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五、縁は重なり

窓に映った美少年を見て絶句する。なんだこれは誰だこれは。しかし眼帯生徒はこの美少年を譲だと告げる。譲は信じられないと言いたそうに_言ったかもしれない_彼を見つめていた。


「僕、え、僕?」

「あぁそうだ、その顔が君の本当の顔だ」

「う、ウソだ!!!!」

「それなら右手を挙げてみたまえよ」


言われた通り恐る恐る右手を挙げてみた。窓の中の美少年も鏡合わせで右手を上げる。次は左手。美少年も上げる。次は右頬をつねる。美少年もつねる。痛い。ちゃんと痛かった。うそだろ。嘘であってくれよ。


「君と縁を結んでいたのは”チェンジリング”という気まぐれな交換者だ。世界中で知られている怪異で、人間の子供をエルフやトロールの事取り替えてしまうんだよ。子供だけでなく人々の精神のみ、意識のみの交換も行うことができる。もちろん顔も、ね」


小難しいことは分からないが、さっきまでの瓶底眼鏡は自分の顔ではないことが判明した。眼鏡はどこかに消えていて、パッチリ二重の前髪重めウルフカットの美少年だけが映っている。信じられないし信じたくない。まさか自分が本当に怪異と縁を結んでいたなんて。しかもこんな分かりやすく結ばれていたなんて。


「チェンジリングは本当に気まぐれでね、君のその良すぎる顔に何かいたずらしたくなったんだろうさ。概ねどこかの国のゴブリンか何かと交換されたんじゃないかな」

「僕の前の顔ゴブリンって言わないでください」


譲は悪口はしっかり覚えてしまう方なのでこのセリフは忘れないだろう。


「とにもかくにも、君は入学してすぐにチェンジリングと縁を結んだ。その影響で誘うものとも結ばれてしまったのだろう」

「いや、信じられないけど、信じるしかない、ですよね…」

「君自身の顔を見ればそうだろうさ」


言う通りだ、自分の顔が真実を物語っているのだから譲は信じざるを得ない。本当に信じざるを得ない状況になった。

ただ最初に縁が結ばれたチェンジリングとは縁切りできたが、誘うものとの縁はどうなったのだろうか。譲はこのまま縁がつながってしまえば人間じゃなくなる。


「あの、もう一つの、誘うものとの縁は切らなくていいんでしょうか」

「おや、すでに怪異について慣れてきたかね?」

「いえ、まったく」

「案ずることはない、誘うものに導かれ導かれた目的を果たした。ここについた時点で君と誘うものの縁は切れているよ。現に噂話をしたいとは思わないだろう?」

「あ、たしかに…」


ならば譲の怪異との縁はこれですべて切れた、ということで間違いなさそうだ。


彼曰く、チェンジリングと縁を持ったことにより若干の記憶の混濁が見られてさっきまでの顔を自分の顔と思い込み、以前の顔を忘れてしまっていたのだとか。自分の顔を忘れるようなことを若干とは言い難いが。

現に譲も話していくうちにだんだんと記憶につじつまが合うようになっている。この嫌に整った顔が嫌で前髪を伸ばしている、だとか。そういう細かい情報まで思い出せるようになっていた。


「あの、ありがとうございます、縁を切って頂いて…」

「いやいや構わない、私たちが出会ったのも何かの縁だからね」


そう言って眼帯少年は懐から青いお守りを取り出し渡した。


「先にも言ったが、一度縁持となればまた同じ怪異や他の怪異に干渉されやすくなる。このお守りは君を守ってくれるだろうから持っておくといいよ」


受け取ればどこかひんやりとした感触がする。しかもお守りにしては重いと感じるため、石か何かが入っているのだろうか。


「あ、でも、僕お金持ってなくて…」

「金?私が金を要求しているように見えるのかい?」

「え、えーと…」

「必要ないさ、それは入部祝いだから」


「はい?」


聞き間違いなのだろうか、譲は新しい顔の目をこすり、眼帯生徒を見据える。目の前の彼は先ほど同様のにっこりと気持ちの良い笑顔を携えていた。どうやら聞き間違いではなさそうなのが余計に怖い。


「僕、入部するなんて一言も、」

「おやおや、僕にタダで縁切りさせておいてそんな薄情なことを言うのかい君は」

「え、さっき何かの縁だからって」

「お金はいらないよ。君が入部してくれるのなら、ね」


絶句した。この短時間で2度絶句した。

これは一種の脅しではないだろうか。何か抜け出せる道はないかと必死に頭をフル回転させること0.3秒。

なかった。何も。

だって譲は彼に助けてもら分ければ、下手したらずっと元の顔に戻れなくなっていた可能性もあるし人間じゃなくなる可能性もあった。それを打破してくれたのが目の前の彼だ。そんなとらえ方によっちゃ命の恩人でもある人のことを脅しだなんだと難癖付けてこの状況を抜け出せる術はと度胸と恩知らずは持ち合わせていなかった。


「この学園で唯一怪異を祓い縁切りできるのは私だけだ。一度縁持となった君は私の傍にいることが一番の安全だと思うのだけれど、どうかね?」


そう言って机の引き出しから一枚の紙を取り出しボールペンと一緒に渡してくる。よく見なくてもわかる入部届だ。

一番上には「探偵同好会」と書いてある。正確には事務所ではなく同好会であったという事だ。

その下の段には「部長:2年10組 業願時ごうがんじ うろこ」と書かれていた。この眼帯生徒はどうやら譲より先輩だったらしい。


この人の言う通りだ。これから先、譲が望まなくても怪異は譲に近づいてまた縁を結んでしまうかもしれない。そのとき譲一人ではどうすることもできないのは明白だった。イコール、ここで入部するほかに怪異から逃れる手段はない、ということだ。


譲は意を決してボールペンを持つ。学年、組、名前を記入し、その下の問い。入部しますのチェックボックスにレ点を入れる。


「ほう、由川譲くんというのか」


顎髭なんて生えてないのに撫でながら紙を覗き込んでくる。すべての欄に記入し終え、目の前の部長へ渡す。


「それでは今日からよろしく頼むよ、助手のユユくん」


夕日に照らされている口元がすがすがしく弧を描く。にんまりと、三日月を作って。


由川譲15歳、変なあだ名をつけられて探偵事務所の助手になってしまいました。


これはそんな僕が、こんな変な名前の変な部長とたくさんの怪異と悩みを解決、否、何とかしていく、そんなお話。

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