ためらい
放射線治療が始まって半月が経った。照射もあと半分で終わり、その後の検査結果が良好ならば退院となる。
(……退院、か……)
シュウとは相変わらず、繋がらない日々を送っている。最近は私からもほとんどメールを送らなくなった。
私は彼との別れを真剣に考えていた。一番大きな理由は、わけもわからずに会えない状態が続いていること。ついこの間までは彼を失うのが怖くて聞けずにいたが、今はそれに疑念が加わり苛立ちが募っている。
そのきっかけになったのは……小泉先生だ。先生と接すれば接するほど出会った頃のシュウを思い出し、それと先生を重ねてしまう。
私は先生ともっと話がしたいと思い、この日の治療後に思い切って言った。
「あの……小泉先生」
「うん、何?」
「え〜と……」
意識せずとも、教習所でシュウに手紙を渡した時のことが思い出される。──あの時もこんな感じだった。今回違うのは、もうひとつ別の気持ちが加わっていること。
(……ホントに、いいの? こんなことして……)
ためらいがないはずはない。私は、シュウが好き。今は寂しいだけ。会えなくて寂しいから、似た人と少し話をするだけ……。
「何? 質問?」
黙ってしまった私の次の言葉を、先生がせかす。
「あ、っと……え〜……はい。う〜……」
「……どしたぁ?」
困ったような苦笑いを浮かべる小泉先生。また口を閉ざした私のせいで数秒の沈黙が続いたが、先生は同じ表情のまま、今度はせかすことなく私の口が開くのを待っていてくれる。
(……そう、少し話したいだけ。ただ話すだけ……)
自分勝手な言い訳が、私を後押しする。
「……先生と、少しお話したいな〜、とか思って……。時間、ありますか……?」
「ん?」
「……」
脳裡に再び、教習所の記憶がよみがえる。──シュウはすぐに「いいですよ」と返事をしてくれた。
「……今日は無理だから、明日にしましょう。治療の時、場所と時間教えますね。それでいいですか?」
「あ……はい。ありがとうございます」
記憶との、少しのズレ。それが私をわずかに後悔させた。だが、言ってしまった言葉は取り消せない。心を雑然とさせたまま、翌日の治療を待った。
朝を迎え、昨日と同じ時間に放射線室へ行く。部屋の中へ入った瞬間、小泉先生と目が合った。私は気まずい雰囲気を全面に出してしまい、挨拶もまともにできなかった。きっと先生は勘違いしただろう。もしかしたら、昨日からすでにそうであったかもしれない。
治療後、先生は何も言わずにメモを渡してきた。
『実は今日、夜勤だったことを忘れてました。
明日は明けなので空いてます。明日の治療後でどうですか?』
私が直接話しづらいと思ったのだろう、そのメモには新しいメモ用紙とペンが添えられていた。勘違いであったとしても、そういう気遣いが私の心をくすぐる。私は少し離れた所で返事を書いた。
『はい、ありがとうございます。時間と場所、教えてください。』
それを渡すと、先生は近くに他の技師がいないことを確認し、小声で言った。
「じゃあ九時半に、一階の喫茶店で待ってます」