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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第三章◆ウシ、ウマ、ヒツジ・・・ヤギにイヌ!?
22/86

[22]関係 〈Y♪〉

 あたしが入浴を済ませ、その前に交わした会話を『なかったこと』にしたいように、身を縮込ませてコソコソと出てきた頃には、男二人は眠そうな顔をして、リビングの隣の寝室を整えていた。


 テーブルの上にはお酒らしき翠色の瓶。ロガールさんの鼻の頭もほんのり色づいているから、『あたし(オニ)』の居ぬ間に楽しんだのだろう。何よ~国境は越えたけれど、あたしの国の十八歳はもう立派な成人なんだから!


「ユーシィ、支度はもう出来た? 君には特等室を用意したから、どうぞ今夜はそちらでおやすみ」


 あっそ。あんたとロガールさんの間で眠れと言われず良かったわ。


 いつも通りのラヴェルが、ちっとも呑んだ素振りも見せずに、あたしの背後の梯子を示した。ふーん、屋根裏部屋ね。これならあんたが寝込みを襲おうと上がってきても、登る音で気付けるかしら。


「それじゃあ、おやすみ!」


 あたしはぶっきら棒に言い放って、クルりと背を向けガンガンと梯子をよじ登っていった。きっと二人はあたしを酒の(さかな)に愉しんだのだろうし、ラヴェルはロガールさんにあれ以上あたしに何も話さないよう、仕込みを済ませたに違いない。あたしはそんな自分勝手な想像から、頭に血が昇ってしばらく眠ることが出来なかった。




 ★ ★ ★




「おはようございます、ユスリハ」


 屋根裏部屋というくらいだから、もちろん十分な広さではなかったけれど、それでも久し振りにカプセルではない開放感溢れたベッドと空間が、あたしを深い眠りに(いざな)っていた。

 呼ばれた声に向けておもむろに寝返りを打つ。僅かに開かれた瞼の先に、相変わらず瞳を見せないツパイが居た。


「わっ! ツ、ツパイ……お、おはよ?」


 どうやって此処が分かったのだろう?


「そろそろ起きられますか? 朝食もまもなく出来ますよ」


 確かに階下からベーコンの焼かれるいい匂いが立ち昇ってくる。あたしは慌てて布団から這い出し、


「う、うん! ごめんね、起こしてもらっちゃって」


 着替えに手を伸ばすや、ツパイは「いいえ」と一言、梯子を降りていった。


 それからまもなくしてリビングに移ったけど、キッチンにはラヴェル独りで、ロガールさんの姿は見えなかった。ツパイは既に待ちかねたようにテーブルに着いている。やっぱり三日も寝ているとお腹が空くのね。


「やあ、起きたかい、ユスリハ」


 と扉が開いて、何やらなみなみ入った桶を抱えるロガールさんが現れた。途端椅子から立ち上がるツパイ。ロガールさんに駆け寄りサッと……(ひざまず)いた!?


「ご無沙汰しておりました、ロガール様」


 ロガール──さ、様!?


「うむ、ユングフラウか。久しいが……余り変わらぬな。未だ時間を『止められて』いるのか」


 ユングフラウ……ツパイのラストネーム? 時間を止められているってどういうこと??


「いえ、今は自ら『止めて』おります」

「変わった奴だ。それだけ止めたらもう脅威は有り得ぬだろうに」

「いいえ……壮年以外の者は全て標的の模様ですから。となれば既に意味をなさないとはいえ」

「……そうか」


 良く分からない会話が数回交わされた(のち)、寂しそうに(しお)れていったロガールさんの表情は、やがて気を取り直すように無理やり口角を上げた感じがした。テーブルの傍で静観していたあたしの許へ寄り、桶の中身を自慢するかの如く覗かせた。


「わぁ~搾り立てのミルク! それもこんなに!!」


 案の定驚きを見せたあたしの反応に、嬉しそうな笑顔を見せる。


「いつもは山羊のミルクだがね。今日は貴重なお客様だからの。売り物の牛乳をたっぷりご馳走させておくれ」

「ありがとうございます!」


 元気一杯のあたしのお礼に、ロガールさんは益々(まなこ)を細めた。


 ちょうど良く整ったラヴェルお手製の朝食と共に、フレッシュなミルクは四人の胃の中へと、心地良く喉を通っていった。


 あたしのお腹の中では、疑問と疑惑がグルグルと渦巻いていたけれど──。




挿絵(By みてみん)




 此処までお付き合いを誠に有難うございます。

 ※以降は2015~16年に連載していた際の後書きです。


 先日の味醂味林檎様に続きまして、なつのあゆみ様からもとっても可愛いユスリハのイラストを頂きました♪

 あゆみ様! 本当に感謝感謝でございます!!

 今作が三章に入り、舞台がスイスらしき山々へ移動しまして、ツイッターにて「アルプスの少女ハイジ」のイメージでご覧ください(笑)とお話しましたところ、「スイスの民族衣装、ユスリハちゃんに似合いそう」と何とも有難きお返事が☆ そしてその日の内にそんなユスリハを描いてくださったのでございます!! それもちゃんとお色まで付けてくださって~♪ ピンク色のポニーテールに水色のスカートが爽やかです* 一度だけ描写のありました碧い瞳もお忘れなく、勝気な性格を乗せて描いてくださいました!

 あゆみ様、誠に有難うございました!!


 スイスの雰囲気は山のみでなく、山小屋やら屋根裏やら、そしてツパイのラストネームらしき名前もだったりします。ユングフラウとはアルプス山脈の山の一つで、数年前に筆者も母と旅した地でした。特に使う予定ではありませんでしたが、ふと思い付きまして、ツパイの名の一部に思いがけずしっくりきたので採用となりましたが、その時は「ユングフラウって何だっけ?」といった状態でした(笑)。後ほどスイスの山の名だと判明し、自分の記憶力の良し悪しに驚きました(汗)。ちなみに次話にももう一つスイスの山の名前が出て参ります。どんな名前であるか、誰(?)の名前であるのか、どうかお楽しみにしてください♪ 後書きまでお読みくださり感謝でございます!


   朧 月夜 拝




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