第15話 終わり。
何をする、という前に、目の前で起きたことに驚愕し、声が出なかった。
マスターメビウスの体から、金色の金属の棘が突き出した。
シから腕を抜くと、そこに傷跡は無く、血も出ていない。
「おい大丈夫か?」
シに駆け寄ると、シは自分の肩を触り、固まった。
「無い。」
「無い?」
シは上着を脱ぎ、上半身裸になると、背中を俺に見せてこう言った。
「無い!棘が無いわ!!どこにも!!無いでしょう!!?」
マスターメビウスが本当に治したのだ。喰ったのか?あの病そのものを。
「あはははははははは!!」
姫はそのまま飛び跳ねて走り出した。裸のまま。
「ふー、では聞こうか、なぜ心変わりをした?」
マスターメビウスの体から突き出た金の棘はもう無くなっている。どうなっているんだコイツの体は。
「あの病気で死ぬ女を二度も見たくなかったからだ。」
「は!」
またあの笑い方だ。不愉快だ。腹が立つ。
「まぁ、いいだろう。では、さようなら。また会いたければ、マッチを擦るが良い。」
消えた。
遺跡に置いてあった机や本も消えた。
二度と会いたくない。そう思った。
「あれ?あの悪魔はどこ?」
シが走り回って一周して帰ってきた。
「消えたよ。地獄に帰ったんじゃないか。それと服を着ろ。服を。」
「ああ、そうね、寒いわ。」
シが服を着ていると、近衛府の壱が近づいてくる。
「・・・あいつは帰ったのか。」
「そうだ。どこへ行ったかは知らんがな。」
「・・・我々の、負けだ。」
壱は、踵を返し、仲間を連れて、帰っていった。
光と姫は、崖の縁に歩いて行く。
そこは高さ5Mほどの崖で、下は海。海食崖と呼ばれる地形だ。
崖の端につくと、朝焼けで、雲が赤褐色に塗りつぶされていた。もうそんな時間なのか。
なにか、10年ぐらい経ったような感覚だ。
「ねぇ、」
姫が話しかける。
光がそれに答える。
「俺はお前が好きだ。結婚しよう。」
「・・・私から言おうと思ったのに。」
「は!」
「それ、悪魔のやつでしょ。」
「そうだな、あいつには感謝してるよ。あいつのお陰でもある。」
光はポケットからマッチ箱を取り出す。
「ありがとう。」
そう言いながら、海へ投げる。
マッチ箱はくるくると風に揺られながら、チャプと水面に沈んでいった。
「いいの?」
「いいんだ。」
太陽が海から顔を出す。
その海面の下。
海の中。
沈んでいくマッチ箱。
どんどん暗くなっていく。
そのマッチ箱を手に取る人影。
マスターメビウスだ。
「まったく・・・海に捨てるとは、ひどいやつだ。」
「さて、次はどんな面白い人間に会えるかな。」
「楽しみだ。」
そう言って、マスターメビウスは、海の暗闇に消えていった。
未完成悪魔機械化事典 光と悪魔とお姫様 終わり。




