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勝機は微粒子レベルで存在している

 どうしたらいけるか。年度内にトップシェア。

 一応シミュレーションもしてみたが、想定の増加ペースの4倍は必要だ。

 どうやったって体は四つには増やせないし、闇雲に仕事の量を増やしたところでそれが正比例するとも限らない。


 どんなに考えたところで答えなど出るわけもない。

 それでも俺はそれが報われると信じて仕事量をただただ増やした。

 毎日毎日、早朝から深夜までだ。


 あれから別に所長は何を言ってくるわけでもない。時たま、年内な、と念押しされるくらいだ。


 がむしゃらに働き続ける日々が数週間続いた。気づいたら季節はもう冬だ。

 朝晩の冷え込みが堪える。毎朝起き出す気力も湧かず、まるで自分の体でないような感覚がある。

 ラジコンを操縦するように実感ないまま体を動かし続けた。


「最近疲れてませんか?無理しないで下さいね」


 ささくれた心を癒すように優しげな声が掛けられた。

 一ノ瀬さんだ。大丈夫、冬は苦手なんだと強がる。


「そうですか……たまには休んでくださいね。えーともうすぐイベント目白押しの年末ですよね」


「長く感じたけど、今年ももう終わるかあ」


 年をとると一日が早く感じるそうだ。新しい情報が入りにくいから新鮮に感じる日が減って、早く過ぎるというメカニズムらしい。

 彼女と出会ってからの日々は新鮮に感じたから長く感じて当たり前か。


「お互いさびしい独り身同士ですし、クリスマスにイルミネーションでも見に行きませんか!いいとこ見つけたんです」


 相変わらずの友人関係だ。

 友達以上恋人未満ってのはあるが、これは友達と完全にイコールという扱いだろう。

 かなり切なくはなるがそれでも彼女と過ごせるのであれば大歓迎だ。


「そりゃいいや、ぜひいこう」


 ひとつ年末に向けて楽しみなイベントが出来たことだし、すっきりとした気持ちで迎えられるよう。仕事の方も片付けないといけないな。



 ◇



 今日は11月までのシェア状況が公表される日だ。確実に数字は伸びている。ある程度の手ごたえは感じていた。


 が、結果には落胆せざるを得なかった。相手も同じように伸びていたため、シェア差はわずかに縮まるばかりだった。


「六本木、どうだ成果でてるか?」


 所長から気軽に声をかけられる。


「……相手も伸びていますので、差はそれほど変わっていませんが、実績は確実に伸びています」


「別にそんなんどうでもいいよ、どうせ誤差だろそんなもん。俺は年度内に抜けばいいって言っただろ。その意味を考えろよ。ただ目処だけはつけろよ」


 激しく叱責されると思ったから拍子抜けだ。ようやく現実が理解できたのだろうか。


「結果でんかったら、来年度お前の席ないからな」


 底意地の悪い表情を見せる。どうやらまだ本気のようだ。さすがに左遷は困る。俺にはまだこのポジションを維持しなきゃいけない理由がある。


 ―― 一ノ瀬さんに会えなくなるのは困る。



 ◇



「どうでしょう、200例。切り替えられそうな対象いませんか」


「いるわけないだろ、お前んとこと半々だ。これくらいで満足しとけ」


「ですよねえ……」


 循環器内科部長と話す。だめもとでふっかけてみたが当然のように撃沈した。当然競争相手も必死だ。


「まあ発売中止にでもなったら切り替えてやるよ!」


 あり得なさ過ぎて、もうそれは神頼みしかなくなる。

 ところで、ふと疑問に思ったことがあった。


「あれ、半々ってことは先生使う降圧剤ってうちのと向こうのだけですか?」


「ああ、俺ジェネリック嫌いなんだよね、だから今はお前らんとこのしか使ってない」


 時代錯誤な事を言う。別に効果はほとんど変わらないだろうに。国策に歯向かっているとしか言いようがない、今時こんな人も珍しいと思った。





 ――あれ、これいけるんじゃないか?


 逆転策を閃いてしまった。確率は結構低いが、今はこれに縋るしかない。

 暗くて長いトンネルの出口が少しだけ見えたような気がした。

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