由季の行動
(私の声が、聞こえる?)
誰……?
(私はあなたよ。成長した、あなた)
わたし?でも何で?わたしが二人いるなんておかしいよ。
(あなたはあいつ等の言うことを聞くの?トシ兄をホントに殺すの?)
そんなことしたくないよ!でも、やらなきゃ誰か別の人が死んじゃう……。だったらやるしかないもん!
(あいつ等が何で私たちの生死が確認できるか知ってる?)
え?知らないよ、そんなこと。
(じゃあ私たちにチップが埋め込まれてることは?)
それは知ってるよ。わたし、チップの位置がどの場所かわかるもん。
(そのチップがね、生死を判断する目印なんだよ。お兄ちゃんにはチップがないんだ。だから生きてるのかどうか、あいつ等にはわからないの)
そっか、だからあの時お兄ちゃんは死んだって言ったんだ。
(それでね、私はトシ兄を殺さずに済む方法を教えに来たんだよ)
本当に?
(うん。でも……私は方法を伝えることしかできない……。実行するのはあなた)
どういうことなの?あなたはわたしなんでしょ?
(私は成長したあなた。本来この体の所有権を持つべき人格。……でも、あなたは兵器を体に残してしまった……。だから、兵器所有時の洗脳で止まってしまったわたしと兵器がなかった場合の成長した私が生まれてしまったの。洗脳は解けても兵器のせいで私は出てくることができなかった。でも、あなたが兵器の存在を少しでも否定してくれたから……私は出てくることが出来たの)
じゃあ……兵器がなくなったらわたしはどうなるの?わたしは……本来いちゃいけないってことなんじゃないの……!?
(……あなたは私。そして、私はあなたなの。意識は統合されて、わたしも私も区別はなくなる……)
区別が……無くなる……。
(不安になることはないわ。……だって今の、この状況がおかしいんだもの……もとの正常な状態に戻るだけ)
……兵器がなくなったら、わたしたちはもとの状態に戻る……。正しい……状態に……
(……そう。……難しい選択かもしれないのはわかってる……。だって私はわたしなんだもの……)
……わかった。わたしはどうしたらいいの?
(兵器の機能はチップで制御されてるの。だから、チップを外せば兵器の能力は消えるわ。……逆に言えば、チップを外さなければ能力は存在し続ける。……チップは物理的に取り外すことしかできない)
物理、的に……?まさか……!?
(まずはトシ兄を襲うの。殺す必要はない。ただ、チップをはずすだけ)
そんなことしたら……わたし……
(敵を欺くには味方から。チップを外せばあいつらからはトシ兄を殺したと思う。トシ兄に怪我させれば先生たちはわたしが敵になっちゃったと思う。それが狙いなの。敵側はわたしを仲間に引き込んだと思って次の指令を出してくる。そのときにいろいろな情報を盗んじゃうの。後は自分のチップをはずす。これでわたしの計画は終わり)
……すごい計画だ。そんなこと、わたしにできるの……?
(まずはやってみなくちゃ!私はここまでしか教えられないけど、健闘を祈ってる)
「ユキちゃん起きて、お昼休み終わっちゃうよ」
ロナさんだ。さっきのはまた夢……?でも、もしあれがホントなら……。
「ねえロナさん、サイトウトシタカって知ってる?」
「サイトウトシタカ?わかんないなあ……。戻ったら他の人にも聞いてみようか?」
「……うん。ロナさん、ありがとう」
「あ、ユキちゃん…。どうしたのかな?急に」
トシ兄はどこだろう……?タイムリミットはあと20時間だ。
「あ、ユキちゃん。どうしたんだ?」
ニコル先生だ。ニコル先生も知ってるかな?
「ねえ、ニコル先生、サイトウトシタカって知ってる?」
「ああ、知ってるけど……何でユキちゃんがその名前知ってんだ?……まさか」
ニコル先生はなにかに気づいたみたいな顔でわたしのことを見た。その表情には少しだけどわたしのことを怪しんでいる気持ちが感じられた。
……違うの……。これは、トシ兄と、あと私自身を……守るためなの……!
私を守ってくれたみなさんごめんなさい。私は罪を犯します。
「……ユキちゃん?まず教えて欲しい。その名前はどこで聞いたの?」
「……」
「どうしたんだよ……?言えないことなの?」
ニコル先生はウィン先生と仲がいい。だから……きっとわたしの立場についてもわかってるはずだ。
「……!?」
わたしはニコル先生の喉元に刃物を突きつけた。
「今からわたしの言うことに従って」
「わ、わかった……」
「サイトウトシタカはどこ?」
「……部屋にいるよ……。個室だ」
「わかった。そこに連れていって」
「ユキちゃん……、トシタカになにする気だ……?」
「聞いてどうするの?」
「……」
「わたしはね、トシ兄を殺さないといけないの」
「殺す……!?」
「警察を呼ぶ?いいよ。でも……邪魔はしないで」
ニコル先生……巻き込んでごめんなさい。でも、わたしの計画のためには……騙さないといけないの……。
「……ここだ」
「ありがとう、ニコル先生。邪魔しなければなにしてもいいよ。もちろん、警察を呼んでも構わない」
「……ユキちゃん、殺すって……本気か……?」
「本気だよ。……でも」
本当は殺すつもりなんてない。ただ、わたしは先生たちに不信感をもって欲しいだけ。
出来れば、わたしがトシ兄を襲ったあとにニコル先生に助けて欲しい。だから、ニコル先生をここまで連れてきたんだ。
「まあ、いいや。ニコル先生……よろしくね」
「……ユキちゃん!?何が……!」
わたしは何の前触れもなくドアを開けた。
「………」
「………」
お互いに黙る。
「由季……」
「……トシ兄、ごめんね。わたし、トシ兄のこと殺さないといけないんだ。だから……死んで!!」
わたしは兵器の能力が残っている。どういう仕組みかは自分でもわからないけど、腕が武器のかたちに変化するんだ。
「……それで俺に刺されろって言うんだな?でもな、俺だってまだ死ぬわけにはいかないんだ」
トシ兄はわたしの攻撃をひらりとかわす。
わたしはトシ兄の体の中にあるチップの反応を探さないと……
攻撃しながらチップを探す。トシ兄は避けてるけど……まだ本調子じゃなさそうだ。動きがちょっと鈍ってきてる。
そのとき、トシ兄の背中にチップの反応を見つけた。
「トシ兄……!動かないで!!」
「そういわれて素直に止まるかよ……!」
これはもう忍耐勝負だ。でも、本調子じゃないトシ兄の限界は近そうだ。
「……っ……!?」
ほらやっぱり。ふらついてる。今がチャンスかもしれない。
「……っ……!?」
ヤバイ。気づけなかった。俺の体力は想像以上に回復してなかったってことか……。
体がふらつく。肺が、限界を訴えている。手足が言うことを聞かない。
由季はすでに俺の後ろに回り込んでいた。
「……お前……何が……」
「トシ兄……死んで」
由季の目はなにか覚悟を決めたかのような、強い意思を持った目だった。俺への罪悪感とか、憐れみだとかは一切ない。……なんかそれも悔しい。
でも、次の瞬間にはそんな思考も四散した。
……痛みと、熱さ。瞬時に理解した。背中を刺された。
「ごめん……トシ兄……」
由季は俺に耳打ちする。由季のナイフは俺に刺さったままだ。
……すごく……とてつもなく大切なことを由季は言った。でも、覚えていられる自信はない。
俺の意識は由季がナイフを抜くと同時に途切れてしまったから。




