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前世還しのカーヴァンクル  作者: 稲葉めと
2章 白い魔鳥と小さな砦
17/23

16 対鶏作戦

 作戦当日、俺たちはコカトリスに襲われた平原に来ていた。

 時刻は日も上りきらない早朝。

 鶏どもが起き出す時間を狙ってきた。

 アオメが馬車に大量の餌を詰め先行し、その50メートルほど後ろを俺とドニクスさん、ロングボウで武装した兵士20名ほどが追う。

 全員合わせて二個分隊ほどの人数だ。本当は兵だけでも40名、小隊程度の人数が居たらしいのだが、大半が石化の被害にあっていた。

 

 

 ちなみに馬車を引いているのはアンドリューだ。自分も一兵士として戦いに加わりたい、と筆談で語っていたが馬車を引くとは思わなかった。つくづく変わったやつだ。

 

 

 所定の位置についたアオメがまずアンドリューを馬車から解放、自由に動けるようにしたところで馬車の中の餌を地面にぶちまけた。

 緑のもふもふ状態で嗅覚が鋭くなっているからか、50メートルはなれたここまで独特の臭いが漂ってくる。

 

 

 それからまもなく、ものすごい地響きが聞こえてきた。

 見れば地上を大きな雲が突き進んでくる、そうと見紛うほどの鶏の群れがアオメ目掛けて突撃してきた!

 それに対してアオメが魔法で反撃する。一発で何羽も仕留めていくが多勢に無勢、あんな大量にどこに隠れていたのやら、あっという間にアオメとアンドリューは鶏の雲に包み込まれてしまう。 

 

 

「そろそろか?」

「ああ、十分に集まっているな。総員構え......放て!」

 

 

 ドニクスさんの合図と共に総勢20名の兵士たちが鶏目掛けて矢を射かける。なにかの魔法か技術か、一度に複数の矢を放っている兵士もいる。合計50を越える矢が鶏たちに襲いかかったかと思うと、今度はその内の幾つかが派手に爆発した。

 

 

 ……今度アオメかドニクスさんにこの世界の戦い方を詳しく聞いておこう、俺の常識は通用しそうもない。分かっていたことだけど。

 

 

 突然の増援に鶏たちが慌てふためく。そこを容赦なく追撃していく。当然逃げようとする鶏もいるがそういう奴等から優先的に狙っていく手筈になっていた。

 いくら鳥頭と言えど何百かの鶏を倒したところでいい加減状況を理解したらしく、こちらに向かって一斉に駆け出してきた。

 その鶏どもの背後から、大量の水で出来た触手が殺到し襲いかかる。

 言うまでもないだろうが、アオメの魔法だ。狼たちより的が小さく数も多いからか、一本一本が細く長い。イソギンチャクみたいだな。

 

 

 作戦はこうだ。

 まずアオメがアンドリューと共に先行し大量の餌と共に囮になる。

 この餌に毒を仕込むことも提案されたが、それを察して鶏たちが誘い出されなければ貴重な餌が無駄になるとのことで脚下された。

 上手く誘い出せたとして、当然先程のように鶏の群れに襲われるが、そこはアオメの魔法で水の防壁を作り出し凌いでもらう。さすがのアオメといえどあの数の攻撃を凌ぐのは骨らしいが、ドニクスさんたちに頼んで大量の魔晶石を借りていたので魔力切れの心配はない。それがなければ兵士たちの攻撃にも巻き込まれていただろう。 

 その後鶏がこちらに向かったところで防壁を解除して攻撃開始、俺たちと挟み撃ちにしたわけだ。

 

 

「さすがに近づかれる前に殲滅するのは無理だったか!」

「構わん、総員抜剣! 万が一攻撃をくらったらそのコカトリスを即座に切り捨てろ、突撃!」

「「「おお!」」」

 

 

 合図と共に剣を抜き放ち突撃する兵士たち。

 乱戦になり時々石化を食らう兵士もいたが、ドニクスさんの指示通り強引にでも鶏を倒すことで石化を解除していた。

 

 

 こんな戦法があるならさっさとやれと思うかも知れないが、兵士たちが俺にはよくわからない能力をもってるとはいえ多勢に無勢。アオメの魔法による援護と、万が一石化を食らわせてきた鶏に逃げられても俺が石化の進行を止められるという保険があるからこそできたことだ。

 

 

 ちなみに俺はドニクスさんの肩にへばりついている。戦いの邪魔になっている自覚はあるが、アオメと念話ができるのは俺だけなので双方の情報共有に必要な措置だ。

 

 

 え、戦わないのかって?

 勘弁してくれ、鶏はともかく兵士たちのとんでも攻撃に巻き込まれたら死んでしまう......。

 

 

『ヒエン、おいヒエンよ、聞こえておるか』

『......はっ、寝てないぞ!?』

『お、お主......』

 

 

 しかし実際することないよなぁと呆けていたところへ念話が飛んできて焦った。

 

 

『ごめん、やることなくてぼーっとひてた』

『なにがひてたじゃ、念話だというのに発音できておらんではないか。ドニクスの肩にへばりついているのではなかったのか?』

『くっつているよ。今もドニクスさんが鶏を盛大に真っ二つにしたところ』

『そ、そうか。......実は少し気になることがあっての』

『気になること?』

『こやつら、死んだ後も微細ながら魔力の反応があるんじゃ。なにか分からぬか?』

 

 

 そんなこと言われても、俺は魔法に関してド素人なんだが。

 聞かれた以上考えてはみるが......と、なんだこれ?

 以前アオメに感じた熱のようなもの、それの弱いやつをそこかしこに感じる。

 一番強いのはアオメ、正確には彼女がもってる魔晶石か。今しがたドニクスさんが真っ二つにした鶏からも感じるので見てみれば、その腹から砂のようなものがこぼれている。

 なんだ、鶏たちも魔晶石を持ってるのか?

  

 

「なぁドニクスさん、こいつら、というか魔獣って魔晶石もってたりするのか?」

「そうだな、そういった種類もいるとは聞くがコカトリスにそんな知恵はないはずだ。なにかあったのか?」

 

 

 襲い来る鶏を凪ぎ払いながら答えてくれたドニクスさんに、感じた違和感を説明しようとしたところでそれは起きた。

 それまで微かだった反応が大きくなっていく。いや、集まっていく!

 

 気がつけば三千羽もいた鶏たちはほぼ壊滅状態。その中の生き残りへと熱が集まり増大していく。

 その熱さは龍状態のアオメには及ばずとも相当なもの、な気がする。

 見れば一羽の周りをさっき鶏の腹からこぼれていた灰色の、魔晶石のような何かが大量に集まり渦巻いていた。

 あれが熱の原因か? なんだあれ。

 

 

「なにかっていうか、あの砂っぽいのから魔力? みたいな反応っていうか、感じ? がするんだけど」

「あ、あやふやだな......」

 

 

 仕方ないだろ魔力の反応なんて前世では感じたことないから自信ないんだよ!

 

 

「とにかく!  あれ、魔晶石じゃないのか?」

「私も魔道具に詳しいわけではないのだが、あんな小さなものは聞いたことがないな」

 

 

 警戒しつつ、他の兵が矢を射かけたりアオメが水の槍を放ってはいるが、全て灰色の砂に弾かれてしまう。

 

 

 あー、戦いとは無縁の前世を歩んだはずの俺にもこの後なにが起きるかうっすらと分かってしまった。

 ありがとう日本文化、ビバ・エンターテインメント。

 これ知ってるぞ。アニメやゲームで敵が進化したり巨大化したりパワーアップする時のやつだ。

 

 

 数秒後、灰色の砂が収まると、白い羽毛に赤い鶏冠、そしてヘビの頭部を尾に据えた巨大な鶏がいた。

 おいこら、この世界のコカトリスにヘビは生えてないって言った嘘つきはどこの誰だ!

 

 


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