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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第四章◆誰が嘘をついてるの!?
30/86

[30]帰還 〈T〉

「……」


 翌朝。音のない船室。空には上下左右とも一切の雲もなく、我が物顔の初夏の太陽が、沈黙の飛行船を照らしている。


 あれから合わせる顔がないと思ったのか、ラヴェルはカプセルに籠もり朝まで出てこなかった。あたしも恐怖と衝撃が大き過ぎて、やっと身を起こせるようになるまでに時間が掛かり、とにかく全てを洗い流したいとシャワールームにどれくらい入っていたのか……食欲も睡眠欲も現れず、朝までただぼぉっと夜空を眺めていた。けれどあんな事件の起きたチェストには近付く気持ちになれなくて、テーブルセットの椅子を窓際に寄せ、温かな光を灯すアロマランプの香りに癒されていた。


「昨夜は……ごめん……」


 ずっと遠くの背後から小さな声が謝った。ラヴェル……起きたんだ。どうしよう……どんな顔をしてどんな返事をして、あたしは振り向いたらいいの?


「気にしないで……いいよ。あれ……あんたの仕業じゃないわよね。スティって誰? ウルって?? 何が遭ったの? あんたの中で何が起こったの?」

「……」


 何とか言葉は返したけれど、振り返ることは出来なかった。


「あれは──」


 と、消極気味にラヴェルがあたしの背に答えようとした矢先、キッチン横の扉に付けられた無線スピーカーから大きな声が呼び掛けた。


『ヤッホー! 可愛い弟ちゃーん! タラねえ様のお帰りヨーン!!』

「えぇ……?」


 タ……タラさん!? 少し高めの良く通る綺麗な声だけど、そ、その台詞は一体何!?


「タラ! やった……間に合ってくれた!!」


 驚き身体を反転させたあたしのドングリ(まなこ)に、ホッとしたようなあいつの横顔が映った。「先刻(さっき)の件、ちゃんと後で説明するから」──そう言ったラヴェルは慌てて操船室へ駆け出す。何はともあれ走れるほど元気になったのは良かったわよ。


「タラ! ハッチを開ける! 上手く合わせられる?」

『あのネェ~今までおねえ様に不可能なことなんてあったー? まっかせなさーい!!』


 コクピットの無線機から応答し、あいつは真ん前の赤いボタンを押した。ハッチって出入り口と階段の反対側にある箱状の空間かな? あそこから入ってくるって、何で飛んできたのだろう?


「行こう、ユーシィ。もうタラなら大丈夫だから!」

「え? う、うん……」


 嬉しそうに席を立つラヴェルに促され後を追いかける。随分タラさんを信用してるのね? でもあの自信満々の返答なら、否応もなく信用出来るか。


「タラ、お帰り!」


 隔離された空間へ続く扉を押し開いて。目の前の白い視界の真ん中に、真っ赤な人影が現れた。その後ろには同じく真白い小型のグライダー。これで何処から飛んできたのだろう?


「ウーン! 元気だったー可愛い弟ちゃん!! って……あらやだ。随分毛先黒くなっちゃったわネェ~」

「んんっ!!」


 ラ、ラヴェル……!?


 駆け寄ったあいつの数歩手前で、あたしは唖然として立ち止まってしまった。タラさんは十センチ以上はあろうかと思われる真っ赤なピンヒールを履いているとは云え、明らかに頭一つ分ラヴェルより背が高く、グラマラスな体形が一目で分かる程の、ピッタリ身体に密着した赤い革のつなぎを(まと)っていた。スタイルの良さに負けない整った顔立ちと、美しく流れる亜麻色のウェーブヘア、そして……溢れそうな胸は半分までファスナーが降ろされていて、その豊満なバストにあいつの顔面は……(うず)められていた!!


「くっ苦しいって! 可愛いって思うのなら、この窒息死必至な挨拶はもうよしてくれ」


 熱烈な抱擁を何とかほどいたラヴェルは、本当に死にそうだったと訴える表情で息をつき、キッと横目でタラさんを睨みつける。


「ツレないこと言わないのー、って! イヤ~ン、可愛い~!! 誰、このお人形さんみたいなお嬢ちゃん! アナタついに彼女出来たの!? ヤルわネ~でかした! さすがはタラねえの弟だわっ!!」

「えぇ……──!?」


 ラヴェルの後ろのあたしに照準を移したタラさんは、ホッと胸を撫で下ろしたラヴェルの横をツカツカと歩いてきて……え! ちょっ……「んんっ!!」


 あたしの顔面もその窒息死必至な挨拶の餌食になっていた──。




挿絵(By みてみん)




 此処までお読みくださいまして、誠に有難うございます。

 ※以降は2015~16年に連載していた際の後書きです。


 今話のタラ登場を機に、物語は急展開と中盤の謎解きへ突入致します*

 引き続きそちらも、何卒お付き合いをお願い申し上げます☆


   朧 月夜 拝




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