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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第三章◆ウシ、ウマ、ヒツジ・・・ヤギにイヌ!?
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20/86

[20]伝授

 空へ戻って三日、その間あたし達は挨拶以外一言も話さない旅路が続いた。


 あれから離陸作業を終えたラヴェルは、数時間コクピットから出てこなかった。自動操縦に任せられる筈なのに、籠城するとはよっぽどあたしに問われるのが嫌なのだな、と半分拗ね気味に思ったけれど、エンジンルームの点検を終えたあたしと鉢合わせをしたあいつは、大きな欠伸と背伸びをしていたから、どうやら単に昼寝をしていただけだったみたいだ。


 それから手持ち無沙汰なあたしはランチを作り、いつの間にか当たり前のように二人分をテーブルに供していた。この一ヶ月間一人分の食事しか作らなかった筈なのに……。亡き祖父と自分の分──十年来の癖が出たお陰で、こんな忌々(いまいま)しい奴を喜ばせてしまっている自分が心から恨めしく思われた。


 ラヴェルが「ごちそう様でした」の言葉と共に率先して片付け出したので、あたしは入れ替わるように操船室へと赴いた。初日に教えてもらった際に貸してくれたテキストを覗きながら、各計器と照合する。昨日の記憶を頼りにツパイの教授も復習した。ラヴェルの離着陸技術は喉から手が出るほど学びたい最重要事項だったけれど、今のあたしはあいつの声を聞くだけでも苛立ってしまいそうだった。


 いいかげん狭いスペースに閉じ籠もることに飽き飽きしたあたしは、仕方なくリビングへ戻り、いつものチェストで外の景色を瞳に映した。

 北に向かうにつれ、陸の風景も変わってゆく。もっと進めば黄金(こがね)色の平原は徐々に灰色になり、ごつごつとした峰々に変わるだろう。ラヴェルの次の目的地はその山なのか、山の向こうなのか。……その内……この謎だらけの生活にも慣れるのだろうか……それは……慣れではなくて諦めなの?


 そんな内容のない一日が翌日もその次の日もほぼ続いたが、ラヴェルのお昼寝タイムは初日の三割増し、三日目は更にその三割増し、それでも眠そうにぼぅっとしているのは寝過ぎなのか眠れていないのか、妙に倦怠感のありそうな猫背の後ろ姿を見詰めながら、あたしは変わらず声を掛けなかった。

 が、無言の生活もそろそろ疲れを見せ始めた暮れなずむ夕方、顔でも洗ってきたのか、洗面所から瞳パッチリで登場したラヴェルは、いつもの調子であたしの背後にピッタリ寄り添い、


「ごめんね、ユーシィ。ずっと淋しかった?」

「なぁにぃ~!? きゃあっ!!」


 怒髪天で振り向こうとしたあたしの首に腕を絡め、いきなり頬に頬をすり寄せてきた!?


「あ、あんたねえ!」


 慌てて振りほどき、グーに握った拳をその頬めがけて繰り出す。も、あっけなくかわされ……


「次の目的地に到着だよ。自分の着陸技術、手取り足取り教えるから、コクピットへ来ない?」

「少なくとも、手も足も取らないでよね……」


 茶目っ気たっぷりにウィンクを投げたラヴェルの笑顔へガンを飛ばし、不本意ながらも内心ワクワクしながら後へ続いた。




 ★ ★ ★




 結局『手』だけは取られっぱなしだったけれど、お陰でラヴェルの素晴らしい『裏ワザ』は、随分自分のモノに出来た。


 操縦席に座ったあいつは、驚いたことにあたしを膝の上に乗せて、後ろから手を添え操縦桿を握らせたのだ。


「そう、その調子。で、今! レバーが自由になったの感じた? 此処で一度真上に引くんだ。これで……そうそう! 水平になったの分かったね? ここからゆっくり前に押して……ハイ、OK!」


 元気の良い掛け声と共に、大地に(いだ)かれるような軽やかな着地を終えたことに気が付いた。これ、こいつのサポートがなくとも独りで出来るようになるだろうか? なったら……操縦ライセンスの試験も一発合格どころか、最優秀生として称えられるレベルに間違いない。


「あの、ありがと」


 よっぽどハイタッチでもしてやりたい程の興奮が心の中を駆け巡ってはいたものの、大地どころかラヴェルに包み込まれているような気恥しい状況に我に返り、あたしはお礼を言いつつそそくさと席、ならぬラヴェルの上から降りた。


「どういたしまして」


 もしかして……あんた、口で言う程あたしを意識していないでしょ。


 言葉も表情もそれを感じさせずに立ち上がったラヴェルを苦々しく見上げ、ふとそう思ったりもした。淡々とした返しと時々見せるにこやかな笑顔。まぁ……あんまり意識されても困るから、あたしは別にいいのだけど。


「で? こんな山の中腹に降り立って、一体どうするつもり?」


 三日間ひたすら真っ直ぐ北上した結果、想像した通りの山並みに辿り着き、切り立った峰の一部開けた台地に船は吸い込まれていた。


「少し歩いた先に家畜を放牧しているお宅があってね、其処に用があるんだ」

「ふうん」


 コクピットを出ながら説明するその背を追い、階上で荷をまとめ始めたラヴェルの指示に従う。どうやらそのお宅に今夜は泊めていただくらしい。同じくお泊まりセットを荷造りし、ピータンを肩に乗せたラヴェルと共に、既に夕闇の落ちた外へ出た。


 ツパイ、明朝起きるよね? 置いてきちゃって大丈夫なの??


 そんなことを少しばかり心配しながら──。




※飛行船の着陸について:現実の物はこのように簡単に着陸することは出来ません。実際には飛行船の先端に付いている紐を、地上で掴み取って着陸させるのだそうです。その為に広大な平坦地が必要です。また連続飛行出来る時間もずっと短いです。フィクション&ファンタジーですので、その辺りはご容赦くださいませ。




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