第159話 HEAVEN'S DRIVE
〈炎刃!!〉
剛との戦いに集中していた天道に対し、元町通りから駆け寄っていた希美が背後から襲い掛かり、5mを超える炎の刃を天道に叩き込んだ。
天道としては飛翔斬が飛んで来た時にその方向にも特技士がいる事に気付いていたが、剛の存在に目を奪われ半ば失念していた。
メイスで辛うじて炎の刃を受け止めたが、斜め後ろに振り返った事で後背が隙だらけになっており、天道は焦りながら炎刃に押し込まれた反動を利用して左に飛び去ると剛の突きが天道がいた空間を斬り裂く。
回避したと思った天道であったが浅くではあるが脇腹をハルバードの突起に斬り裂かれ、そこから青黒い体液が噴き出した。
反転して二人を視界に収めると、そこには苦悶の表情の欠片も無く、目を爛々と輝かせて愉悦に塗れた様子で蛇のような長い舌で舌なめずりをする。
剛と希美は左右から同時に天道に向かって駆け寄りながら特装器を振るうと、どちらも受けるのは無理と判断した天道はバックステップで回避するとメイスに法力を込めて前に突き出し、光球を発生させると法力を更に込めて巨大化させようとする。
剛は重量のあるハルバード型の特装器を振るった勢いのまま跳躍して一回転すると天道が発生させた光球に斧頭を叩き込み、光球は煌めく飛沫と砕けると爆風を巻き起こして剛も天道も吹き飛ばされる。
「剛!!」
「大丈夫だ!まだ終わってない!!」
受け身を取って一回転した剛は片膝立ちから素早く跳ね起きると距離が開いた天道に向けてハルバードの穂先を向ける。
〈溶岩弾!〉
150個を超える煮え滾る溶岩の銃弾は、吹き飛ばされて起き上がろうとしている天道に向けて曳光弾のように尾を引きながら殺到する。
天道は地面を転がりながら避けるが避け切らずに、左腕と左足に数発ずつの直撃を受けてのたうち回る。
好機と見た剛と希美は天道に追撃するため駆け寄るが、地面に這い蹲りながらも天道はメイスを振るい破砕光球を幾つも放ち、剛達が二の足を踏んでいる間にメイスを杖に立ち上がる。
「うひっ……うひひ……ひひやほーーーーぃ!!楽しいねぇーーーー!!たのしーーーーじゃなーーいでーーすかぁーーーーーーーー!!」
天道はギラギラした目を最大に見開きながら、被弾した左足を引き摺り左手をブラブラとさせながら、剛と希美の方に向かって歩いて来る。
「やっぱり一番のバケモノはコイツだな……希美、念のため、頼む」
「分かった。始めるわ」
希美はその場に左手を突いて立ち上がると、天道の真後ろを取るように一定の距離を保って円を描いて駆け抜ける。
剛は天道と激しく討ち合いを続けていた。十合、二十合、三十合……討ち合っているうちに天道は溶岩弾で受けた傷が徐々に癒えてきたのか、引き摺っていた左足は地面を蹴るようになり、ブラブラと力無く垂れ下がっていた左腕はメイスに添えられて力強さを増す。
準備を終えた希美も加勢して剛と二人掛かりで天道に討ち掛かるが、狂気に満たされた天道はその狂気を力に変えるが如く一撃一撃が重みを増していき、弾かれるたびに体勢を整える時間が僅かながら必要となっていた。
(くそっ、このままじゃ体力を奪われるだけだ……何か別の手を考えないと)
希美が天道に真っ向斬りに討ち掛かると天道はメイスで弾き返し、そこに剛は右手一本で突きを入れるとメイスで受け流したその瞬間を逃さなかった。
〈破砕光球!〉
突きを受け流された事で天道との距離は手を伸ばせば触れられる程の近さから、剛は天道の胴に向かって瞬時に煌めく球体を打ち出す。
距離からして天道の腹部に大穴が空く、と確信していたのだが、天道はごく僅かな間で体を捻じり、破砕光球は天道の右脇腹を削って背後の妖魔に衝突して爆散する。
「うごあががああぎぎいぎぎぐうおぉーーーーーーー!!」
脇腹から大量のどす黒い体液を噴き出しながらも、天道はのたうち回りつつ地面を転がって剛からも希美からも距離を取る。
吉祥寺通りの路上には腐臭を放つ天道の体液の帯が生まれ、剛も希美も余りもの臭気に眉を顰めながら天道に向けて特装器を構え直す。
天道は不意の追撃を防ぐために光防壁で身を護りながら立ち上がると、脇腹から吹き出続ける体液を気にする素振りも無く右手でメイスを振るって光防壁を自ら粉砕し、剛と希美を左右の目で同時に見詰めて恍惚の表情を浮かべた。
「ひっ……ひひっ……ひひひひひ……イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒーーーー!!!たーーのしーーーじゃないかーーーーーー!!!!」
天道がメイスに法力を込めて振り被り、剛達に向かって駆け寄ろうとしたその瞬間であった――
〈煌矢!!〉
吉祥寺大通りの突き当りである五日市街道の妖魔を奈緒と共に殲滅して吉祥寺通りを南下してきた翔の放った光の矢の1本が、天道の右肩に直撃すると爆散してメイスごと天道の右腕を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた己の右腕を愉悦の表情のままゆっくり眺めると、天道は表情を変えずに希美、剛、翔と奈緒の順に大きく見開かれて瞳孔が無い目で眺めた。
「イィーーーーーーヒッヒッヒッヒヒヒヒヒヒキョエーーーーーーーーッキョッキョッキョッキョキョキョキョキョーーーーーーー!!!!増えたーーーー!!増えた増えた増えた増えた増えたーーーーーー!!!!もっと!!もっともっともっともっともっとーーーーーーーー!!!!!!あーーーーそーーーーびーーーーまーーーーしょーーーーーーー!!!!!!!!」
天道の体から目を晦ますような眩い光が沸き立った瞬間、希美は悍ましさを直観して右手を地面に付けて法力を流す。
〈深淵の監獄〉
ギリギリの位置……天道が希美が放つ特技の僅か30cm内側に居る状態で、四ケ所に黒い渦が巻き上がると高さ4m程の黒い柱に変化し、柱同士を繋ぐ黒い水平の糸が10cm間隔で張り巡らされると、最上部も格子状に意図が張り巡らされる事で、天道を捕らえる[檻]は完成する。
だが、尚も天道は湧き出す光を抑える事無く奇声を発し続け、臨界点を迎えたかのように光の粒子は収束して恒星のような輝く光の点となる。
〈――聖なる浄化――〉
天道の意志とは関係無く発動したその特技は全てを消し去るかのような暴力的な光の嵐を巻き起こすが、深淵の監獄はその威力を外に漏らす事無く中に封じ込め続け、光の嵐は天道にのみ襲い掛かり続けた。
光の嵐が収まった深淵の監獄の中には――
「グオォォーーーンッゥゥゥンヌァーーーーッヒィィョォーーーーーンッッゥワァッルゥーーーーーーンゴォーーーーーーービィーーーーーーーーッャァーーーーーーーーーンヌッォーーーーーーーーーーエェーーーーーーーーーーーーッウゥンガッーーッ!!!!!!!!」
最早意味のある言葉を発する事無く奇声だけを上げる、天道が……首から上だけが己のどす黒い体液塗れで、深淵の監獄の中に転がっていた。
その光景には剛も、希美も、翔も、そしてさしもの奈緒ですら絶句するだけであった。
剛達4人と深淵の監獄がある場所に向かって10名程の足音が近付いて来るのだが、歴戦のSUAD隊員である彼らもその光景に「これは何だ?!」「うげぇ!!」「き……気持ち悪い」などと口々にしており、余りものグロテスクな光景に嘔吐する者が半数ほどにのぼった。
(この状態で……まだ……死なない……生きている、と言うのか……?!)
人――いや、普通の生き物であれば絶対にありえない、首だけがケタケタと笑いながら奇声を発し続けるその悍ましい光景に、4人は震撼する事しかできなかった――
第159話 『HEAVEN'S DRIVE』 L'Arc~en~Ciel




