振られた?振られてない?
「どうしたら好きになれるか……ですか」
考え込んでしまう彼女。彼女を困らせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
しかしこちらももう引くに引けない。
しばし間があった後に言葉を繋げる彼女。
「正直な意見として、すぐに好きになるのは無理だと思います」
きっぱりと告げられた。その表情は真剣そのものだ。
でも、と前置きをして続ける彼女。
「六本木さんにそこまで仰っていただけるなら私も努力してみようと思います」
意外と可能性はあるのだろうか、すぐに気持ちは変わらないだろうが、彼女は将来的な可能性に対しては好意的に捉えてくれているようだ。
「ありがとう、前向きに考えてくれて。好きになってもらえるよう、俺が出来ることはどんなことだってするつもりだ」
彼女の真摯な思いにはこちらも誠意を持って答えるしかないだろう。
言葉通り彼女のためならどんなことをしたっていい。
「いえ、こればっかりは私自身の問題ですから」
「一ノ瀬さんだけの問題ということはないだろう。例えば具体的に嫌なところがなんかがあれば率直に教えて欲しいんだ」
「それはまあちょっと匂いとか独特ですよね?でもそれってどうしようもないですよね。そう感じてしまう体質だと思いますし」
眩暈がしてしまう。俺って実は体臭がきつかったのか。みんな気を使ってくれていたんだな。
「それは申し訳ないとしかいいようがない。改善できるか分からないが努力はするよ」
「さすがにそこまでさせるわけには……ちょっと途方もない話じゃないですか?」
確かに汗腺除去とかになってしまうだろうから大掛かりではある。彼女の指摘ももっともだ。……もちろんやるつもりではあるが。
ふといいことを思いついたというような表情を浮かべ目を輝かせながら彼女が話し始めた。
「でもそうですね、一人だとやっぱり難しいことも多いので六本木さんに一緒に付き合ってもらえると嬉しいかもしれないですね」
なるほど試しに付き合ってみるということだろうか。非常に建設的な発想だ。
同一人物でない限り価値観が完全に一致することはないだろう。試用期間というのは理にかなっている。
「お試し期間ということかな」
「そうですね。せっかくですから今日からでも試してみますか?」
願ってもない申し出に血圧が上がる。頭が沸騰しそうだよとはこのことか。
敗戦濃厚だったが終わってみれば逆転勝利か。落ち着いて返事をする。ちょっと声が上ずってしまった。
「あ、ああ、そうしよう。こちらこそ是非お願いします」
それを聞いて意を決したような表情になった彼女は、手を挙げて大きな声で店員を呼んだ。
いきなりの出来事に混乱している俺をよそに彼女は近くに来た店員に話しかける。
「あの、さっき変更でお願いしたパクチーのサラダなんですけどやっぱりそのままお願いしてもいいですか?」
ちょっと理解が追いつかない。彼女は一体何を言っているんだろう。
実はさっきから少し話がかみ合わないところがあって微妙な違和感を感じていた。
「それにしても六本木さんがそんなにパクチー好きだったなんて意外でした。私も好きになれるように頑張りますね!」
全てを察してしまった。
俺が席を立ったとき、彼女は店員にパクチーサラダの変更を申し出た。確かに手元のメニューには燦然とパクチーという文字が輝いている。
席に戻った俺の告白をパクチーに対するものと勘違いした彼女。
そりゃ好きじゃないだろう。匂いも嫌いだろう。俺だってそうだ。
その後完全に心をへし折られた俺は心を無にしてパクチーが大好きな振りをするのであった。
こうして俺の一世一代の大告白によって、彼女に俺がパクチー大好き人間だという印象を植えつけることに成功したのであった。




