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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第五章・迷い
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ためらい

 放射線治療が始まって半月が経った。照射もあと半分で終わり、その後の検査結果が良好ならば退院となる。

(……退院、か……)

 シュウとは相変わらず、繋がらない日々を送っている。最近は私からもほとんどメールを送らなくなった。

 私は彼との別れを真剣に考えていた。一番大きな理由は、わけもわからずに会えない状態が続いていること。ついこの間までは彼を失うのが怖くて聞けずにいたが、今はそれに疑念が加わり苛立ちが募っている。

 そのきっかけになったのは……小泉先生だ。先生と接すれば接するほど出会った頃のシュウを思い出し、それと先生を重ねてしまう。


 私は先生ともっと話がしたいと思い、この日の治療後に思い切って言った。

「あの……小泉先生」

「うん、何?」

「え〜と……」

 意識せずとも、教習所でシュウに手紙を渡した時のことが思い出される。──あの時もこんな感じだった。今回違うのは、もうひとつ別の気持ちが加わっていること。

(……ホントに、いいの? こんなことして……)

 ためらいがないはずはない。私は、シュウが好き。今は寂しいだけ。会えなくて寂しいから、似た人と少し話をするだけ……。

「何? 質問?」

 黙ってしまった私の次の言葉を、先生がせかす。

「あ、っと……え〜……はい。う〜……」

「……どしたぁ?」

 困ったような苦笑いを浮かべる小泉先生。また口を閉ざした私のせいで数秒の沈黙が続いたが、先生は同じ表情のまま、今度はせかすことなく私の口が開くのを待っていてくれる。

(……そう、少し話したいだけ。ただ話すだけ……)

 自分勝手な言い訳が、私を後押しする。

「……先生と、少しお話したいな〜、とか思って……。時間、ありますか……?」

「ん?」

「……」

 脳裡に再び、教習所の記憶がよみがえる。──シュウはすぐに「いいですよ」と返事をしてくれた。

「……今日は無理だから、明日にしましょう。治療の時、場所と時間教えますね。それでいいですか?」

「あ……はい。ありがとうございます」

 記憶との、少しのズレ。それが私をわずかに後悔させた。だが、言ってしまった言葉は取り消せない。心を雑然とさせたまま、翌日の治療を待った。


 朝を迎え、昨日と同じ時間に放射線室へ行く。部屋の中へ入った瞬間、小泉先生と目が合った。私は気まずい雰囲気を全面に出してしまい、挨拶もまともにできなかった。きっと先生は勘違いしただろう。もしかしたら、昨日からすでにそうであったかもしれない。


 治療後、先生は何も言わずにメモを渡してきた。

『実は今日、夜勤だったことを忘れてました。

 明日は明けなので空いてます。明日の治療後でどうですか?』

 私が直接話しづらいと思ったのだろう、そのメモには新しいメモ用紙とペンが添えられていた。勘違いであったとしても、そういう気遣いが私の心をくすぐる。私は少し離れた所で返事を書いた。

『はい、ありがとうございます。時間と場所、教えてください。』

 それを渡すと、先生は近くに他の技師がいないことを確認し、小声で言った。

「じゃあ九時半に、一階の喫茶店で待ってます」

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