表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

第11話 家族

「やーおはようー松永。今日から新学期だな」

「おはよう?」


夏休みが終わり、教室に入ると安浦くんが絡んできた。

彼とは一度も話したことが無いな。

突然声を掛けられて驚く。

どうしたんだろ一体?


「おまえ、この間…榛名湖行っただろ。いいなぁー可愛い女子二人とデートかぁ?」


肩を叩かれる。

あー。

見られていたのか。

偶然同じ日に居たのだろう。


「因みに池谷と、川部も見てた。言い逃れは出来ないからな」


「デートじゃなくて、三人で遊びに来ていただけだけど」

「くっそー。羨ましい。おれにも一人寄越せよ」


安浦くんは下卑た風に笑う。


「あみは物じゃないのだがな…」

「中嶋さんを下の名前で呼ぶとは、ずいぶん親しいんだな」


「だって幼馴染だし」

「へえーそうだったのか。じゃあ、もう一人の銀髪美人はどうだ?」


「俺の彼女だよ」

「なん…」


安浦くんが口を開いて固まる。


キーンコーンカーン・・・。

始業のチャイムが鳴った。



「「――松永、後で詳しく聞かせてもらうからな。覚悟しとけよ!」」


安浦くんが大きな声で叫ぶ。

今日は、二学期初日なので授業はなくて講堂に移動する事になっている。

部活動がある人は残るかもしれないけど。







放課後。

始業式が終わり、早い時間で学校は終わった。

帰り支度をしていると、隣のクラスからあみが訪ねてきた。


「裕也、一緒に帰りましょ?」


「おう、君が中嶋あみだな?」


そのタイミングで、安浦くんがあみに話し掛けてきた。


「そうだけど…何の用かしら?」

「安浦くんがさ、榛名湖で俺たちを見掛けて、羨ましくなったらしいよ。デートだと思ったらしくて…」

(三人いる時点でデートだと思わないだろう。普通)


「あーあの時いたのね。彼の姿を見なかったけど…」

「おれは、ちょうど池谷たちと車で帰るところだったからよ。車内から見ていたんだ」


「中嶋さん、おれと友達になってくれないかな」

「えー?どうしよっかな」


俺の隣の女子が、首を振りやめておけとジェスチャーしている。

あみは首を傾げているな。


「中嶋さん、安浦くんには悪いけど、止めたほうが良いわよ」


「おい!山辺、邪魔すんじゃねえよ」


安浦くんは、山辺さんを突き飛ばした。

ずいぶん乱暴だな。


「大丈夫か?」


とっさに俺は駆け寄る。

女子は脆いんだ、怪我などしてなければ良いが。


「ありがとう、松永くん。…安浦くん、そういうところよ。中嶋さん、ほら松永くんと全然違うでしょ?」


俺の名前がいきなり出てきた。

俺と比較されてもな。


「付き合うんだったら、松永くんがいいわ。優しそうだし。中嶋さんもそう思わない?」

「まあ、裕也は実際優しいわよ?でも残念ながら、彼にはもう彼女がいるのよね…」


俺とカモミールの関係は、すぐにあみにバレてしまった。

別に隠す事では無いのだが。


「ああ、そうなのね…」


女子たちがため息をつき、俺と、安浦くんを交互に見る。



「そういえば、池谷と川部はどうした?まさか、もう帰ったのか?」


安浦くんはきょろきょろとあたりを見渡し始めた。

そういえば、いつも一緒にいる取り巻きが見当たらないな。


「何であいつら今日に限っていないんだよ。おれの良いところを中嶋さんに聞いてもらおうと思ったのに…くそ、使えねえな」


どうやらあみに好印象を持ってほしくて、友達を利用しようとしていたらしい。

俺たちは、家に帰る事にした。




      *




「ただいまー」

「おかえり、裕也。学校は早く終わったのだな」


エプロンを着たカモミールに玄関先で出迎えられた。

誰かが家に居るっていいものだな。

ホッとする。


「あれ…」


目の前がかすんできた。

目元を拭うと、湿っている。


「どうした…って何で泣いてるんだ??」


あれ…どうして?




***




三年前―———。


学校から、家に帰ると真っ暗で誰もいない。

家の固定電話から珍しく電話が鳴り、何か嫌な予感がした。

電話に出ると、警察からの連絡だった。


「父さん!母さん!うそだろ…」


電話は両親が救急車で病院に運ばれたとの知らせ。

俺はタクシーで病院に駆け付ける。

病院職員に案内された部屋に行くと、ベッドに横たわっている遺体があった。


「裕也…だいじょうぶか…」


声を掛けられ、親戚の叔父さんが居る事に初めて気が付く。

遺体は損傷が激しく、顔の部分は辛うじて判別できる程度だったらしい。

その時の記憶は憶えていない。


俺は叔父さんに、一緒に暮らさないかと誘われたが断った。

もう、高校生になるしこの家から離れたくなかったから。


思い出のある家から…。





「ユウヤ?」


カモミールが俺の顔を覗き込んでいた。

どうやら、心配させてしまったらしい。


「ごめん、ぼーっとしてた。少し前の事を思い出していたよ」


今は一人じゃない。

カモミールが家に居てくれる。


「疲れているなら休むか?…早く帰って来ると聞いていたから、お昼ご飯を作ってみたんだが」

「良い匂いがすると思った。この世界の道具にまだ慣れないだろ?別に無理しないでいいのに」


「…味は保証できないけどね」


エプロンを付けて、照れているカモミールは新妻みたいだ。

こんな可愛い奥さんを貰ったら幸せだろうな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ