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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第二章◆好ましい未来とは!?
19/86

[19]消沈 〈Y♪〉

 良く……分からない、分からない、分からない……。


 二人が戻る前にベッドに潜り込み、今一度天井をぼんやりと見詰めた。


 何を信じていいの? 全ては本当なの? 本当だとしても意味が分からない……とにかく一度頭を空っぽにしなくちゃ。きっとパズルは組み立てられない。

 まず……ラヴェルは今回の不時着ならぬ『訪問』前から、あたしのことを知っているみたいだった。でもあたしは彼を知らない……と思う。

 そしてあいつはあたしに出逢うきっかけが必要だったと言った。だから、わざと不時着……した? まぁそれはいいや。必要だったのは、あたしの確保。何故なら同行が一番安全だからと言う。いや、その前に……えと……何か引っ掛かった。そうだ、キスした理由。あたしの名前を訊かないで、どうしてキスしてあたしだと分かるの? あたしは今まで誰ともキスしたことなんてなかったのだから、あいつの記憶が……そ、その……感触とか覚えてるってことじゃあないわよね……??




 自分は……ユーシィに好かれることなんて、きっとないから。




 どうして勝手に断言するのよ。もちろん、あんな奴に惚れてやる可能性なんて、限りなくゼロに近いけれど。変な奴。どうせ好かれないから、ああやって契約解消ギリギリの行為を敢えて行なってるの? 何の為に? あたしを怒らせる為?? 何よ、それ。


 ──十年前。八歳のあたし。


 ラヴェルは……十一歳か。明らかにウエストとは一致しない。髪は戻せば同じ色だとしても、瞳の色までは変えられない。義眼の片目は可能かも知れないけど、もう片方は説明がつかない。第一あいつだって、まだ子供だったもの。

 あ! 待って……あの時、もしかしてウエストと一緒に居たのだとか? あたしが気付かなかっただけなのかも。そうしたら、あいつはウエストを知っているのかも知れない! だから……だからあたしをウエストが名付けてくれた「ユーシィ」と呼ぶの!?


「訊いたら、教えてくれるだろうか……」


 ポツリと呟いた疑問がカプセル内に響いた。今まで散々はぐらかされてきたのだ。あちらから親切に説明してくれる訳もないし、たとえ問い(ただ)してもまた眠らされるに違いなかった。


 ウエスト……会いたい、よ……。


 ゴロンとラヴェルのカプセルとは逆の方向へ寝返りを打つ。ああ、でも……このままラヴェルと居たらウエストに辿り着けるのではないだろうか? もしあたしが襲われる『脅威』があの黒い化け物ならば、またウエストが助けに来てくれるのかも知れない。ううん、ラヴェルは化け物を倒せるウエストの許へ、あたしを連れていってくれようとしているのかも知れない! でも……だったら、どうしてキスなんてするのよっ! あたしはウエストに憧れているのに!!


「あああぁ~……」


 無気力な溜息が深く吐き出されて、あたしは瞳を閉じた。二人が戻ってきたことも気付かぬ内に、いつの間にか眠りの海へ身を投じていた。




 ★ ★ ★




 翌朝はやけに空気も音も停滞して感じられた。仕方なくといった様子で起き出し、立ち上がって思い出した。そうだ……ツパイ、また三日間起きないんだ。嫌だな……ラヴェルと二人きりなんて。契約解消してお家に帰ろうかな。


 それでもウエストに会える可能性があるのだと考えれば、自分からは破棄出来ない気持ちがした。それに……あの化け物と独りきりで遭遇するなんて、絶対考えたくもない!


「おはよう、ユーシィ」


 あいつは変わらず昨日までのあいつで、野菜を刻む手を止め、にこやかな笑顔で挨拶した。


「……おはよ」


 やっぱり気まずいよ。盗み聞きしていたことに気付かれたことも、教えてほしいと願っているのに、叶えられることのない不服が、顔に滲み出てしまっていることも。


 けれどあいつはそれきりあたしに声は掛けなかった。表情は穏和な微笑を(たた)えたまま、黙々と目の前で食事をし、片付け……やがて出発の頃、沢山の声が飛行船を囲んでいた。


「あら……ツパイちゃんはお寝坊ですか? ラヴェルさん、大変お世話になりました! ユスリハさん、遅くなってしまいましたが、お借りしたお洋服、本当にありがとうございました!」


 扉の先の真正面に布包みを抱えたテイルさんが立っていて、昨夜の内に洗ってくれたのだろう、あたしの衣服が戻ってきた。それと……焼き立てのマフィンという餞別が。


「いえそんな、返してくださらなくても良かったのに……洗濯まですみません。マフィンも……とても良い香りですね。ありがたく頂きます」


 受け取りながら気恥ずかしくなった。まだこの地に残っているというのに、あたしは自分のことばかりで、見送りまでしてもらえるなんて思いもしなかったのだ。


「ねぇねぇお兄ちゃん、次は絶対だよ!」


 隣でラヴェルは昨夕せがまれた、次回の飛行船遊覧の約束について念を押されていた。少し困ったように笑いながら「大丈夫だよ。もし自分が果たせなくても、このお姉ちゃんが叶えてくれるから」──そう言った。それってどういう意味よ。責任転嫁するつもり??


「素敵なご主人がいらして幸せね、ユスリハさん」

「……は?」


 ラヴェルに文句の一つでも言ってやろうと開きかけた口から、間抜けな一文字が現れて、あたしは咄嗟にテイルさんの方へ顔を戻したけれど、


「じゃあそろそろ行こうか、ハニー」

「は、は、は、はにぃ!?」


 ラヴェルの強引な左手があたしの肩を引き寄せ、右手は別れを示すように皆へ振りながら、弁解する前に扉は閉じられてしまった。ちょ、ちょっと待って! 違うでしょ!!


「お気を付けて~!!」


 聞こえはしなかったけれど、ガラス窓の向こうで手を振る皆の口元は、そんな言葉を発するように大きく動かされ笑顔で溢れていた。本当に……これで良かったのかな。


 独り操船室で滑らかな離陸を披露するラヴェルにはついて行かず、皆と同じ表情で見送りに応えるあたしは、心を沈ませながら碧い空へと浮上していった──。




      ◆第二章◆好ましい未来とは!? ──完──




挿絵(By みてみん)




 此処までお目通しくださり誠に有難うございます。

 ※以降は2015~16年に連載していた際の後書きです。


 二章完結を目前としましたところで、味醂味林檎様からとっても可愛いユスリハのイラストを頂きました♪ 今作初戴き絵です~味醂様! 本当に感謝感謝でございます!!

 現状こんなに明るい面持ちのユスリハではございませんが(苦笑)、ビックリ顔ばかりだった彼女の雰囲気を深く捉えていただいていると思います☆

 お色はタイトルのラヴェンダーと・・・作者である私のイメージから選んでくださったのだそうです!

 こんなに綺麗な色の私ではないと思いますが(汗)、有難き幸せです~*

 次回三章も新たな仲間が登場しますので、どうぞ皆様引き続きお楽しみにしてやってください♪

 味醂様、誠に有難うございました!!


   朧 月夜 拝




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