揺れ動く気持ち
翌朝、私は複雑な気持ちで約束の時間を待った。いろいろと考えを巡らせていると、あっという間に棚の上の時計の針は九時二十分を指していた。昨日のような気まずさを表に出さないように、何も考えず約束の場所へと向かう。
喫茶店に着くと、すでに小泉先生は座って待っていた。夜勤明けだというのに爽やかな笑顔で手を振ってくる先生に、思わずドキッとする。
「おはよう」
先生は私服だった。白衣を着ている時の凛とした先生と違い、今はどこにでもいる普通の男性だ。それが柔らかな雰囲気をさらに強調している。
「おはようございます。すいません、疲れてるのに……」
「大丈夫だよ。何飲む? オレンジジュース? あ、喉痛いから駄目か」
「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
先生とは二時間近くも話した。治療のことや先生の仕事のこと、少しだけプライベートなことも。こうして話している先生はとても楽しい人で、放射線技師としての先生とはまた違う魅力があった。ユーモアもあり、例えるならシュウとヨウちゃんを足して二で割ったような、バランス感覚に長けた印象を受けた。それは先生とシュウをまったくの別人として捉えさせるとともに、私の気持ちを少しずつ揺り動かすことにもなった。
とても新鮮な気分だった。先生と話せば話すほど、シュウへの気持ちが薄らいでゆく自分がいた。
「不安なこととか相談したいことがあったら、いつでもメールしてきていいよ。まぁ、すぐには返せないと思うけど……ちゃんと返事はするからさ」
〝いつでも〟〝ちゃんと〟──今の私に、その言葉は反則だ。先生にはシュウのことなど話していないのに、まるで気持ちを見透かされたようだった。
「……うん。ありがとう、先生」
先生と別れたあと、私は思った。
(もっと話したい。先生のこと、もっと知りたい……)
その晩から、何かきっかけを探しては先生にメールをしていた。確かめたいという気持ちもあった。本当に〝いつでも〟メールして平気なのか。本当に〝ちゃんと〟返事をくれるのか。……先生は本当のことしか言っていなかった。
ぐらぐらと、激しく揺れ動く心。シュウのことより、小泉先生のことを考える時間が増えていった。




