表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第八章◆とどめを刺すのは、だあれ!?
69/86

[69]契約

 分かってる……。


 ラヴェルが冷徹に言い捨てたのは、本当に足手まといだと思っているからじゃない。あたしを……守りたかったからだ。


 あたしの足元でピータンとアイガーが金網と格闘していた。あたしも同じようにタオルのロープから逃れようと身をよじってみたけれど、まったく外れる気配はない。


「もうっ、どうしよう~! 終わるまでこのままこうしてろって言うの!?」


 二人は何処でウェスティと落ち合うのか? 闘いはどう行なわれるのか? 勝つ為の策はちゃんとあるのか? ……何も訊けていない……何も知らない、なんて──。


 その時突然アイガーが、か細く長い遠吠えをした。途端、


『ユスリハ、聞こえますか?』

「ツパイ!?」


 ピータンの身体を介してツパイの声が聞こえてきたのだ!


「アイガーが傍に居なくても可能なのね!?」

『この距離でしたら、ギリギリ何とか……ですが、交信していても意味がありません。今、そちらへ向かいます』

「えっ!?」


 身体は眠っている筈のツパイがどうやって!?


 まもなくあたしの右耳に、背後のツパイの部屋からガタゴトと物音が響いてきた。近付くにつれそれはペタペタと素足が床に着く足音になったが、とてもゆっくりで均一ではなかった。


「さすがに……無理に起き出すのは、キツいものがありますね……」

「ツパイ!!」


 廊下の曲がり角から見えたツパイは荒い呼吸をし、グッタリと壁に寄り掛かっていた。(わら)いを含んだ台詞も、やっとのことで吐き出したという調子だ。


「アイガー、後はお願いします……」


 まるで初めて歩いた赤子みたいな足取りで、ツパイは金網の上にもたれ倒れた。自分の体重を利用し、傾けたケージで隙間を作って、其処からサッとピータンとアイガーが飛び出した。すぐに二匹はあたしのロープを噛み切ろうと柱の後ろへ回り込んだ。


『話すと長くなりますので割愛しますが……僕自身が掛けている【時を止める魔法】は、実際自身で操っている訳ではなく、ジュエルとの契約なのです』

「契約……?」


 ツパイはあたしの真横で倒れ伏しながらも、その音声はピータンの居る真後ろから聞こえてきた。


『現状ジュエルは好んでウェスティの許に宿されている訳ではありません。ほぼ囚われの身と言えます。ですから僕の契約は、ジュエルが本来の宿主へ戻らない限り解消されることはないのです。今は無理矢理身体を覚醒させましたが……残念ながらこれ以上はもう動けないと思われます』

「ありがとう! ありがとう、ツパイ!!」


 二匹のお陰でロープから解放されたあたしは、すぐさまツパイに飛びつき抱き締め、お礼を言った。


『アイガーが二人の匂いを辿って導きます。ユスリハ、二人の許へ向かってください。ですが……もちろん、危険なことはしないでくださいね』


 あたしの胸に(いだ)かれたツパイの身体は、もう眠りに落ちているように重かった。


「うん、大丈夫……全員で無事に帰ってくるから!」

『僕もジュエルがラヴェルに戻り次第、契約を解除し向かいます。それまで……ユスリハ、どうかお願いします。ラヴェルから目を離さないでください。少し……気になることがあるのです』

「え?」


 気になること??


 あたしはツパイの身体を背負い、ふらつきながらも彼女をベッドに戻した。横になったツパイは詳細には触れず、とにかく早くとあたしを急かした。


 自室に戻り着替えて髪を整える。左手に必要な物を抱え、再びツパイの部屋へ戻る。


「ツパイ。それじゃ……行ってくるね!」

『お願いします。ピータン、アイガー……ユスリハを守るのですよ』


 二匹はその呼び掛けに二匹なりの頷きを返した。あたしはもう一度ツパイにお礼を言い、二匹を連れてコテージを飛び出した──。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ