第47話 君は僕に似ている
妖魔の群れの右に向かった剛に対して、希美は左に向かい長剣の特装器を振るっていた。
〈炎刃!〉
長剣に3m程の炎を纏わせ、一薙ぎで10体以上の妖魔を屠って行く。体長3mを誇るトロルもその炎で脳天から真っ二つに切り裂かれる。
(何だろう……剛じゃないけど、この4か月で想像以上に強くなっている感じ……)
希美は剛の異常な成長曲線を感じていると同時に、自分自身の成長曲線も異常なカーブを描いているのを感じていた。
特技を使う際に特装器に籠める法力が、以前――剛達と模擬戦を始めるより前――に比べて多くなっているのを実感していた。
希美は剛の特技により、奥に居るトーニ生の安全が確保された事を確認すると、特装器に希美の最大の特徴と言える個性――黒の法力を込め、特装器の長剣を振るう。
〈法力吸引〉
希美が指定した範囲に居るゴブリンが、コボルドが、オークが力無く倒れて消失する中、トロルは流石に倒れる事はなかったが……倒れてはいないのだが、強引に力を奪われたため歩く事もままならない様子であった。
そこに法力吸引で集めた法力を特装器に籠め、斜めに振り下ろす。
〈追放〉
希美が視界に捉えている3体のトロルは特装器から発生した黒い霧のような物に包まれると、黒い霧と共にトロル自身も霧散する。
これで今いる30m四方程度の中庭において自由に行動できる妖魔は1体も居なくなり、剛が発動した群生蔦で囚われている30体程度のみが残っている状況であった。
戦っている間にトーニ生は負傷者を保護しながら安全な場所に退避したようで、剛が溶岩弾で囚われている妖魔を纏めて、群生蔦ごと焼き払っていた。
「ここは終わったみたいね」
希美が剛に声を掛けると、剛は頷いて辺りを見回す。
「次は……向こう、か。急ごう」
剛は妖魔の発する奇声が聴こえる、南側の建物の先を目指す事にして駆け出すと、希美もその意見に同意して剛に続いて南側に向かう。
建物の間を抜け、剛と希美は東西に400m程続いている並木道に出ると、そこには大量の妖魔――500体を超える大群が闊歩していた。
希美が妖魔の群れに横合いから斬り込み、剛は希美に続いて小型妖魔をハルバードの柄で殴り飛ばすと、東側――並木道が100m程で突き当たる――に居る妖魔の先頭に群生蔦を発動させて動きを止める。
先頭の妖魔が足止めされて壁になる事で東側の妖魔の動きが阻害された事を確認し、希美は西側の妖魔に対して飛翔斬を放ち、数を討ち減らす。
その刹那、地上と上空の2方面から何かが二人に急速に接近してきた事に気付き、希美は地上の何かを、剛は上空の何かを特装器で斬り払うが、明らかに受け流された感触に警戒の色を濃くする。
希美が長剣で斬り付けた地上には、猿のように四つん這いで構えて攻撃の隙を伺っている、目が正面2つだけでなく耳の上に左右1つずつあり、大きく裂けた口から泡を吹いている男の姿。
剛がハルバードで斬り付けた上空には、蝙蝠のような羽を背中に生やして目を輝かせている、幅3cm、長さ1m程の凶器のような手の爪を蠢かしているやたらと顔が細長い女の姿。
猿のような地上の男を警戒している希美が、静かに剛に声を掛ける。
「修羅……ね」
顔の細い上空の蝙蝠女を警戒している剛が、静かに希美の声に応える。
「ああ、修羅、だな……」
新宿御苑では痩せぎすの、顔を巨大化させて飲み込もうとした修羅と対峙した剛と希美であったが、今回は2体――しかも女の方は空を飛んでいる――現れた上に、まだ並木道の西側の300体を超える妖魔は自由に動ける状態であった。
(流石に……厄介だな……)
2体の修羅との10秒程の睨み合いの後、剛と希美は先手必勝とばかりに同時に動き出す。
〈炎刃!〉
〈岩石弾!〉
希美は一歩踏み込んで猿男に炎を纏わせた長剣で斬り付けると、猿男は跳躍し――何も無い空中で三角飛びの要領で跳躍の角度を変え、耳元まで裂けた大きな口を開いて希美に食らい付こうとする。
素早い動きで希美に迫る猿男を、希美は左に飛び跳ねて避けると振り返り、再び斬撃を見舞う。
剛は蝙蝠女に向けて10個程の拳大の石を放つが、蝙蝠女は空中でひらりとバク転のように回転しながら、避けられない石礫を刀のような巨大な爪で剛に弾き返す。
弾き返された岩石弾を、剛はハルバードで弾いて構え直し、蝙蝠女と再び正面から対峙する。
剛が猿男と睨み合っている希美を横目で見ると、希美も剛を横目で見て頷く。
先に動いたのは希美。特装器に法力を込めて猿男に向けて特技を放つ。
〈飛翔斬!〉
圧縮された空気の刃が猿男に向かって風切り音を残して飛翔するが、猿男は先程と同じように跳躍して三角飛びで希美に迫って来る。
〈岩石弾!〉
剛は希美に僅かに遅れたタイミングで、再度岩石弾を発生させて蝙蝠女に放つ。
蝙蝠女は今度は急上昇して全ての石礫を回避し、蜻蛉返りすると急速に剛に迫って来る。
((今だ!!))
剛と希美は立ち位置を素早くスイッチさせる。これによって、剛が猿男と、希美が蝙蝠女と対峙する形に変わった。
〈土剣山!〉
迫り来る猿男の軌道上に剛が無数の針を生やすと、猿男はまたもや三角飛びで軌道を変え、剛の左側面から牙の生える口を大きく開けて宙を駆ける。
左手に特装器を持ち換えて猿男に向けると、剛は法力を込めて特技を放つ。
〈溶岩弾!!〉
剛は新宿御苑で発動させたように、小指の先程の無数の溶岩を発生させ、弾幕のように猿男に向けて放つ。
数十発の溶岩の弾幕を猿男は全てを回避する事が出来ず、自慢の三角飛びを産み出す両足を貫かれて腐肉が焦げる臭いが漂う。
軌道を変える事が出来なくなった猿男に向けて、剛はハルバードの穂先を突き出すと、硬い物に突き刺さる感触を手に感じた。
〈空気矢!〉
希美は宙を切り裂いて向かってくる蝙蝠女に100を超える見えない矢を放ち、飽和攻撃を行って回避不能な状況を作る。
蝙蝠女は刀のような爪を振るって致命的な部位に向かってくる矢を打ち消すが、羽を切り裂かれて墜落するところに、希美が走り込んで長剣を振るう。
〈紅炎刃!!〉
希美の上空を舞う影は二つに分かれ、音を立てて地面に落ちる。
「な……何だ……あのバケモノ共は……」
剛と希美が修羅と戦う様子を少し離れた場所から見ていたトーニの教官――現役のSUAD隊員――は、血の気が失せた顔を驚愕に引き攣らせて呟いた。
教官が引き連れている10名程のトーニ生徒も、最早自分と同じ対妖魔特設校生とは思えない剛と希美の特技の連発に、戦いの手を止めて呆然と戦闘の光景を眺めているだけであった。
「希美、無事か?」
剛が振り返って希美の方を向くと、希美も剛に振り向いて頷く。
「ええ、剛も大丈夫?」
その希美の問い掛けに、剛も黙って頷く。
その時、妖魔の大群がまだ存在している方から乾いた火器の発砲音が聴こえて来た。
「SUAD本隊、か……」
希美が頷き、発砲音が聴こえる方を見ると分隊ごとに纏まったSUAD隊員が、特装器と通常火器を組み合わせて妖魔を徐々に制圧する姿が見えた。
他の場所でも鎮圧が行われているのだろうが、並木通りの妖魔はあと10分もあれば掃討される勢いだと剛は感じた。
「終わったわね」
「ああ、終わったね」
剛が希美の後姿を眺めながら応えると、希美が振り返って、哀しそうな――今にも泣きだしそうな――笑顔を浮かべる。
「貴方もこっち側に来てしまったのね……私と、似た者同士の……バケモノの世界に……」
第47話 『君は僕に似ている』 See-Saw




