派遣先が決まったみたいです
「六本木君、4月からのスケジュール送っておいたから時間があるときに見ておいておくれよ」
引継ぎすることもなくなってしまった俺は有給消化で自宅にいた。
そんな時に五十嵐さんから電話があった。
「ちょうど今家なんで確認しますね」
ちょうど自宅のパソコンは立ち上げていたのでメールソフトを起動して確認する。
五十嵐さんから送られてきたメールには入社から現地配属までの詳細なスケジュールや研修中の滞在先などが記載されていた。
「本社研修2か月って結構長いですね……」
「そりゃあ4月入社は新卒中心だからね。丁寧にやっておかないとね」
言われてみればなるほどと思う。研修を受講するのは何も俺のような中途採用者だけでなく大学を卒業したての新卒採用者もいるに決まっていた。
「あ、やっぱり新卒対象なんですね……こんなおっさんが一緒に受けてたら違和感すごいだろうな」
俺と違って新卒であれば通常は半年程度の研修を受講するのが一般的だ。中途組だけ別枠で受講するのも疎外感があるが、若者に混じって受けるというのもなかなか気恥ずかしいものがあると少し不安な気持ちになった。
そんなことを悶々を考えていると五十嵐さんから指摘があった。
「もしかして君何か勘違いしてないかい? 君は当然受講側じゃなくて講義側だよ?」
あっさり言ってくれたが、結構ぶっ飛んだ内容だった。
普通入社したばかりの人間に講義させるか?
「いや無茶じゃないですか……? 僕は御社のこと何も知らないですよ」
「そんなものは3日目もあれば充分だろう。一応そのためにオリエンテーリングの日程も設けているじゃないか」
確かに日程表を見ると入社式から二日間だけそんな時間が設けられており、その後研修開始となっていた。
「君の言いたいことも分かるがね。うちも正直研修にさける人員は限られているんだ。新卒と同じ待遇でいいならこちらも考えるがね」
意地が悪そうに若いながら話す彼女。
「謹んでお受けいたします……」
「素直でよろしい。こっちも使えるやつは現場に回しておきたいからね」
そういえば気になっていることがあったので質問してみた。
「ところで俺はどこの会社の案件に回されるかってもう決まってるんですか?」
つい最近一ノ瀬さんとそんな話をしていたこともあって好奇心が湧いた。
「まだそのあたりは決まっていないねえ。今のところ外資系何社かを候補で調整しているところかな。まあ外資は7月異動だからね、GW明けくらいまでは人事も流動的だからそのあたりまでははっきりとしたことは言えないかな」
「そうですか……」
「心配しなくても仕事がないということはないから。精々高値で売りつけさせてもらうよ」
いちいち発言が人身売買の商人のそれなのが気になるところではある。
こればかりはコントロールできるものでもないのであまり過度な期待は待つことにしよう。
◇
そしてあっと言う間に最後の出社を迎えた。
最近は会社に顔を出す必要もあまりなかったが、会社から貸与されているパソコンなどの物品や社用車などの返却手続きを行う必要があった。
会社に顔を出すと年度末のため外回りが忙しいのか会社の人影もまばらだったため少しほっとした。
当然それは意図したとおりで、転勤する人間なんかの最終出社と合わせてしまうとまとめて送別されてしまうセレモニーが始まってしまうのでどうにも居心地が悪そういう理由があった。
細かい事務仕事を終え、俺は個人用のロッカーの整理なんかをしていた。
会社のパンフレットなどは共用部分に返却し、不要なものは処分していった。
懐かしい記念品なんかも出てきた。
こうしているとこれまで過ごした会社生活が走馬灯のように思い起こされた。
辛いことも多かったが、やっぱり10年以上いると愛着も湧くものだ。後悔がないと言えば嘘になるだろう。
それでも自分の判断は正しかったと思う。
感傷に浸っていたところで声を掛けられた。
「先輩、今日で最後なんですって」
「三本松か。お前仕事はいいのか」
「私はゆうしゅーなんでノルマはとっくに終わってますよ」
「そっか、そりゃ何よりだ」
荷物の整理を一度中断して彼女に正面から向き合った。
「色々世話になったな。頑張ってな」
「こちらこそ、先輩には本当にお世話になりました」
いつになく殊勝な態度の彼女。
この前のこともあったのでどうしてもぎこちないやり取りになってしまう。
「ないとは思うけどもし相談したい事あったらいつでも連絡くれていいから」
「円城寺さんが暴走したら連絡しますね」
乾いた笑いしかでなかった。えらい嫌われようだ。
それからお互い黙ってしまい静寂が訪れた。
少ししてから彼女がこちらを窺うような目線で躊躇いがちに尋ねてきた。
「あの……あの人とは上手くいきました……?」
わざわざ報告することでもない上に顔を合わす機会も少なかったのでまだ彼女には伝えてなかった。
「おかげさまでなんとかね」
「そう……ですか。おめでとうございます」
「ありがとう」
やっぱりショックだったのか彼女は悲しそうな表情になった。
「もし捨てられたらいってくださいね。いつでも拾ってあげますから」
俺は苦笑して答える。
「人を子犬みたいにいうなよ」
「ちょっと犬っぽいですもんね。首輪つけて飼いたいな」
恐ろしいことを言うなこの子は。ちょっと目が本気なんですけど……
整理を終えた俺は会社にいた人たちに挨拶をした。所長からからは達者でな、とだけ言われた。
この人には悪いことをしてしまったな、と少しだけ申し訳のない気持ちになった。
◇
入社式を翌日に控えた俺は東京に向かうための新幹線に乗っていた。
やることもなく窓から外を眺めていた。すると富士山のあたりを通過したあたりで電話が鳴った。
電話の相手は五十嵐さんだった。
「六本木くんこんにちは。今ちょっといいかい?」
新幹線のデッキに移動して電話を続けた。
「明日は入社式だねえ、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、これからお世話になります」
「明日でも良かったんだけど早い方がいいかと思ってね。会社決まったよ」
予定よりだいぶ早い。俺は緊張して続く言葉を待った。
「ちょうど欠員があったみたいでね。急なんだけど5月から第三帝国のプロジェクト行ってもらいたいんだ」
告げられた派遣先は、因縁浅からぬところだった。
まさか10年来バチバチにやり合っていた会社に行くことになるとは……
意外すぎて理解が追いつかなかった。
ふと頭によぎったのは、いつも俺のことを冷たい視線で睨む女の子、二宮のことだった。
「マジかあ……」
今後のことが一気に不安になって来てしまった。
敵と味方が入れ替わる展開が好きなんです。
相変わらず恋愛要素が少なめでごめんなさい……
ガールズラブの方でも進めようかな




