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Limitless  作者: 神 賢一
第三章 Slipped Away

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第45話 ささやかな奇跡

 夏休みに入った剛達は、休みに入る前に決めた通り朝9時に総合舎から格技棟への入口前に集合していた。

「じゃあ先にお昼の注文してから、格技室に入りましょう」

 格技棟の入口には格技室利用の予約端末があり、利用状況を確認して希美が今日は第7格技室を既に予約していたのだった。

 4人は連れ立って学食に向かい、昼の弁当の注文を終わらせて来た道を戻り、予約してある第7格技室に向かった。


 今日はこれまでにやった事が無い模擬戦、と言う事で、剛・翔ペア対希美・奈緒ペアでの対戦を行う事にする。

 軽く体を動かした後、チームでミーティングを行って戦術を確認、終わり次第対戦開始の運びとなる。

 両チームの主力である剛と希美が前に出て戦う事を想定していたが、希美ではなく奈緒が前に出て来たことでパワーファイターによる強力な殴り合いの予感が生じる。

「じゃあ、始めるよ」

 剛のその声で奈緒がハンマーを大きく振り被って振り下ろそうとするが、その大きな隙を剛は見逃さずポールアックスを突き出す。

 突き出されたポールアックスは希美の長剣により切り払われ、翔が希美の側面を突こうと左にステップした所、奈緒が振り上げたハンマーを強引に軌道を変えて翔を襲う。

 お互いに普段はマッチアップしないペアだが、そこは中学3年間クラスメイトだった者同士のペア。自然に息が合う様子で、激しい模擬戦を繰り広げるのであった。


 5分間の1戦目を終え、給水しながら4人は先程の模擬戦の感想を言い合う。

 パートナーに対する攻撃へのカットインのタイミングや方法、間合いの取り方、スイッチのタイミングなど、剛にとってはこれまでペアを組む事が多かった希美から、翔と共に戦う際のアドバイスを貰えるのは新鮮であった。

 希美から貰ったアドバイスを元に、剛と翔は動きを確認する。

 数分間、剛と翔が試している間に希美は奈緒に対して動きのダメ出しをしていた。


「じゃあ次は……俺と希美、翔と鈴木さんのいつものペアでやろうか」

 剛が模擬戦のペアを提案すると、翔が大きく首を振って拒否する。

「ムリムリムリ!こっち10人居てもムリだろ!!」

 横では奈緒がうんうんと頷いている。

 剛は情けない顔をしながら、助けを求めるように希美に視線を送る。

「じゃあ、剛と奈緒で組んでみて。私は本田くんと組みます」


 剛は希美の提案に困惑した。奈緒とは模擬戦で手合わせは何度も行っているが、希美のようにバディ状態での戦闘や、翔のように長年一緒に行動してきた訳ではないため、肌感覚とでも言うのだろうか、黙っていても入り込める空気は持ち合わせていない。

 仕方無い、と思い、剛は奈緒と戦術を打ち合わせる。

「鈴木さん、どう言う感じで戦いに入る?」

 ん~、と顎に指を当てて考えた奈緒は、顎に当てていた指を立てて剛に突き出す。

「あたしが前でブンブンやるから、彼ぴっぴは援護よろ~♪」

 理に適っているのかも知れないが、気が抜ける奈緒の言い方に剛は軽く溜め息を吐く。


 2回目の模擬戦が始まると、希美の長剣と奈緒のハンマーがぶつかり合う。

 得物の重量の関係で手数が多い希美の剣戟を、奈緒がハンマーを小刻みに動かして受けている所に、翔が隙を伺って細剣で突きを入れようとするが、剛がポールアックスの斧頭で絡めて防ぐ。

 翔の細剣を希美の長剣の軌道にぶつけようと剛がポールアックスを動かすと、その意図を呼んだ希美はサイドステップで軌道をずらして奈緒に斬り付ける。

 剛としては良く知っている希美との激しい読み合いが続き、それでいて奈緒の動きを阻害せず、翔のトリッキーな動きにも対応すると言う、難易度が高いミッションが暫く続くことになった。


 5分間の2戦目が終わると、1戦目に比べて剛はかなり疲れた様子だった。

 希美、翔、奈緒の3人はおおよそそれぞれの戦い方をしていたのに対して、剛はその3人に対するリアクションの形で戦い続けていた事から、いつに無く神経を使う必要があった。

 剛にペットボトルを渡す翔は、剛の様子を見て半ば心配、半ば呆れで声を掛ける。

「剛ちゃん、マジ疲れてるね……大丈夫か?」

 剛は翔から差し出されたペットボトルを受け取るとキャップを開け、二口程飲み下す。

「いやぁ、想像してた以上に俺と鈴木さんのペアは相性が良くないよ。小回りが利き辛い者同士だからね」

 だろうね、と翔は思う。ポールアックスにハンマーの組合せだとパワーでは圧倒できるかも知れないが、剣に比べると取り回しはかなり悪い。

 その中で互角の戦いを――しかも相手の一人は希美に対して――繰り広げた剛は、翔からすると既に異次元レベルと思えた。


「ペアを組む相手との相性が大事なのは、今の剛と奈緒の戦い方で良く分かったでしょう。やっぱり奈緒からしたら、本田くんと組むのが一番相性良いし」

 希美の言葉を聞いた翔は、戦闘における相性と言う点では全くもって正しいだけに、心底うんざりした顔――コイツのお守りかよ、と言う思い――をする。

「じゃあ俺の場合、希美との相性が一番良い、と言う事なのかな?」

 その剛の言葉に対して、希美は軽く首を振る。

「私と剛の場合、1人で既に完成された戦いが可能だから、ペアを組んだ相乗効果は余り無いわね。純粋に1+1=2、と言う感じが分かり易いかしら」

 言われてみると、剛も希美も特技による遠距離攻撃が可能で、得物の長さは違うが近距離では直接特装器を振るう事で対処できる。

 対する奈緒と翔の組合せは、パワーに優れるがモーションが大きく近距離攻撃のみの奈緒を、パワーで言えば4人の中で一番低いが小回りが利き、遠距離もカバーできる翔はパートナーとしてうってつけである。


「中の人入れ替えてくんねぇかなぁ」

「中の人などいない!」

 言い合う翔と奈緒を見て、剛も希美もまた始まった、と苦笑いで顔を見合わせる。

「信じられないかも知れないけど……中学の時までは、こんな性格や言動じゃ無かったのよ」

 その言葉に、剛は驚愕で目を見開いた顔で希美を見る。

「え、それって……俺達が原因……?」

 希美は薄らと笑みを浮かべながら、軽く首を振る。

「原因、と言うのとは、ちょっと違うかな……奈緒くらいしか友達と呼べる相手がいない私に、奈緒なりに気を遣ってくれている部分があるんじゃないかと思うの。剛と本田くんに馬鹿な事言って、私に馴染んで……逆かな。私が馴染むようにしてくれているんじゃないかって」


 すぐ隣で希美が首を振った事で、ポニーテールに纏めた髪が揺れ、髪が纏う香りが剛の鼻腔をくすぐる。

 希美の過去について、剛は以前本人から聞いていた。またこれまで[転生]を繰り返してきた中で、希美に対する情報も少なからず収集していた。

 孤高の存在――言い方は格好良く聞こえるが、余りの実力の違いで疎外されていた……それこそバケモノ(・・・・)として、腫物に触れるような、周りはそんな態度の者ばかりだった。

 その希美には、今では肩を並べて共に戦う人が、奈緒だけでなく剛、翔と、4人もいる。


(ひょっとしたら……剛の中の過去の私は、奈緒以外に背中を任せられる人はいなかったのかしら……)

 トーイチに入学して直ぐに剛と翔に出会い……剛達の方からやって来たのだが……気付けば4人で居るのが日常となっていた。それが仮に、剛が口にした[タイムリープ]――剛が何度もこの時間を過ごしてきて、希美と関わる事を決め、実際に関わってきたと言う、常識では図れないお伽噺とぎばなしが事実だと言うのであれば、それは――

(奇跡、なのかしら……)

 希美はその奇跡を起こしている、隣で並び立つ人の顔を眺めるのであった。

第45話 『ささやかな奇跡』 鈴木祥子

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