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第2話   お姫様を攫いに行こう


断崖に沿ってバイクを走らせる。海との標高差は50メートル・・・のはず。1回調べたはずなんだが、忘れてしまった。

建物が殆ど無い、放牧地と農地が交互に流れていく。

俺は自宅から北に向かって1時間の所にある城に向かっている。

夜、たいして電灯もない道だが、満月のおかげでだいぶ明るい。

まだ冬の寒さが強く残っている。ジャケット着てくりゃよかった。




悪魔はこう言った。


「一人生き返らすためには、一人死んでもらわなければならない。人間の数は決まっている。」


「生贄か」


「そうだ」


足元が泥のように歪むような感覚に襲われる。


「・・・・・・・わかった」



悪魔は無邪気に笑った。




俺はバイクでこの街の海岸線沿いを走っている。北にむかって。



この先には城がある。この街の東の果てに。海と牧草地に挟まれて。


一部の城壁は崩れたまま放置されている。小さな城。


プラハにあるカルルシュテイン城を半分にスケールダウンしてさらに半分廃墟にしたような城。

治す金も無く、観光地としてもイマイチ人気がなく、地元にある遺跡の一つのような扱いをされている。

そこに実際に王族が住むことでなんとか付加価値を高め観光客を呼ぼうと涙ぐましい努力をしている・・・とパンフレットには書いてある。






悪魔はこう言った。


「同じ星の人間が必要だ。」

「星?」

「星座、標、魂の色と言っても良い。」


悪魔はそう言いながら、鞄のように大きな本をめくっていく。


「お前の妻を生き返らすなら・・・この人間が必要だ。」


悪魔がページを破り、俺に渡す。


「嘘だろ」


そこに記されていた人物は、この国の姫様だった。

俺が住む小さな国の貧しい王族の娘の一人。

それを攫ってくるとなると大変な仕事になる。


悪魔は頭を抱える俺を見て甲高い声で笑っていた。





さて、姫様は一体どこに居るのか?


聞いて回るわけにも、探し回るわけにもいかねぇ。

少なくともこの城には居るだろう、なんとか知恵を絞り出した結果。

向こうから出てきて貰うことにした。


見たところ警備兵は一人、まぁ高価なモノなんてなんにもなさそうだからな。


方法は単純。力技。俺の仕事の都合上たくさん手に入る発煙筒を投げまくる。


あとは塔の上から、城から王様たちが出てくるのを待つだけだ。


もくもくと城から煙がにじみ出てくる。・・・投げすぎたかもしれない。ものすごい煙が出ている。


さて、火事の場合、王族の避難が最優先で行われるだろう。


「お、出てきた、出てきた。・・・」


確かに王らしき人間は出てきた。警備兵に連れられて。


それだけだ。


娘が出てこない。警備兵も、別に探す様子もない。ここにいないのか?


そうしてるうちに、消防車と警察車両がやってきた。


王と思わしき人物はそのまま車に乗り、出ていってしまった。


「困った」


どうするか思いつかず、もう帰るか、と思い振り向くと、明かりが見えた。


この城から少し離れたところに塔が一つある。見張り塔として使われていたが、老朽化で今は閉鎖されだれも入れないはず。


あそこに人が居る・・・?明かりはもう消えている。


集まっている消防団員や市警の目を盗みコソコソと崖下を移動し塔へ向かう。




やっぱり、入口は閉鎖されている。これみよがしにでっかい南京錠がかかってる


・・・だが、なにか変だ。


妙に真新しい。ここは海が真横にある。金属がこんな新しい状態な訳が無い。最近変えたのか?


いや、ここに来るまでの道も、人が通ったような草の潰れた痕跡がある。


ここに姫様が居るのか?・・・何故?とりあえず中を見てみるために塔の壁を上り窓に近づく。


屋根の梁にロープを引っ掛け、窓まで登る。


窓にはめられたガラスは分厚く、濁っているため、中の様子がわからない。


押してみるが鍵がかかっているようで開かない。持ってきたひみつ道具、ハンマーでガラスを砕き鍵を開け中に入る。


中に入ると、月明かりでうっすらと中の様子が見える。


家具、机、人の居る形跡、ベッド、そして誰か居────


突然頭に衝撃が走る。


血が吹き出す。平衡感覚を失う。めまい。脳震盪だ。膝をつく。


破裂音が聞こえた。熱い。


薄暗い中、目を凝らす。


銃だ。


・・・


・・・


・・・


「うあ・・・」


頭を動かすと、パリパリと音がして何かが剥がれ落ちる。血だ。固まった血。


頭の血が乾いている。俺は、気を失っていたようだ。長い時間。頭が痛い。体が動かない。


よく見ると体中が布でぐるぐる巻きにされている。だから動けないのか。


どうやら銃弾は直撃せず、右側頭部をかすっただけのようだ。


それでも衝撃波で皮膚は裂け、脳は衝撃でダメージを受け、気を失った。


視線を部屋の奥に向けると、ベッドに人が座っていた。その顔は見たことがある。俺が探していた女だ。


「気がついたようですね」


おかしい。何かがおかしい。


「なぜ誰も来ない?」


真っ先に思った疑問、ふつーなら警備兵なり警察なりを呼ぶはずだ。何故来ない?


パン 


「うっ」


女が撃った銃弾が顔のすぐ横の壁に当たり、破片が飛び俺の顔に当たる。


「呼んでほしいのですか?」


そりゃそうだ。命を奪いに来たんだから反撃されて当たり前だ。姫様っていうからもっとか弱いものだと思い込んでいた。


「それに何故殺さない?」


パンッ


左にあった花瓶が砕け、破片が俺の顔を切る。


「甚振るのはやめろ。殺すなら殺せ」


縄なら抜ける方法はいくつか知っているが、シーツで身体全体をミイラのようにぐるぐるまきにされてはどうにもならん。


「貴方は何をしにここに来たのですか?話しなさい。」


どうせ殺されるなら本当の事を話してやろう。と俺は思った。

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