「鶏の真似か? こけーこっこっこっこ」

「コカトリス!?」

「何を言うておる、昨日もただの鶏に戻ったと言ったじゃろう、なさけない」



 やれやれと呆れたジト目でこちらを見ながら首を振られる。

 ちがうそうじゃない。



「あのコカトリスだこいつ! 前世じゃなくて、後がある!」



 ノリで使った前世視認、そこにはこいつの姿の次にあの巨大なコカトリスの姿が映し出されていた。

 細かい事情はわからないが、あの変化は転生扱いらしい。



「ふむ? 妾にはただの鶏にしか見えぬが。もしそれが本当ならこれのせいかもしれんな」



 そういって取り出した灰色の魔晶石をコカトリスがじーっとみつめている。

 


「お主、こやつにも前世還しを使ったのじゃろう? これがこやつの体内から出てきたことで前世還しの効果が反映され、鶏に戻ったことで傷も消えて生きながらえたのじゃろう」

「アオメさん頭よかったんですね」

「何じゃ?」

「もんもん言ってたのに」

「アレは忘れよ!!」



 なるほど、効果自体は付与されていたけど発動しなかったものが、条件を整えて発動したのか。

 しかしなにしに来たんだこいつ。攻撃してこないところを見るとあの時の意趣返しって感じでもないが。

 じろじろとコカトリスを眺めていると、その首をしきりにふっている。

 うん? この動作どっかでみたな。



「これはあれじゃな、アンドリューがヒエンにしていた」

「あぁ、背中に乗れの合図か! 無理じゃね?」

「コケ?」



 首を傾げるコカトリス。

 あの時の巨体なら乗れただろうが、いまのサイズじゃなぁ。



「いっそ戻してやったらどうじゃ」

「いやいやいや、どうなるかわかったもんじゃないぞ。それに怪我だってしてたんだろ?」

「丁度良いではないか、前世還しで他の姿になっている間に怪我が自然治癒するのかどうかの実験じゃ。魔力のあるあの姿なら多少の傷は1日で癒えるはずじゃしな」

「えぐい事考えるな・・・・・・」



 今後、石化以外にも大怪我を負う可能性はある。

 こんな世界だ、その可能性は決して低くはないだろう。ならここで試してみるか、即死しなければすぐ鶏に戻してやれるし。



「ほらよ」



 そっとコカトリスの頭を撫でて、前世還しを発動、いや解除する。

 やっぱ発動も解除も、相手に触れていないと使えないのが難点だよな。

 そして現れるのは赤い鶏冠と白い羽毛はそのままに、ヘビの尾を持ち3m近い巨体を誇るコカトリス。

 アオメにつけられたはずの傷もなく、美しいまでの姿を日の下に晒していた。

 その姿を見た瞬間、警戒しさらに距離をとる俺とアオメの前で、しゃがみこみ俺たちに乗るよう合図するコカトリス。



「お前、あれだけの目に合わされて俺たちを恨んでないのか?」

「コケ?(思ってないよ?)」

「ふーむ。何を言っておるのかわから・・・・・・いま何と言った?」

「コケコッコ(石とった、恩人)」

「念話?」

「念話じゃな」



 コカトリスさん、なんと念話で話しかけてきました。

 アオメ曰く念話は龍だけでなく波長の合うもの同士なら使えるとのこと。

 そういえば俺もそれで使えるんだっけ。

 コカトリスなら魔力も高いし出来る可能性はあるらしい。もっとも波長の合う生き物なんて滅多にいないらしいのだが。



「アオメとこいつが念話できるのはわかったけど、なんで俺とこいつができてるんだ?」

「お主のあの姿、カーヴァンクルとやらが実は龍なのではないか?」

「ははは、そんなまさか」



 目を合わせる俺とアオメ。

 実際あの姿の名前はわかっても細かいことは知らないのだ。鏡さんに聞いてもなにも表示されなかったし。



「えーっとそれはともかく。本当にのせてくれるのか?」

「コケ(うん)」

「あー、長いたびになりそうじゃし、誰かを襲ったりしてもダメじゃぞ?」

「コケ(うん)」

「アオメ、どうする?」

「ヒエンよ、妾はもう歩きとうない」

「奇遇だな、俺もだ」



 そして俺たちはコカトリスの背にのった。

 バランスが悪いのでアオメが前にのり長い尻尾をコカトリスの首に苦しくならない程度に巻きつけ、そのアオメを俺が後ろからだっこする。

 丁度バイクの2人乗りのような体勢だ。

 アオメの体がぷにぷにしてたり髪が良い香りだったりとドキドキす・・・・・・、コカトリスが走り出した。

 力強い走り、その速度はアンドリューにも負けないほどだ!



「早い早い、これはよい乗り物じゃなヒエン!」

「おおおすげー! いけ、コカトリス! かっとばせ!」

「コケーッコココココココ!!!!」



 そして俺たちは次の遺灰を探して旅を始めた。

 長くて大変で、様々な出会いをもたらしてくれることになる俺とアオメの旅。

 その1つめの大変な事件と出会いはこうして終わったのだった。

 


 でも、なにかすごい重要な事を忘れてる気がするんだよなぁ。


いつも評価・感想・誤字報告などありがとうございます。

ヒエンが忘れていること、一体なんだろうなぁ(棒)

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