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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第四章◆誰が嘘をついてるの!?
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31/86

[31]名前

「タラ……ユーシィまで殺さないでくれ……」


 ギュッと抱き締められたタラさんの胸の中で、呆れたように(いさ)めるラヴェルの声が聞こえた。


「ユーシィって言うの? あ、きっと違うわね? うーんと、ユリシア? ユーシェルヌ?? いえ、ちょっと待って~どうせラウルのことだから、本名は違うんでショ!」


 と考え込む為に唇に指先を持っていかれたお陰で、あたしもやっと解放された。


「ふぅ……はぁ……ユ、ユスリハです。タラさ、……ん? ラウル??」


 ラウルって誰? ラ・ウ・ル……『ウル』!?


「ヨロシクネーユスリハちゃん! で? ちょっとラウル、アナタ自分の彼女に本名明かしてないってどういうことヨ!?」


 本名──確かにラヴェルはあたしユスリハをユーシィ、ツパイをツパと少しずつ変えて名前を呼ぶ。それじゃラヴェルもラウルで……もしかしたらタラさんも??


「タラ、残念ながらユーシィは彼女じゃない。それに本名なんてどうでもいい。それより少しは集められたの? もう……限界だ。昨夜スティに身体を乗っ取られた」


 ラヴェルは悔しそうに俯いて唇を噛んだ。『スティに身体を乗っ取られた』──やっぱりラヴェルはウルなんだ。ではスティは? 彼の別人格なんだろうか?


 タラさんはそんな彼の様子を目の端に入れて、薄っすらと苦笑し小さく口笛を吹いた。


「ふうん~隠すことなんてないのにー。ネェ? ラウル=ヴェル=デリテリートくん! あーそれともアイフェンマイアにしておく?」

「タラ!!」


 いつも飄々(ひょうひょう)としているラヴェルが、完全にタラさんのペースに呑み込まれていた。ラヴェルにも天敵(?)が居るのね。そして……ラウル=ヴェルで、ラヴェル? アイフェンマイアも名前の一種なんだ。


「まぁまぁ、ちゃんとたっぷり集めてきたから怒らない怒らない! その毛先見たら十分分かるわヨォー、でも乗っ取られるなんて物騒な話じゃない! てことはもう近いのネ? んで? まさかユスリハちゃんを襲っちゃったワケ??」

「あ……」


 冗談のように推測された直球の質問がまさしく的を射て、つい声を洩らしてしまった。辛そうなラヴェルと、点になったタラさんの瞳があたしに集中する。やがてタラさんはそれを細め、ほんの一瞬険しい面差しを見せた。


「もしかして……ラストネーム、ミュールレイン、なのネ?」

「え!?」


 どうして皆、あたしの名前を言い当てるの!?


「『彼』は【薫りの民】を選んだ、か……まぁ分からなくもないわネ」

「タラ……」


 ほんのりしんみりとしたタラさんの言葉に、切なそうに名を呼ぶラヴェルの声が震える。『彼』って、【薫りの民】って……?


「ヤーネ! アナタがそんな顔してどうするのヨ! とにかく、コレ、渡すわヨ」


 気持ちを入れ替えるように大きな声を上げたタラさんは、藍色のウエストポーチから、以前ツパイが託したような小さな革袋をラヴェルへと放り投げた。


「随分見つけてくれたんだね……助かるよ、タラ」

「そうヨォ~床板の隙間までまんべんなく探してきたんだから! お礼のキスくらいホッペにしてくれたってイイもんだわ」

「それは……全てが終わった時かな」


 ラヴェルはおどけた返しに、やっと少し笑みを見せる。


「相変わらず出し渋るわネン! 何でもイイから早く行ってきなさいって。ワタシ達はリビングで待ってるわ」

「うん……ありがとう」


 あいつは革袋をギュッと握り締め、いつもの淡い微笑を(たた)えてあたしの横をすり抜けていった。


「あの……一つ弁解しますが、い、一応襲われかけただけで、襲われては……いません」

「そ? ……とは思ったけど……なら安心したわ」


 ラヴェルの名誉の為にも言っておこう。そして自分自身の貞節の為にも。


 タラさんはあたしの肩を優しく抱いて、ゆっくり階上へと促した。


「あの、彼は何をしに、何処へ……?」


 階段を昇りながら涙ぼくろの色っぽい隣の美女を見上げる。あれはツパイの薬とはまた違うのだろうか。


「あのコは浴室へ行ったの。髪を染めに」

「……へ?」


 あれって染髪剤!? 確かに……戻ったリビングのシャワールームから水の流れる音が響いているけれど、わざわざ髪染めを何処まで取りに行かせたっていうのよ!?


「うちは代々染色家なのヨー、あ! 申し遅れたけど、ワタシはタランティーナ=ヴェル=ハイデンベルグ。長いからあのコと同じくタラって呼んでくれればイイわ」

「タランティーナ=ヴェル……──ヴェル?」


 ミドルネームがラヴェルと同じ??


「ちなみにツパイはツパイ=ヴェル=ユングフラウ。……もう気付いたかしら?」

「……あっ!!」


 ずっとずっと昔の微かな記憶が(よみがえ)り、やがて欠けている何枚もの内の、一枚のパズルがやっと完成した。小さい頃、母さんが読んでくれた絵本に、そんな名前の王国があった──。




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