新会社の誕生
「わが社は新事業を立ち上げます。既存の新しい枠組みの中では機動力に欠けるということもあり、今回は新しい会社を立ち上げることとなりました」
2月も終わりに差し掛かったある日、モニター越しに聞いている全社会議の中で衝撃的な発表がなされた。
増え続ける社会保障費の中で、最近ではジェネリック医薬品が急速に拡大している。
そういった状況を考慮し今まで先発品専業だった会社の方針を変えることにならざるを得なかったのだろう。
ある程度納得出来ることではあったのだが、ひとつ疑問があった。
人はいるのか。
そんな疑問に答えるような形で発表は続く。
「当然雇用を行っていくことになるわけですが、皆様の中から新会社の立ち上げを行っていただく中心メンバーを募ることになると思います。今後のキャリアを考えていく上で貴重な経験になると思います。この新しいビジネスを成功させましょう!」
予想通りというか、結局は子会社へ出向する人間がでてくるようだ。
既に社長等幹部ポストは決定しているようでそのあたりが発表される。妥当なところが多かった。ただその中で一点聞き逃せないことがあった。
「西日本の営業本部長は現在兵庫第一営業所で所長をされている谷脇さんにお願いしております」
うちの所長だよ。一斉にみんなの視線が集まる。
渋い表情で所長がつぶやいた。
「あとで説明するから最後まで聞いとけ」
そういってモニターを指差す。
◇
会議が終了した後所長が話し始めた。
「内容は聞いてもらった通りだ。出向者は公募も受け付けるがこっちから頼むやつもいる。一応言っとくと向こうの会社では全員最低でも管理職ポストだからな。何か質問あるか」
しばらくざわついていたが、一人が質問した。
「給与面での待遇はどうなりますか」
「現状維持以上だとは思っておいてくれ。細かいところは俺も知らん」
更に質問が続いた。
「出向したら今の会社には帰ってこれませんか」
「転籍にはならん。4,5年もすればまた戻って来られると思うぞ」
その後も待遇面に関するものなど様々な質問が上がり、会議は予定時間を大幅に超過することになった。
◇
「急な話でしたねセンパイ」
いつものように後輩である三本松に話しかけられる。
「突然なのはいつものことだが今回は流石に驚いたな」
確かに最近では国内でもジェネリック医薬品を専業とするメーカを子会社として持つ会社が増えてきた。にしてもまったくその予兆もなかったためかなり意外に感じていた。
よくよく考えてもみれば今の会社はブロックバスターと呼ばれる年間1000億円以上を売り上げる大型品に利益の大部分を依存している。
数年以内に特許切れを迎えるそのあたりの製品の補填策が必要だったのかもしれない。
「それにしても所長出向なんですね。来たばっかりなのにさみしいなあ」
「お前なんか妙に気に入られていたからな」
三本松のやつは結構所長に目をかけてもらっていたみたいでよく面倒を見てもらっていた。
どっちも呑兵衛だから類友ってやつだったのかもしれないが。
「センパイは結構いじめられてましたけどね」
意地が悪そうに笑う彼女。
「まあ年も年だしそんな時期なのかもな」
「うちからも結構いくんですかね? 私有能だから選ばれちゃうかも。そしたら管理職?」
「なんだお前興味あるのか」
「なんか楽しそうじゃないですか?」
「若者は意欲があっていいなあ。希望するか?」
「うーん……そこまでじゃないですね」
あっけらかんと話す彼女。
「来週は内示もあるし、その時分かるだろう」
「案外センパイ出向だったりして……」
「縁起の悪いこと言うな、俺みたいな平社員はまずないよ。選ばれるとしたらもうちょっと上の連中だろ」
客観的に考えてもまずその可能性は低いと思う。
六本松の言う通りこういう新しいビジネスは興味を持つ人間も多いだろうから、今後の出世をちゃんと考えているやつは率先して希望するだろう。
「そんなことよりもう年度末だ。あと一か月数字仕上げるぞ」
「そうですね、所長の送別会も企画しなきゃ! センパイ下見付き合ってくださいね!」
「へいへい。仰せの通りにしますよ」
会社が変わっていく雰囲気を感じながらも何回と繰り返した決算月に突入していくのであった。




