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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第五章・迷い
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〝先生〟

 小泉先生とメールのやりとりをしている数日間は、久しぶりに病室にいる時間を楽しいものにしてくれた。放射線室へ行っても世間話が増え、ここが病院であるとは思えないほどだった。

 だが、そんな毎日も終わりを告げる。木曜の今日と明日、それと翌週の月曜日の三回で放射線治療は終了。当然、先生と会うのもそれで最後だ。


 私は先生のメールアドレスを知ってから、十数回目のメールを送った。

『また先生と、ゆっくり話したいなぁ〜。』

 時間が空いていたとみえて、十分ほどで返信が来た。

『そうだなぁ……。土曜日は夜勤だから、昼間は空いてるよ。』

『じゃあ、その時に話せる? 土曜日だから、外出れるし!』

『いいよ。じゃあ昼飯でも食べに行こうか? おいしいパスタの店があるから、連れてってあげるよ。』

『うん、行く行く! 楽しみだよ♪』

『じゃあ土曜日にね。』

 待ち合わせの駅の名前と時間を聞いて、メールを終える。外で先生と会えることに喜びを感じた私は、すでにシュウを心の奥へとしまい込みつつあった。


 土曜日はすぐにやって来た。外泊許可を取り、そのまま電車に乗って待ち合わせ場所へ向かった。そろそろ十二月、寒さも身に染みてくる季節だ。病室に置いてあった薄手のコートだけでは、外出するのに充分ではなかった。約束の時間よりもだいぶ早く到着してしまったので、寒さに身を強ばらせながら先生を待った。


 十分後、改札口の向こうに先生の姿が見えた。手を振る私に気付いて、先生も手を振り返してくる。

「おはよう、早いね!」

「おはよ~。外泊許可取ったのに、あんまり長く病室にいるのも変だから……」

「そうか、それもそうだね」

「ここの駅も使ったことないし、遅れたくなかったからね~」

「ゆっくりでも良かったのに。──ん? 随分と薄着だね。寒くないの?」

「寒いよ~! これしか持ってなかったからさ~」

「じゃあ早く行こう!」

「うん!」


 店は駅のすぐそばにあり、先生のおすすめのパスタ屋らしいのだが、男性が選ぶにしては可愛らしい外観の小さな店だった。店内に並ぶテーブルや椅子も可愛らしいものばかりで、壁の模様までも綺麗というよりは可愛い感じだ。

「可愛い店だね〜」

 ツッコまれることを期待して、少しニヤニヤしながら言ったのだが、

「うん、味もいいんだ」

 と、先生は店の見た目など気にもしていないように言った。


 席に着き、「何にする?」と先生がメニューを広げてこちらへ向ける。

「う〜ん、クリーム系がいいかなぁ〜。でもせっかくおすすめの店だし、先生に任せよっかな♪」

「じゃあ……あ、すいません。サーモンとほうれん草のクリームソースと、鶏肉とネギの醤油ソースで。あと、小皿二枚ください。──半分ずつ食べよう」

 一緒に注文した飲み物を飲みながら十分ほど待ち、熱々のスパゲティが運ばれてくる。小皿に取り分けて、お互い違うものから食べ始めた。

「おいし〜♪」

「だろ? いっぱい食えー」

 麺はちょうどいい硬さで、しつこさがなくあっさりしたクリームソースとさっぱりと香ばしい醤油ソースは、どちらもとても美味しかった。

 先生は食べることが大好きなようで、私の反応に気を良くして、いろいろと過去の美味しい食べ物の話をしてくれた。私も食べることが大好きなので、聞いているだけでますます食欲がかき立てられた。


 食事も終わってひと息つきながら、満足感に浸る。

「あ〜、美味しかった〜♪ やっぱり美味しいもの食べてる時が、一番幸せ!」

「ははは、良かった。デザートも食べる?」

「うん!」

「よし、じゃあ行こう」

「えー! わざわざ別の店行くの?」

「そうだよ。うまいパフェ、食べたくない?」

「……食べたいっ!」

「よし、行こう!」

(本当に好きなんだな〜。食べるの好きな人って、やっぱいいな♪)

 自分と合う趣味をひとつ見つけたことで、私はさらに先生に興味を持った。


 その店はデザート中心ということもあって、先ほどの店よりも可愛らしい店構えだった。ガラス窓の向こうに見える店内は、女性ばかりが席を埋めている。

(先生、この中に入って恥ずかしくないのかなぁ……)

 その光景を思い浮かべると吹き出しそうになったが、パスタ屋のことを思い出して、きっと気にしていないのだろうと思った。案の定、先生はまったく躊躇せずに店の扉を開ける。その行き慣れている感じが可愛らしく、私はにこにこと先生の顔を見ながら店へ入った。


 ここのパフェも相当な美味しさで、久しぶりに〝堪能〟という言葉がぴったりの食事をした。

「先生、すごいね〜。よくこんな美味しい店見つけるよ〜」

「んー、嗅覚が優れてるんじゃないかな」

「あはは、犬みたい」

「だとしたら、飢えた野良だね」

 そんな調子で楽しく会話をしていた……はずが、どこで流れが変わったのか、話は私の病気のことばかりになっていった。この先どうするのか、子供たちのために必要なのはどんなことか、再発に対する心構えはできているか……。

(先生……そんな話、今したくないよ……)

 確実に役に立つ話だと思うし、なんといっても相手は病院の先生だ。逆にこちらからどんどん質問するべきだろう。しかし、外に出たら病気の話をしたくないという気持ちは、誰と一緒にいても変わらない。それに、私の想いは初めから別のところにあるのに……。

 だがせっかく話してくれているのに、そんなことは言えない。大事な話だとわかっていながらも、「うん、うん」と相槌を打ちながら会話の半分以上は聞き流していた。

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