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新プロジェクト

 正月明け、得意先への挨拶回りも一段落したある日のことだった。


 いつものように休憩も兼ねて自販機そばで缶コーヒーを飲んでいると後輩の三本松に話しかけられた。


「先輩、休み明けはなかなか仕事に身が入りませんね!」


「そうだな、と言いたいところだが年末からの仕事の仕上げでこっちはこっちで結構忙しかったんだわ。三本松は今日から仕事か。オーロラはしっかり見れたか?」


「おかげさまでたっぷり休み頂きましたので、目に焼き付けてきましたよ。あれは生きてるうちに一回は見ておいたほうがいいですよ! なんならガイドしましょうか?」


「そんな機会が万が一あったら頼むかもなー」


 いつものことなので適当に流しておく。

 こいつの顔を見るとすっかり日常に戻った感じがする。


「先輩はお休みどうだったんですか? 例の彼女とはしっぽりですか」


 ニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべながら話す。


「だから彼女じゃないって」


 えー、と意外そうな声を挙げる彼女。


 そうだったらどれだけ良かったことか。かなり勇気を出して告白したつもりだったのにとんだ肩透かしになってしまった。


 思い出してしまって少し落ち込んでしまった……


「振られても慰めてあげますからねー、ふぐとかでいいですよ!」


「どさくさに紛れてたかろうとするな」


 ペチっと頭をたたく、大げさに痛がる彼女。


「傷物にしたからには責任とって下さいよー先輩」


「とるかたわけ」


 いつもと変わらないくだらないやりとりではあったが、これはこれで和んだりする。

 案外助けられているのかもしれない、と思った。


「そういえば先輩、なんか今度の支店の新しいプロジェクトのメンバーになってましたけど、明日会議ですよね?なにやるんですか」


「俺も知らん」


 営業所を跨いで展開するプロジェクトのメンバーに俺は一応営業所代表という形で指名されていた。企画名しか知らされていないが、横文字が多くて何が目的なのかさっぱり想像できなかった。

 さらに所長からは、とりあえずお前行って聞いて来いとしか言われていないため詳しいことは何も分からない状況だった。


「確か円城寺さんがリーダーでしたよね」


「メンツ見た感じだとそうだったなあ」


 円城寺明、隣の営業所で働いている。それほど面識はないが、よく活躍している人間なのでなんとなくは知っていた。俺より2年くらいは年下だったはずだが、若手有望株ということで将来をかなり期待されている男だった。

 仕事ぶりが優秀なのは間違いないだろうが、出世欲が強いような印象があったし、正直なところではちょっと苦手なタイプだった。


「私あの人苦手なんですよねえ……なんというかガツガツしてるというか。悪い人ではないんでしょうけど」


「まあなるようになるだろ、こっちは乗っかるだけだから気楽は気楽だ」



 ◇



 明くる日迎えた会議。


「今回のプロジェクトの代表を拝命しました円城寺と申します。形ばかりのリーダーではございますが、是非先輩方のご協力をいただけますと幸いです」


 かしこまった挨拶をした後、企画概要が説明される。


 パイロット的に実施した自分の成功事例の紹介や、全体への展開方法、プロジェクトのスケジュール等が説明された。


「以上が概要となります。いかがでしょうか、ご意見ございましたら是非よろしくお願いします」


 色々指摘したい部分があるんだが、どうにも途中から入室してきた支店長が威圧感を放っていて発言しにくい。

 そもそもこの人が肯定なのか否定なのかよく分からない状態では自分の立ち位置も定められない。いくつもの営業所を束ねる支店長は絶大な人事権を持っており、その心象を損ねることはサラリーマンとして非常に大きな痛手となってしまう。

 そんな背景からか、出席した人間は各々が、議論にならないような当たり障りのない質問を繰り返していた。

 そう思っていたら支店長から発言があった。


「非常にすばらしい企画だと思います。是非今日参加されたメンバーが中心となって各営業所を盛り上げていってください。円城寺君は全体的なサポートをお願いします。成功を期待しています」


 この発言によって全体の方向性は決定してしまった。どうやら肝いりのようだ。

 良いも悪いもない、とにかくやる。やれば成功する。結論ありきであるこの企画にとって是非を議論するのは時間の無駄でしかない。


 空気の読めるサラリーマンたちはどうすれば円滑にスケジュールを進めることが出来るのかの議論に移っていった。


 正直なところ、不安しかない。とんだ外れくじだと思った。



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