一ノ瀬さんとお出かけ(4)
結局服は妹に選んでもらった。
というよりかはデパートの店員との交渉を妹に任せて全身セットでお買い上げだ。
センスのない人間はプロに任せるに限る。しっかし素足にローファーとか石田純一かよって思ってしまう。
夜は寿司だし、『寿司屋はドレスコードないからジーパンにTシャツでもOK』なんて見たりするが、無難なのが一番だろう。
◇
待ち合わせ時間が2時だったので15分前に到着。
……本当は1時間前からいるけど。もし一ノ瀬さんが個人で見たい店とか合って早めに来ていて目撃された場合気合入れすぎ乙になってしまい大変恥ずかしいため、適当にウロウロしていた。
待ち合わせ場所には彼女の姿はなかったが、数分も待つ事なく彼女は現われた。
遠目からでも見間違うことはない、あれは女神だ。
今日はノースリーブのワンピースっすか、エレガントですな。細い二の腕がまぶしい。
「お待たせしてしまってすいませんっ」
「いえいえ、お嬢様、レディを待たせては失礼ですからね、お気になさらず」
「もうー、ふざけないでくださいよ」
ふざけてないと正気を保てる自信がないんですよ。女神よ。
そんなやり取りをした後スカイツリーのチケット売り場に向かう。以前彼女が言ってたとおり、事前予約用の売り場では特に待ち時間もなくスムーズに進むことが出来た。
「私予約しておいてますので」
そういって彼女は窓口にスマートフォンを差し出すと、画面に表示されたQRコードが読み込まれ入場券が発券された。
彼女はすでにオンラインで支払いを済ませていたようで、自分の分を払おうとしたが、自分から誘ったからと遠慮されてしまった。
代わりに夕食代は多めに出すよというと、それならと納得してもらうことが出来た。そんなやりとりをした後、展望デッキへとつながるエレベーターに向かった。
エレベーターは非常に混雑してはいたものの、一度に乗り込める人数も多いためかそれほど待たずに移動することができた。
「なんか内装すごいですね!?」
興奮したように話す彼女。展望デッキへと移動するエレベーターは4種類あり、アナウンスにもよると四季をイメージしているそうだ。
俺たちが乗ったものはたまたま今の季節とぴったり合う夏であり、隅田川の花火をイメージした飾りつけがされていた。
「これは豪華だなあ、手が混んでる。花火大会も行く機会がなかなかなくてなあ。俺たち今関西だもんな。来年は琵琶湖か淀川の花火でも見に行きたいもんだ」
「そうですね、隅田川はちょっと時期が早いから、なかなかいけませんもんね、来年はどこか観にいけたらいいですね」
女神は花火大会には関心を示したようだ。やっぱり綺麗な女性は綺麗なものを好むんだな。
これはしっかり覚えておいて来年はさりげなく誘ってみよう。
◇
「六本木さん、見てください、富士山が見えますよ!」
「今日は天気が良くて良かった。来るとき近く通ったの見えなかったからな」
「私、寝てましたもんね……すいません」
恥ずかしそうに視線を逸らす彼女。
「冗談だよ、ごめんごめん。この距離からでも全景が見えていいもんだね」
展望デッキをぐるりと回る。床がガラスになっている場所があって高いところが実は苦手な彼女は恐る恐る上に立っていた。
「そういえばさ、結構ヒール高いけど歩いてて疲れない?ちょっとお茶でもしますか」
「見た目よりは疲れないんですけど、さすがにちょっと足痛くなってきました……心配してくれてありがとうございます」
今日ちょっと感じた違和感の正体でもあるが、普段より身長差がない。
あれなんだっけ、底が赤いやつ。世界で一番足が痛くなる靴とか聞いたことがあるような。
一応気遣ってみて正解だったか。
俺はコーヒー、彼女は紅茶を注文して席につく。
「こうしてみると、街並みがおもちゃみたいだよね」
「ですねー、特撮のジオラマっぽいですよね」
「俺も思った。ゴジラみたいだ」
一休みしつつのんびりと外の風景を眺めていた。
◇
飲み物を飲み終えた俺たちは、展望デッキからさらに100mほど上った天望回廊に移動した。
エレベーターはかなり高速だったのか100mの距離もあっという間で耳が少し痛くなった。
スロープ上の回廊を二人でゆっくりと歩く。ガラス張りになっていて先ほどより一段と小さくみえるビル群を眺めつつ、ほどなくして一番高い場所に着いた。
「これで450mか、海外にはもっと高い建物もあるんだろうなあ」
「ドバイとか中国にあるビルはこれよりもっと高いみたいですよ」
君と一緒に行けたら俺は死んでもいいよ。さすがに海外は友達のままじゃ行けないな・・・
夢のまた夢か。
……がんばろう