ノエル式、褒美という名の苦行【2】
「リリアさん……! その、胸が……、当たってます……!」
本郷は何とかこの状況を打破しようと試みていた。口にするのは恥ずかしいと思ったが、こうすればリリアも手の力が緩まるだろうと思ったからが。
「ふふ、それが何か? 人の胸をガン見するゲス野郎にはご褒美だと思いますが?」
「ぐぉ!? もっと締まって……!」
逆効果だった。リリアの軽い笑いの後に更に自分を締める腕に力が入ってきている。その度にもにゅもにゅとふくらみが当たる。
こんなにも複雑な感情は生まれて初めてだった。こんな状況でなければ喜べただろう。
「リリア、相変わらず顔色1つ変えないな! そんなんだからお前は『鋼鉄』なんだ」
「そういう少佐こそ、男の前でその女を寝とろうとするから『最悪』と呼ばれるんです」
「そういうことかよ……。全然戦いと……関係ねぇじゃん……!」
楽しそうに会話する2人に対して、きっと相当な実力者だと思っていただけに、何とも言い難い二つ名にがっかりしていた。
「少佐! いい加減に離してください!」
「なんだアイネ初めてか? てっきりホンゴーに捧げたものだと思っていたが……」
「そうなんですタイチさんって全然相手に……。そういう問題じゃなくて……!」
なんだ? 何かを会話しているが首を絞められていて口論をしている事しか本郷には分からなかった。
『バサ』
音だけだったが、何か布のようなものが床に落ちるような音がした。
「ちょ! 少佐なんで服を脱いで……。私のも脱がそうとしないでください」
「そう緊張するな。これでも私はベテラン兵だ。何度も『戦場』に立っているからな!」
「スカートが……! タイチさん早く! リリアさんも止めてください!」
恐らく、目の前で百合的な何かが展開されているのだろう。すごく気になるが何も見えない。
「少佐が楽しそうであれば何よりです」
「ぐぉぉっ……!」
あぁ、苦しさが快楽に変わってきてしまうんじゃないかと本郷は思っていた。
『まだだ! まだ終わらんよ!』
何かのアニメのセリフを心の自分が必死に叫んでいる。こんなところで落ちてしまうものか。耐えきってやると意気込んだ。この後の展開が気になるから、という気持ちも少なからずあるが……。
「意外と耐えますね。じゃあこれならどうでしょう」
リリアがフーッと本郷の耳に息を吹き替えた。
「……ごはっ!??」
突然緩まった力と、吹き替えられた息。そして呼吸が楽になり一気に空気を吸い込むとふわりといい匂いがする。頭が状況を理解できずにいた。
「ふん!」
「ぐぇ!?」
次の瞬間、先程よりもさらに近い形で締め上げられる。首を絞められるというよりは閉めたまま待ちあげられたような感覚だ。これはマズイ……。本郷の意識が飛びそうになる。
「パンツは! パンツは降ろさないで……!」
アイネの最後の言葉を聞いて、本郷は落ちた。
◆ ◇ ◆
どれぐらい時間がたっただろうか。ふと本郷は目が覚めた。
目の前が眩しい。どうやら被せられていた布が気を失っている間に取られていたようだ。
「やっと起きたか。それでも、リリアの責めにあれだけ耐えた奴はお前ぐらいだ。どうだ? 気持ちよかっただろう?」
「あれ、下手したら死んでた角度だと思うんですけど……」
目が覚めると、下着姿で机に座り足を組みながらプカプカとタバコを吸うノエルが目の前にいた。なんとハレンチな格好だろうか。こんな格好でさえなければご褒美なのにと思う本郷。
西部劇で首をぶらんぶらんロープで下げられる死刑囚のような角度の締め方だったが、召喚者以外に、それもこんな形でゲームオーバーにはなりたくないと心底思った。
「私もちゃんと死なないように加減してましたから。でも、そちらの気があるんじゃないですか? 一部はとても元気でしたよ」
「俺の身体に何もしてないですよね!? 大丈夫ですよね!?」
ニヤリとリリアが笑ったが、こちらの問いに対しては答えない。本当に何もされていなんだよな……と不安になっていた。
そういえばアイネは無事だろうかと、少佐のベッドに目をやった。シーツで体を包んではいたが、衣服がベッドの周りに散乱している。そして、どこか遠くをボーっと眺めるような死んだ魚の目をしていた。
「アイネは……大丈夫なんですか……?」
「とても可愛い反応だった、実に良い! これからもちょくちょく楽しむことにしよう!」
ビクッとアイネが電気ショックでも受けたかのように跳ね、ガタガタと震えている。あの後一体何があったのだろう。本郷は聞かないようにしておくことと、あとでしっかりフォローは入れておいた方がいいなと考えていた。
「それで、だ。ホンゴー。お前、まだ私に隠していることがあるだろう」
「なんのことです……?」
「お前、『何もない空間から』武器を出せるだろう? 私とリリアにバレないよう獣人族たちにも口止めをしておいたようだが、知らないとでも思ったか?」
『いつかはバレると思ってたけど、思ったより早かったな。やっぱりこの人は騙せないか』
本郷は自分の存在を遂に教えることにした。




