40.王子、これからも監視役です ※一部父親視点
「ルシアン様、私やりましたよ?」
戻ってきたリリナは、アースドラゴンの上で私をジィーと見つめている。
まるで褒めてほしい犬に見えるのは気のせいだろうか。
「どうせ魔物と手合わせしてきたんだろ?」
アシュレイの言葉にリリナは首を傾げていた。
「魔物……そんなのはいなかったですよ。期待していたのに虫ばかりでした」
「虫……はぁー」
アシュレイは大きなため息をついていた。
きっとリリナは虫系の魔物をただの虫と勘違いしているようだ。
アースドラゴンをトカゲと呼び、グリフォンをニワトリと呼ぶぐらいだ。
まだ、オーガのことをゴブリンって認識しているのが幸いだろう。
最近はオーガたちも自分のことをゴブリンだと思ってきているからな。
あんな巨体なゴブリンがいたら、たまったもんじゃない。
「それでどうやってブレーメンの家族を助けてきたんだ?」
まずはウラギールで何があったのか確認する必要がある。
場合によっては褒めるよりも、怒らないといけないからな。
「えーっと、騎士に囲まれて……あっ、騎士団長を牢屋に入れてきました!」
「「「はぁん!?」」」
唐突な発言に私たちはブレーメンを見ると、顔を横に振っていた。
ブレーメンが見てないところで、何か起きたのだろう。
「やはりウラギールは裏切るからきてますよ。それに魔物と言ったら……あの男、魔物みたいに気持ち悪かったです」
「気持ち悪かったです!」
リリナは何かを思い出したのか、その場で震えている。
そこにブレーメンの娘が抱きつき、二人で身を寄せ合っていた。
「私じゃなくて幼女でもいいのか……」
「……ルシアン様?」
「ああ、話を続けてくれ」
ブレーメンの娘がリリナと楽しそうにしているところを見ると、感じたことのない気持ちに襲われる。
きっとペットが他の人と遊んでいる感覚に近いのだろう。
「えーっと……その魔物もどきがあまりにも気持ち悪くて……てへっ!」
うん……。
リリナは笑って誤魔化しているが、きっと何かやらかしたに違いない。
私たちはジーッとブレーメンを見ると、申し訳なさそうに口を開いた。
「キッショイ様の顔面を床に何度も擦り付けて、失禁するまで脅してました」
その言葉に私たちは息を呑むしかなかった。
最悪なことをリリナはやってきた。
運が悪ければウラギールと争いになるかもしれない。
「それでキッショイはどんな感じなんだ?」
「かなり怯えていたので、今すぐに何かすることはないと思います」
ブレーメンとリリナが一緒にいるところを見ていれば、少なからずリリナがセラフ側に付いていると認識している可能性が高い。
そうなれば簡単には手出しはできないだろう。
このままリリナを大々的に前に出して、圧力をかけるか迷うところだ。
だが、魔物を投げたり、明らかに地位が高い人物を気絶させておいて、何をやったのか理解していないやつを野放しにさせて良いのだろうか。
「ルシアン様、もしかして私何かやりましたか?」
リリナはしょんぼりした顔で私を見つめてくる。
全ては私が国王選定について説明をしていないのが原因だ。
「いや……リリナは何もしていない」
「本当ですか? ルシアン様に呪いをかけていたって言ってたからつい――」
「本当か!?」
私はリリナに詰め寄る。
もし、キッショイが呪いをかけていれば、解けるかもしれない。
この小さな体とおさらばできるなら、今すぐにでも呪いを解いてもらいたい。
「……ルシアン様」
「どうした?」
「ちちち……近いです!」
リリナの顔を見ると真っ赤に染まっていた。
私を抱きかかえた時はスマートだったのに、私から近寄ると恥ずかしいようだ。
「それで呪いについてなんだが……」
「ああ! ルシアン様の魅力に抜け出せなくなる呪いがかかってるって……あれ?」
リリナの話を信じた私は愚かだった。
そう簡単にこの呪いが解けるはずがない。
それに今この呪いが解けたら、リリナはどこかに行ってしまう気がする。
近くにいるブレーメンの娘に対して、チヤホヤしているぐらいだからな。
「まぁ、無事でよかったよ」
私は怪我もなく帰ってきたリリナの頭をそっと撫でる。
どこか嬉しそうなリリナを見ると、あれこれ悩むのがバカらしくなってきた。
「ふふふ、あれで撫でてもらえるならもう一回ウラギールに行ってこようかなぁ……」
私はこれからもリリナを監視しないといけないようだ。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「ああ、どうすればいいんだ……」
娘が家を出てから我が家は壊滅的な状況に陥っていた。
『リリナはどこだ!』
『オラはつまらんぞ!』
『こいつら全員食っちまうぞ!』
まずはリリナのペットである上腕三頭筋は遊び相手がいなくなると、暴走するようになった。
使用人やわしが食い止めるが、災害級の魔物と言われているケルベロスは止められない。
伝説の鉱石とも言われているネザライトコアを混ぜている外壁でも、少しずつ暴れて削れてきている。
それに止められないのは、上腕三頭筋だけではない。
「とりあえず国王を脅して、リリナがいなくなった落とし前をつけてもらおうか」
「兄さん、それだとリリナは帰ってこないです。まずはリリナを追いやった原因であるこの国を変えましょう」
「そうか……なら破壊するか!」
「それがいいですね!」
わしの息子たちはずっと物騒なことを言っている。
これでもこの国を守る守護騎士と呼ばれる存在だ。
守護騎士になれる者はごく僅かで、プロテイン公爵家のように全員が守護騎士なのが珍しいくらい。
そんなやつらが率先して、国を破壊する計画を立てている。
わしもだが、リリナのことになると息子たちはバカになるからな。
国は恐ろしい人物を敵に回したようだ。
「当主様、リリナ様の情報を掴みました」
リリナがいなくなってから、探していた執事長が帰ってきたようだ。
服がボロボロになっているところを見ると、リリナを見つけるまで過酷だったのが想像できる。
「それでリリナはどこにいたんだ?」
「リリナ様は――」
わしらはリリナを連れて帰るために……いや、国を守るためにリリナを探しに行くことにした。
これで一旦、この作品は完結とさせていただきます!
また、書籍化などの動きがあれば連載再開させていただきます。
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ここまで読んでいただきありがとうございました!




