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ノエル式、褒美という名の苦行【1】

 バンデン砦での戦いが終わり、一行はトルガ村へと帰路に就いた。負傷者は出たが、軽傷ばかりであり。問題はなさそうであった。

 この作戦で腑に落ちないことがあるとすれば、途中からの『正規兵の参戦』である。あれほど手伝わないと豪語しておきながら、いざ砦が落ちそうになると手柄欲しさに介入してきたのだ。


「なんか、弱然としないよな。あの小太りデブめ……」

「軍としての威厳も必要だと判断したんでしょうね。それでも彼らが来てくれたおかげで突撃部隊の皆さんもほとんど無傷で済みましたら」

「そういえば、砦の上で狙撃したのってアイネ……だよな?」


 あの時、明らかな射程外から撃たれた件について、本郷はアイネに尋ねる。


「咄嗟の事だったので上手く説明できないんですが、空気の抵抗が威力を下げると聞いてましたので、だったら風の魔法で抵抗を少なくすることと、押し出す力を加えれば距離が延びるかなと……」

「すごいな。とっさの判断でそこまで考えていたのか。でも、それが他の人間にもできればかなりの戦力が……。」


 本郷の期待が膨らむが、疑問もある。アイネ並みの銃の腕で同時にそんな魔法も使うということが他の人にも出来るものなのだろうかと。


「アイネ、それって他の人でも出来そう?」

「出来るとは思いますが、私もあれから一度も成功しなくて……。なんであの時上手くいったのか良く分かりません。タイチさんを守らなきゃって思っていたら出来たので……」

「そうか、でも助かったよ。ありがとう」


 本郷はアイネの頭をポンポンと叩き、撫でた。


「タイチさんはこういう時ばっかり、ズルいです……」

「何か言ったか?」

「何でもないです!!」


 怒るアイネに対し、触られるのが嫌だったのだろうかと感じていた本郷であった。2人が会話していると、リリアがこちらに向かってくる。


「ホンゴー、少佐がお呼びです。今すぐ来るようにと」

「少佐が、ちゃんとバンデン砦の報告書は作ったはずなんだけど……」


 何か書類に問題点があったのだろうか。詳細に書けと言われたので、準備から最後まで書いたはず。伏せたとすれば召喚者のことぐらいだ。司令官の件は捉えようとしたが失敗したため、交戦となり射殺と記載していた。


「それとアイネさんも来るように言っていましたのでご一緒に」

「私もですか?」

「はい。私も2人を呼ぶ件についたは詳細は聞いていませんので……」


 アイネもということは魔法がらみの案件だろうか。リリアに着いていき、ノエルのいる執務室へと向かった。


 本郷はドアを数回ノックして入る、


『コンコン』

「少佐、失礼します。……誰もいない?」


 ノエルの部屋に入ると、真っ暗で明かりが着いていなかった。


「タイチさん、少佐がいないんですか」

「そうみたい、リリアさんこれはいったいどう、むご……!」


 突然目の前が真っ暗になる。何か袋のようなものを頭に被せられたようである。


「おーおー、アイネ、お前はこっちにこい。なに、ホンゴーに危害を加えるつもりはないよ。リリア、そこにそいつを座らせて縛れ」


 袋の網目から光が入ってきて、部屋の明かりが着いたということと、ノエルが部屋の中にいるということは分かった。体をぐいぐいと引っ張られ、肩をぐっと下げられる。この感じは椅子に座ったらしい。そして、座ると同時に両手ごと体に締め付けられるように縛られた。何とか動こうとしたが、イスごと括られているようで動けなかった。


「ホンゴー。単刀直入に聞こう。軍の機密室に入ったか?」

「機密室? いったい何のことです!? 知りませんよそんなの!」

「嘘ではないんだな?」

「本当です!」


 ノエルの言う機密室という場所は本当に知らなかった。どうやら本郷の何かが、機密室に関係しているようである。


「お前が書いた最新式の銃や武器、まだ開発も出来ないだろうという兵器。それに今回の作戦やラぺリングの件について、似たような分権がつい最近、軍の機密室にあるのを私は見た。まるでお前が出したような図面や今回の作戦方法もそっくりだった」

「俺と……? そう言われても入ってないものは入っていないんですって!」


 自分と似たような考えを持っている人が軍内部にいるということだろうかと本郷は考えた。少なくとも今後開発されるであろう連射式銃や、初期の戦車であれば軍の開発を優先にしているガムルスで同じことを考える人もいるかもしれない。それと被っているということなのか……。


「まぁ、貴様は嘘を付けるようなやつではないか。いいだろう。今回の件は不問にしよう」

「不問も何もなんもしてないですって! 解いてくださいよ!」

「今回の功労者には少しはサービスをやらないとな」


 サービス? この状況でこの人はいったい何をするつもりだろう。なんだかとても嫌な予感がして本郷は抜け出そうと椅子をガタガタを動かした。


「リリア! そいつを抑えておけ!」

「はい」


 ノエルの指示でリリアが本郷の首を絞める様に片手をこちらの首に回す。まるでチョークスリーパーそのものだった。


『苦しい……! でも当たってる! どっちだ!? 俺は今幸せと不幸のどっちだ!?』


 身体を密着されるようにしてこちらの首を掴んでいるため、リリアの胸がもろに本郷の頭に当たっていた。本郷はもがきつつも首を絞められる苦しさと、後ろから伝わる柔らかい感触のどちらに集中するべきか本気で悩んでいた。


「苦しいか、嬉しいか分からんだろう? 大体の男たちはそうなる。さて、こちらも楽しむとしよう」

「ちょ……! 少佐何を!? きゃっ!」


『ドサッ』


 苦しみと嬉しみが続く中、何かがベッドに倒れていく音が聞こえる。


「良いではないか良いではないか……」

「良くないです! タイチさん助けて! ちょっと少佐、どこ触ってるんですか!?」


 気になる。本郷はとても今目の前に起きている光景が気になっている。しかし、被せられた袋はかすかな光を通すだけ。早く抜けようとするが、リリアの力が強い。

 そして、リリアがもっと押さえつけようと体に力を入れるたびに首が閉まり、頭に挟まれたクッションのようなそれが更にむにゅっとこちらを包んでいた。


『苦しい……。でもやはりデカい! 苦しいのに嬉しい……! なんだこの感覚は……!?』


 変わらず声が出せない状況で、心の葛藤が渦巻く。

 そして、褒美という名の苦行が続いていく。

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