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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第六章◆頼ってばかりはいられない!?
55/86

[55]信念 *

 それから屋根色をした鮮やかな夕焼けを堪能し、待ちくたびれているに違いないタラの許へと戻った。テーブルには片手で足りない程のスパークリングワインの小瓶に、山積みの牡蠣とムール貝の殻。それでも全く変わらない顔色と口調と足取りは本当に脱帽の域だ。


 独りでこんな美女がお酒を傾けているとなれば、パートナーの居ない旅人にとって声を掛けずにはいられないのだろう。お陰でタラは退屈することなく、更に美味しいレストランの情報まで手に入れてくれていた。


「あ、ココみたいヨ。なかなかイイ雰囲気じゃない」


 流れる亜麻色の髪に(いざな)われ辿り着いたのは、荘厳な教会や博物館に囲まれた、中庭のようなオープンテラスだった。


 やはり評判がお客を呼び寄せるのだろう、空席を見つけるのには難儀したが、折良く目の前の三人組が席を立ち、ウェイターがすかさず食べ残しの皿を下げてくれた。


 まもなく運ばれてきた白ワインと、ラヴェルとあたしの分の生牡蠣、白身魚のカルパッチョに、茹でた赤海老、小さな烏賊のフライ……沢山の海鮮がテーブルを埋め尽くし、サイドに置かれた蝋燭の炎が、それらを美味しそうに照らしていた。


 教会へ登る入口の階段には、ドレープの美しいドレスを着た女性奏者が、神聖さを(かも)し出すハープの音色を奏でている。ひとまず最終目的地に到着した無事を乾杯し、タラの誘われた人数とその様子を聞かされながら、楽しい夕餉(ゆうげ)は始まった。


 初めはそんな賑やかな会話に加わっていた筈のあたしは、いつの間にか脳ミソをフル回転させて、自分に出来る先々を考えていた。そして二つの結論に到る──そうだ、そうだ! そうしよう!!


「ネェネェ~ユスリハちゃん!」

「え?」


 ちょうど思考をオフにしたところで、隣のタラから呼び掛けられた。あれ? 何の話をしていたのだろう?? 何か……やっぱりいやらしい視線……。


「城壁一周、終える頃にちょうど夕焼けになったでショ? あの時間を狙って北西の砦はカップルだらけになるらしいのヨネ~! 二人もチューくらいしてきたのかなぁ~って、ラウルに訊いても答えないからぁー」

「……えぇ!?」


 あたしはもう一度脳ミソフル回転して、目の前のラヴェルに視線を移した。ニコニコ顔で海老の尻尾にかじりつくあいつは……どうして否定しないのよっ!?


「し、し、し、してませんって!! ちょ、ちょっとあんたもちゃんと弁解しなさいよねっ!」

「してもタラが信じないのは、もう何となく分かってるでしょ? ユーシィでも」

「うっ……」


 確かに……!


 今までの色っぽい質問や疑惑は、ラヴェルの言う通り完全否定出来た試しがなかった。図星の意見に言葉を詰まらせたあたしの隣で、勝手な妄想を愉しむタラは「ワタシも誰かイイ人見つけヨーっ!」と、独り対抗心に燃えていた。


「さぁ、て。そろそろ会計してもいい? 自分は飛行船に残りの荷物を取りに行くから、二人は先に戻ってくれる?」


 ラヴェルは懐から幾つかの金貨を取り出しながら、比較的タラの方へ向けその言葉を発した。


「ワタシは構わないけど、どうせならユスリハちゃんを連れていってあげなさい。あの丘からの夜景は絶好のデートポイントじゃない!」

「タ、タラ~!」


 まだそんな話が続いていたのかと、あたしはついぼやくように彼女の名を呼んでいた。あ……でも! それはちょうど良いチャンスなのでは!?


「あの……忘れてきた荷物があるんだっ。あたしも一緒に行っていい?」

「ほら、ユスリハちゃんも、デートもチューもしたいのヨ」

「ちっがいますっ! 本当に忘れ物があるんですっ!!」


 どうやってもタラには勝てないらしい……。


「了解。それじゃ、気を付けてね。ユーシィ、行こう」


 ど、どっちに対してあんたは「了解」って言ったのよ!?


 「ゆっくり楽しんできてネ~」とハートマークの付いた別れの言葉にゲンナリしながら、あたしはスタスタと歩くラヴェルを追った。ふと後ろを振り向いた時既に、タラの両側には光に集まる夜の虫が、沢山彼女に惹き寄せられていた──!



挿絵(By みてみん)



「ね、ねぇ、こんな夜更けにタラを独りで帰して大丈夫なの?」


 あたしは早足でラヴェルに追いつき、その横顔に憔悴を見せた。幾ら剣士でも今は剣もなく、さすがに大勢で襲ってきたら太刀打ち出来ない筈だ。


「大丈夫だよ。そこらの(やから)なら、束になってもタラには敵わないから」

「そ、そうなの……?」


 自信に満ちた答えと表情に、刹那あたしは胸を撫で下ろした。けど……?


「十年前、タラはスティの(たくら)みを知り、本来の継承者である自分が襲われた時に全力で守ってくれた。でもその時は無心で盾になることしか思いつかなかった。未来の花嫁だったからこそ、スティは彼女を傷つけられず、結果自分も救われた……その時タラは誓ったんだ。誰にも負けない、スティにすら勝てる力を手に入れようと」


 真っ直ぐ前を見通し説明する、引き締められた彼の言葉は、タラの決意の重さと覚悟を物語っているかの如く、一心に夜の空気を貫いていた──。




■タラが呑んだスパークリングワイン×おそらく六本以上(苦笑)

挿絵(By みてみん)



■生牡蠣

挿絵(By みてみん)



■オープンテラスの手前の教会

挿絵(By みてみん)



■白身のカルパッチョ

挿絵(By みてみん)



■茹でた赤海老

挿絵(By みてみん)



■烏賊のフライ

挿絵(By みてみん)



■北西の砦

挿絵(By みてみん)



■砦からの夕焼け

挿絵(By みてみん)




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