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前世還しのカーヴァンクル  作者: 稲葉めと
2章 白い魔鳥と小さな砦
16/23

15 緑と白のもふもふ

 あの後全力の土下座を敢行し、なんとか尻尾ビンタでのお仕置きは回避された。

 あれほど尻尾は危険だ危ないだ言っていたのに目の前で動いてると飛び付きたくなるんだよなぁ。ねこじゃらしに飛び付いてた猫ってこんな気持ちだったのだろうか。

 

 

 風呂から上がり、俺達は案内された部屋でくつろぎながら現状を整理していた。

 

 

 まずこの町に来た目的。

 これは単純に人の多い場所は情報収集に適していて、その中には恩人探しに役立つものがあるかも知れないと思ったからだ。

 運が良ければここに恩人(正確にはその転生体)がいるかもと期待していたのだが、今のところ見当たらない。町には人が集まるけど、人に転生してるとも限らないしな、俺みたいに。

 

 

 アオメは姉上のその後を調べたいらしいが、この騒ぎではゆっくり情報収集とは行かないだろう。

 それは俺も同じこと。

 

 

 次はドニクスさんの相談について。

 まだなにも聞いていないが予想はできる。コカトリス退治についてだろう。

 俺とアオメの戦闘力については知らないはずだが、俺が一時的にでも石化に対処できると知られた以上巻き込まれること事態は諦めていた。

 

 

 そこまで話し合ったところで扉がノックされ、応じるとドニクスさんが入ってきた。

 

 

「すまない、待たせてしまったな」

「風呂も貸してもらったし、気にしないでください」

「そういってもらえると助かる。早速だが、相談というのは君たちの滞在期間についてだ」

「滞在期間?」

「そうだ。ヒエンだったか、君にはしばらくこの町で石化したものを助けて貰いたい」

 


 ふむ、予想通りか?

 


「別にさっきみたくらいの人数ならすぐに対処できるぞ?」

「いや、彼らではない。いざとなれば彼らのことも頼まねばならないが、頼みたいのは今後被害を受けるだろう兵士たちのことだ」

 

 

 ドニクスさん曰く、コカトリスの狩りは積極的に行っていくが、現在の住み家が分からないので対処療法にならざるを得ないらしい。

 奴らは素早く、弓での遠距離攻撃でもしなければ並みの兵士では一撃くらいはもらってしまうらしい。

 時折町の食料目当てに襲ってくるので狩り尽くすまでは被害者が出続けるだろうとのことだった。

 

 

「それ、食料で釣って纏めて狩っちゃだめなのか?」

「実はすでに一度試したのだ。結果、たしかにほぼ全てのコカトリスを引きずり出すことには成功した。この町で元々飼われていた鶏と同じ数だけのコカトリスがだ」

「それは、やばいな」

「あぁ、やばかった......」

 

 

 その時の事を思い出したのだろう、ドニクスさんが遠い目をしている。

 鶏というの牛や豚などの家畜に比べてたくさん飼育しやすいという利点がある。日本でメジャーだったのはケージ飼いと言い、鶏を小さな檻に閉じ込めて大量に並べて飼育する方法で、何万羽という数を飼育していた。

 元々高級品だった卵がお求め易い価格で売られるようになった理由でもある。

 対してこの町では囲いのなかで伸び伸びと育てる平飼いという方法を取っているらしい。ケージ飼いほどの大漁飼育は望めないが鶏にストレスを与えず育てられ、質の良い卵が手にはいる。

 

 閑話休題、話がそれたな。

 


「ちなみに、何羽飼ってたんですか......」

「この町特産の貴重な鶏だったからな、平均的な養鶏場に比べたら少ないぞ......」

「一応、養鶏場の規模に応じた飼育数は知ってますよ。俺の国基準ではあるけど。だからハッキリ言ってください、何羽ですか」

「三千羽弱だな......」

 

 

 わーい、養鶏場としてはかなり少ないほうだぞー。ケージ飼いされてなくてよかったね、何万羽も相手にしなくていいぞ!

 

 

「畜産には疎いゆえ口を挟まなんだが、それは良い情報なのか?」

「逆に俺は戦いに関しては素人だから聞きたいんだが、三千羽の石化能力もちと戦うのは可能なのか?」

 

 

 俺の問いにアオメが片手を顎にやり考えこむ。名探偵とかがよくやってそうなポーズだが、彼女がやると背の低さも相まって子供が大人ぶろうとしているようにしか見えない。

 

 

 その横で俺とドニクスさんは虚ろな目で頭を抱えていた。

 三千とかどうしろというのだ。

 そんなの大量破壊兵器か魔法でもないと無理だろ......。

 

 

 魔法?

 

 

「ふふふ、妾に名案がある」

 

 

 そう言ったアオメの表情は悪戯を思い付いた子供のように生き生きとしていた。

 

 

 その後アオメの策を聞き、リスクも低そうなので試して見ようということになった。必要な道具を集め、ドニクスさんには兵士たちに作戦の説明をしてもらう。俺やアオメがするより受け入れ安いだろうとの配慮だ。

 なにせ俺もアオメもこの世界の一般的な人の姿とはかけなれてるらしいからな。

 

 

 いまの俺がそもそも人がたじゃないことについては無視することにする。

 

 

 作戦会議も終わりドニクスさんたちがその準備に勤しむ中、当日までやることのない俺たちは日の暮れた町中をぶらついていた。

 

「ふむふむ、道はレンガで舗装されてるし、家もただレンガを積んだだけじゃないな。立派なもんだ」

「あの外灯は魔晶石じゃな。風呂といい周囲から孤立しておるような田舎の町には不釣り合いじゃが、ここの領主は余程民を大事にしているようじゃ」

 

 

 聞けばこの町、隣国との国境沿いにあるらしい。つまり国外れなわけだが、戦時には砦としても使えるよう整備されており、軍備のために他の領地よりも多くの税を取ることで有名らしい。

 それだけ聞けば民から恨まれそうなもだが、集めた税は軍備だけでなく町を整備したり、食糧難の時に他の町から食糧を買い集めることなどにも使っているため民からの信頼は厚いらしい。

 

 

「その優秀な領主さんがこのタイミングで留守とはついてないよなぁ」

「隣街で会談中じゃったか。使いは出したらしいが片道一週間ではのう」

 

 近隣の領主たちは定期的に情報共有と親睦を兼ねて会っているらしい。事態が事態なので一週間前には使いを走らせたらしいのだが、国外れ、それも戦時には砦として使うような町のすぐそばに他の町があるわけもなく、有能な領主さんが戻るまで最低でもあと一週間はかかるらしい。

 そしてその間の領主代行はあのアンドリューらしい。

 

 

「なぁ、この国のお偉いさんって前線に出たがるものなのか?」

「知らぬ、妾はずっと屋敷から出ておらなんだからな」

「なぁ、領主代行を馬にしちゃったけどいいのかな」

「知らん、なにかあっても妾は関係ない」

「あ、ずるい!」

「お主が勝手にやったことじゃろうが!」

 

 

 そんな風に俺たちが楽しく言い争っていると、件の領主代行ことアンドリューがやってきた。もちろん白馬状態で。

 

 

「お、アンドリュー」

「すまぬなぁ、こやつが勝手に馬になぞしてしもうて」

「ヒヒーン」

「そうかそうか、気にするなって言ってくれるか」

「なぜ分かるのじゃ」

「俺に隠された特殊能力さ」

 

 

 アオメが物凄いジト目で見てくる。

 そう、アオメが怪しんでるのも当たり前。なぜなら口から出任せなのだ。

 が、アンドリューが頷いているのであながち間違いでもなかったらしい。

 

 

「アンドリューはなにも準備しなくていいのか?」

「ヒヒン」

「まぁ馬じゃしな。準備といっても荷運びくらいしかできんじゃろ」

「まぁそうか。しかし一度死にかけてるのに着いてくるとか本気かお前」

 

 

 この白馬、鶏退治に同行するらしい。領主代理がそれでいいのかと思うが、周りが誰も止めないので俺が聞いてみる。

 

 

「ブルッ」

 

 

 軽く鼻をならし、カポカポと地面を蹴る。やる気満々のようだ。

 


 と、なにを思ったのかアンドリューがに向かって首を下げてくる。

 

 

「ん? なんだ?」

「乗れと言っておるのではないか?」

「そうなのか?」


 

 反応を見るにそうらしい。

 軽々しく人を乗せていいのか領主代行......。

 乗馬経験などなく、恐る恐る背に乗る。仮にあったとしてもアンドリューには鞍などついていないし、この姿で役にたったか怪しいが。

 そしてアンドリューがゆっくりと走り出した。

 まだまだゆっくりなのは分かる、けれど馬上から眺める世界は新鮮だ。

 

 

「アンドリュー、もうちょっとなら速くしても良いぞ?」

「ヒヒーンッ!」

 

 

 この言葉に速度を上げるアンドリュー。

 速い!

 馬は車並みに走れると聞いたことはあるが、こんなに速いものだったとは。さすが日本では軽車両扱いなだけはある。

 

「おー、すごいすごい! たしかにこれだけ走れるなら戦いでも役立てそうだな。よし、もっと飛ばせアンドリュー!」

「ヒヒーンッ!!」

「あ、こらどこへいくのじゃお主ら!」

 

 

 アオメが何か言っているが聞こえない。風だ、俺たちは風になるのだ!

 

 

 しばらく町中を走りまわっている間に、何となくだが意思の疎通ができるようになってきた。見た目は白馬だが中身は人なのだし、当然といえば当然なのかもしれない。

 しかし仲良くなってしまうとこの気さくな白馬のことが心配になってくる。

 明日の作戦には万全を期すつもりだが、馬の姿で石にされたら元に戻せるかわからない。今のところ完全な無機物に前世還しができたことはなかったりする。

 

 

「なぁアンドリュー。明日の作戦、俺たちは危ないと判断したら誰かを見捨ててでも逃げるからな?」

「ブルッ?」

「俺たちには他にやることがある、この町に協力するのはそのついでだ。だからもし作戦が失敗したら、お前も町まで逃げろよ?」

 

 この世界の常識は知らないが、町の代表が前線に出て、一度死にかけてるのにまた行くとか正直なに考えてんだと言いたい。だがそんなこと言ってもこういう奴は考えを変えたりしないものだ。そういう頑固者はたくさん見てきた。

 

 

「領主代行とかいう大層な肩書きがあるなら戦い以外にもやるべきことがあるんだろ、自分の身を大事にしろよ。 それに人間なんてな、自分が可愛いくらいで丁度いいんだから」

「ヒヒーンッ」

 

 

 力強く鳴き返すアンドリュー。

 分かってくれたならよかった。

 願わくば、明日の作戦が上手くいきますように。

 そう思いながら俺たちは町中を疾駆する。

 

 

「暴れアンドリューだああああ!」

「何をやっとるか貴様らあああ!」

「いい加減にせぬか!」

 

 

 数分後、マジギレ気味のドニクスさんに連れてこられたアオメの水魔法で捕縛されるまで俺達ははしゃぎ回ったのだった。


 

「お主、知能まで獣並みになったのか?」

 

 

 アオメに割と本気のジト目で言われてしまったので今後は自重しようと思う。

 

 

「あ、鶏退治が終わったらまた走ろうな!」

「ブヒヒヒーン!」


もふもふはいいぞ。

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