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Limitless  作者: 神 賢一
第三章 Slipped Away

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第46話 Prototype

 夏休みも2週間が過ぎ、8月上旬に入っていた。

 平日は模擬戦や特技訓練を行っていたが、土曜日は奈緒が言い出してトーイチに集まり、課題を行う日となっていた。

 対妖魔特設校特有の自主活動は、特技科である事から模擬戦などを行っている事で自動的に消化扱いになっており、そのためだけに別途何かを行う必要が無いのは剛達にとって助かる状況であった。


 剛達はいつもの通り9時にトーイチの格技室前に集まり、端末で格技室利用を予約してから学食で弁当を注文した後、第3格技室に入っていた。

 先週の内に御魂に特技訓練を見てもらう事をお願いしており、今日は特に剛と翔の新しい特技習得を目的に特訓を行っている。

飛翔(leaping)(slash)!」

 希美が高頻度で使用する特技を翔が試してみるのだが、何かモヤモヤした空気の塊がふわふわと飛んで行く。

「困りましたねぇ。これでは妖魔にダメージは与えられませんね」

 相変わらずニコニコと笑顔の御魂が率直な感想を言うと、翔はぐっ、と唸って苦い顔をする。

「イメージが足りてないんだと思いますよ。もっとはっきりと『刃』をイメージしないと、拡散してしまいます」


 翔は目を閉じて、頭の中でイメージを練り直す。

(刃……刀の刃とか、もっと大きなの……そう言えば、こう言うのがあったな……)

 イメージしたのはアニメで見た事がある、ダンジョンのトラップの一種。巨大な斧の刃のようなの物が天井からぶら下がり、振り子のように行く手を阻むシーンを思い起こしていた。

(この刃だけを空気で産み出す……上下から圧縮して薄く……)

 翔は目を開けるとレイピア型の特装器に法力を込め、水平に鋭く振るう。

 〈飛翔(leaping)(slash)!〉

 空気を切り裂く音が聞こえ、30m先の的に横一線の溝が生じる。

 希美の技には劣るが、翔は飛翔斬を発動させるのに成功したのであった。


「やったな翔」

 剛は翔に向かって握り拳を突き出すと、翔は空いている左手でグータッチで返す。

「次は剛ちゃんだぜ」

 翔に言われて剛は的の前に進み出ると、特技が発動した状況をイメージする。

 イメージが固まると、剛は法力を込めた特装器を軽く振り下ろして、発動させる地点の中心を穂先で指す。


 〈土剣山(soil frog)


 剛が指し示した地点を中心に5m程の範囲で、地面からいきなり長さ2m程の針が数十本生えてくる。

 飛行型の妖魔には効果は無さそうだが、二足歩行や四つ足系の妖魔がその範囲に居たら串刺しになる……その光景を翔は想像して、えぐっ、とつい口に出す。

 発動した特技に剛は納得して頷く。これまでの剛の攻撃型特技と言うと、溶岩弾や火口炎のようにどうしても高熱を放つ特技が多く、市街地など延焼を避けるべき状況では岩石弾に頼らざるを得なかった。

 そう言う意味では、市街地や緑地帯でも使用しやすい範囲攻撃の土剣山を習得できたのは大きかった。


「トーフ卒業生じゃ無いのに1年生の夏休みで、6種類も特技を習得した生徒なんて初めてかもしれませんね。いやぁ、困りましたねぇ」

 口では困りましたと言いながら笑顔を崩さない御魂を見て、奈緒はブレない人だなぁと――自分の事を棚に上げて――思っていた。

 剛と翔は再びグータッチをして、奈緒と入れ替わろうとしたその時――


 ≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は目黒区駒場!推定妖魔出現数2,000体!校内に居る特技科の生徒は特装具を着用、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ!繰り返します!対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!……≫

 その場に居る全員に緊張が走る。今回は対妖魔警報では無く、対妖魔特別警報が発令された。アナウンスに合った通り2,000体程の妖魔が出現しているとしたら、夏休み中のトーイチ校内に居る特技科の生徒の数は多くないため、単独での鎮圧は難しい。

 幸いにして駒場であればトーニから徒歩圏内のため、恐らくは合同で妖魔討伐に当たる事になると思われる。

「皆さんはそのまま地下駐車場に移動してください。私も特装を用意して向かいます」

 4人は御魂の言葉に頷き、第3格技室を出て地下駐車場を目指して駆けて行く。


 地下駐車場に剛達が到着した後も、少しずつ集まって来る生徒の数が増えるが……100人に満たない人数であった。

 剛達に遅れて御魂もやって来て、状況の説明をする。妖魔は東京大学駒場キャンパスを中心に出現しており、やはり出現数は2,000体を超えると言う事であった。

 特装に身を包んだ生徒達は装甲輸送車の後部ハッチから順次乗り込むと、車両は地下駐車場から出発して首都高速中央環状線の初対南ICから首都高に乗り入れ、富ヶ谷ICを目指す。

 今回の作戦としては、練馬駐屯地からSUAD本隊が来るまでの30分程、妖魔を包囲して現存エリアから広がる事が無いように戦場をコントロールする事と指示されていた。

 やがて装甲輸送車は富ヶ谷ICから首都高を出て、東京大学の敷地内に侵入するとラグビー場と野球場の間に停車し、生徒達は後部ハッチから飛び降りてチーム編成を行う。


 剛が特装器を手に装甲輸送車から降り立つと、木々は圧し折られ、目の前に在る校舎は窓ガラスが割れ、外壁も至る所で抉られ、穴が開いていた。

 妖魔はキャンパス内に散らばっているようで、破壊音が激しい方向を希美が見定め、剛に対して頷くと駆け出し、剛は希美について駆けて行く。

 数秒も駆けると妖魔の群れが見え始め、二人は特装器に法力を込める。

 〈飛翔(leaping)(slash)!〉

 〈岩石(stone)(bullet)!〉

 希美と剛は遠距離戦で得意とする特技を使用すると、10体以上の小型妖魔が切り裂かれ、同等数の小型妖魔が弾き飛ばされる。

「あーあ、突っ込んでったよ」

 妖魔の群れに突進する希美と、それに続く剛を見た翔は、奈緒を手招きして援護のため追い掛けて行くのであった。


 奈緒がハンマーを振り回して次々と妖魔を弾き飛ばし、翔が飛行型妖魔を含めた残存を1体ずつ倒して塵に化していく。

「グゥレイト!数だけは多いぜ!」

「どこからそんな台詞持って来てんだよ!!」

 翔は覚えたばかりの飛翔斬を発動させて、上空から近寄って来るランクD妖魔のグレムリンを数体、また数体と切り裂く。

(確かにこれは数が多いな……)


 剛と希美は四方を建物が囲んだ駐車場のような場所――実際に数台の車が無残にも破壊されている――に妖魔がいない事を確認すると、その先の中庭のような場所を目指す。

 目指す先には100体を超える妖魔が30m四方程度の場所にたむろしており、その中には体長3m程のトロルが5体いる事と……その奥に恐らくトーニ生と思われる特装に身を包んだ10人程の特技士の姿が確認できた。

 その10人程の中には、妖魔との戦闘で負傷したのかぐったりとして動けない様子の者もいるのを目にした剛は、希美に声を掛ける。

「右に行く!」

「分かった!左ね!」

 掛けた声の通りに剛と希美は左右に分かれ、100体超の妖魔を2人で挟撃――本来2人対100体なら逆に包囲されるのだが――を始める。


 〈土剣山(soil frog)!〉

 剛は特装器に法力を込めて今日初めて発動させた特技を早速使用すると、ターゲットにした一番近いトロルを中心に半径5mに2mの針が地面から生え、範囲内の妖魔を串刺しにして塵に変えて行く。

 視界が開けたところで、剛は負傷者を含む10人程がいる場所近くの妖魔に狙いを定める。

 〈(ivy)生蔦(cluster)!〉

 地面から生えた無数の蔦は妖魔を絡め捕り、ダメージこそ無いもののその場から動けないように釘付けにする。

「ここは任せて、今のうちに負傷者連れて退け!」

 トーニ生達に声を掛けながら、剛はハルバードを振るい妖魔を消し飛ばしていた。

第46話 『Prototype』 石川智晶

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