[42]協力 〈P♪〉
十分なのか十五分なのか……あたしは息が切れるまで泣いていた。どうして泣いたんだろう……両親の死の真相から? 全てはウェスティに騙されているかも知れないから? ううん、違う……あいつの抱えているものがとてつもなく大きかったからだ……家族の死だけでも心壊れてしまいそうなのに……あいつは──……。
「ご、めん……ツパイ……」
あたしは突っ伏していたテーブルから何とか顔を上げた。頬を流れる涙を無造作に拭う。ドレスの袖がもうびしょ濡れだ。
「きゃっ……!」
途端ピータンがあたしの肩に乗り、まだ湿ったままの顔を舐め始めた。余りのくすぐったさに思わず笑みが零れていた。
『ついに……ピータンも貴女を認めたようですね』
「え?」
ずっと静かに落ち着くのを待っていてくれたツパイの声が、肩越しのピータンから聞こえた。
『ピータンが貴女に近付かなかったのは、ヤキモチを妬いていたこともありましたが、本質はきっと貴女がラヴェルを認めていなかったからです。今のユスリハはラヴェルの気持ちを知り、彼に近付こうとしました。ですから……ピータンも貴女をラヴェルの仲間だと承認したのですよ』
「ピータン……」
あたしは呼びながら、依然舐めることをやめないピータンを掌に移した。「ありがとう、ピータン」──そうお礼を言って微笑んだあたしに、ピータンの顔は同じ笑顔を表して「うん」と一つ頷いた気がした。
『さて……かなり長居をしました。そろそろ通信を切らないと、さすがにウェスティに気付かれるでしょう。ユスリハ、もう一度集中してください。これからは貴女にしていただきたいことを伝えます』
「う、うんっ」
あたしは改めて目を擦り、背筋を伸ばして座り直した。緊張の波が中心から末端へと流れてゆく。
『まず……心穏やかになるまで、出来るだけウェスティとは会わないでください。少しでもこちらの接触を勘付かれれば「計画」が泡と化します』
「計画?」
つい話途中で尋ねてしまった。
『はい。既にラヴェルは城の敷地内に潜伏しているのです。その外堀でタラも待機しています。良いですか? ユスリハ。朝陽が昇るまでに、貴女はどちらを信じるのか決めてください。今は未だウェスティも、迷い戸惑う貴女のお陰で油断をしています。そんな状況下でこちらの救助が現れても、貴女は逃げない筈だと思っているのです。ですから……何か一つでもこちらが真実なのだという証拠を見出してください。良いですね?』
「……そ、れは──!」
相当ハードルが高いのではないですか? ツパイさん??
あたしは言葉半ばにして固まってしまった。
『困難であることは判っています。ですが時間が経てば経つほど、探りを入れるのは難しくなるでしょう。貴女がこちらから聞いたことを隠しておくのも難儀でしょうし、かと言ってそれをネタにして質問しなければ、あちらの真意も計り兼ねる……その辺りは重々承知の上です。けれど何とかあちらの意表を突いてほしいのです。……僕達は、貴女を救い出したいのですよ』
救い出したい──その気持ちを信じてあげられない今が辛かった。ズキンと心臓が痛んで、思わず目を瞑ってしまう。けれど数秒静かに呼吸をして、やがてあたしは瞼を開いた。意を決したようにピータンを見詰めた。
「分かった……とにかくやってみる。それでツパイ達を信じると決めた時、あたしはどうしたらいいの?」
それを聞いたピータンの耳が小刻みに震えた。
『良く言ってくれました、ユスリハ。貴女はただ「ピータン!」と叫んでくれれば大丈夫です。これからピータンはウェスティに見つからないよう、極力貴女の近くに潜伏します。その叫びはピータンからラヴェルに届き、彼は貴女を救出に向かいます』
「うん……でも大丈夫なの? もし見つかったら……」
『大丈夫ですよ。救出を願っているのは、貴女だけではないのですから』
「ん?」
他にも救われたい誰かが居る?
『ラヴェンダー・ジュエルです。あの石も本来の宿主の許へ還りたいのですよ。だからこそジュエルはこちらに味方をし、今もかなり巧みにこの交信をウェスティから守ってくれているのです』
「あ──」
意思を持つ宝石──ラヴェンダー・ジュエル。
もしもツパイの言葉が真実なら──やっと彼の許へ戻れるのだろうか? 正式な継承者──ラウル=ヴェル=デリテリート、いえ、ラウル=ヴェル=アイフェンマイアの許へ──。
※以降は2015~16年に連載していた際の後書きです。
とうとう折り返しに入りました拙作ですが、此処までお付き合いをくださいまして、誠に有難うございます!
最近仲良くしてくださっております九藤 朋サマから、キョトン顔のピータンを頂きました♪
私の描くデフォルメとは違いまして、細部までしっかりリアルに描いてくださっております☆ モコモコの尻尾が可愛いです!
そして今話はついにピータンがユスリハを認めた重要回(笑)、まさしく此処でお披露目させていただくのがベストというタイミングで頂く事が出来て、本当に幸せでございました*
五章に入りまして、フルーツを頬張っているか、居眠りしているだけなのに活躍中(!?)のピータンでございますが、今章は彼女の為にあると言っても過言ではないかも知れません(爆)。
引き続き彼女の活躍をお楽しみくださいませ!
フッと思いついた名前の「ピータン」でしたが、この名前もまた役に立つような立たないような・・・(苦笑)。
今後もどうぞピータンをはじめラヴェンダー・キャラを宜しくお願い申し上げます!
朋サマ、この度は素敵なイラストを本当に有難うございました!!
朧 月夜 拝




