由季の後悔
わたしはトシ兄の体の中にあるチップを取り出した。
「……ユキちゃん!本当に警察呼んだ……トシタカ!!」
ニコル先生はトシ兄の返り血を浴びたわたしを不信感の募った瞳で見つめた。
「……ニコル先生、はやく助けてあげてよ……!!トシ兄、死んじゃう……!」
「……何で……、何が目的なんだよ!?ユキちゃん!いいか!?そこから動くんじゃないからな!!」
わたしはもう、何が正しかったのか、わからない。自分でこうするって決めたのに……
ニコル先生から部屋を追い出されてしまったわたしはドアの横でしゃがみこんだ。血にまみれた右手にはトシ兄から取り出したチップがある。
これを壊せば……トシ兄はもう自由だ。
わたしはそれを床に落とした。小さなそれは意外に脆く、足で踏むと形を失った。
「わたしは……こんなもののために……」
ニコルがユキちゃんに人質に取られ、ユキちゃんはトシタカを襲った。
ニコルからの話はそんな感じだった。切羽詰まったニコルの様子に焦りを感じながら、俺は必要なものをもってトシタカの部屋に向かう。
ドアの横で右手を血まみれにしてユキちゃんが泣いてる。
「ユキちゃ……」
「ウィン!!はやく!!」
ユキちゃんに声を掛けるのは……今じゃない。今はトシタカだ。
「状態は?」
「背中を刺された。……んん??なんかこの傷の感じ……見たことある……」
ニコルは応急処置をしながら、傷の形状に注目している。
「ん?」
「ああ!マサヤが襲われたときの!」
「何で今マサヤがでてくるんだ?」
「お前とマサヤが襲われたときあっただろ?そのときの肋骨の方の傷に似てるんだ」
「あ、確かに……あのときはその傷からICチップ出てきたんだよな……まさか?」
「そうかもしれない!探して……」
「ま、待て……」
トシタカ!意識があったのか?
「トシタカ!しゃべるな!」
「チップは……もう、無いんだ……」
「ない?いったいどういうことだ?」
「由季が……俺を……ま……」
トシタカはそこまで言って気を失ってしまった。
「トシタカ!!」
ま……ってなんだ。トシタカは何を伝えたかったんだ。
「とりあえず応急処置だけはしたから、すぐ処置室に運ぼう。……ウィン、トシタカは何とかするから、ユキちゃんに話を聞いて欲しいんだ」
「……わかった。トシタカのこと、頼むな」
ニコルは複雑な表情でユキちゃんを一度見て、トシタカを運んでいった。
俺は……泣いてるユキちゃんに話を聞こう。
ユキちゃんはドアの横にしゃがみこんで泣いている。
足元には血まみれのプラスチック片が粉々になって落ちていた。
「ユキちゃん……?どうしたんだ?何で……」
「ダメなの……こんなこと……してる場合じゃないのに……」
「……何がダメなんだ?」
「わたしは……立ち止まってたら……ダメなの……!」
ユキちゃんはなにか目的があってトシタカを襲ったことは間違いない。ただ……この様子を見る限り、理由を聞いても答えてはくれないだろう。
「ユキちゃん……言える範囲でいいから、教えてくれないか?どうして……トシタカを?」
「トシ兄のためなの……もう、トシ兄は狙われない……チップはわたしが壊したから……」
ユキちゃんはそう言って自分の足元を見た。
ユキちゃんの視線の先には血まみれのプラスチック片。……まさか、これって……
「これ……トシタカの中にあったICチップか?」
ユキちゃんは頷いた。
トシタカの言っていた「ま」ってもしかして……
「ユキちゃんはトシタカを守るために襲って、チップを奪ったのか?」
ユキちゃんはそれにも頷いた。
「……ユキちゃん、これからどうするんだ。今までは洗脳されてたからで済んでたところもあった。でも、今回はユキちゃん自身の意志でやったことだ。ニコルがもう警察を呼んでる。俺は、庇ってやれないんだぞ?」
「……知ってる。わたし、全部警察に話すよ」
「じゃあ、ついていくよ」
ユキちゃんは涙を拭いて立ち上がった。
まだ、警察は来ていない。
……ユキちゃんもなにかを考えて行動し始めた。でなきゃ急にトシタカを襲うなんてしないだろう。
これが、俺たちにとっていいのか悪いのか……それはまだわからない。




