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バンデン砦奪還戦【4】

『ぐはぁ!』


本郷は爆発の方向を向いていた兵士を太刀で斬り倒す。それと同時に他にいた7人の見張り達もコブス達が次々と音も立てず倒していく。


「よし、タイチは俺と残れ。ベアーズ、お前たちは半数に分かれて内部制圧と寝ている奴らを片っ端から片付けろ。マウシーは残りと最優先で城門の閉鎖に迎え」


「「了解しました」」


ベアーズは熊のような獣人で、マウシーは鼠の獣人だ。見た目と名前が本郷の知っている知識にぴったりだったのは助かった。カタカナばかりの名前は聞きなれていなくて覚えにくいと思っていたからだ。そう考えるとミケットも猫の獣人だからミケットなのだろうと思った。


下の階から兵士達の悲鳴が聞こえてくる。恐らく味方が敵兵に襲いかかっているのだろう。動きも、能力も人間よりも強いのが獣人族の特徴だ。魔法や銃をすぐに使えない態勢で、しかもこちらには銃剣という新しい装備もある。狭い場所での白兵戦も剣よりも有利なのは間違いない。


しばらくして銃の発砲音も聞こえてきた。


『パンッ、パンッ、パンッ』


連射の速さからしてこちらの銃で間違いない。ラカスラトにも銃は存在するが、単発式で一回ずつ装填するしかないタイプしか存在しないはずだ。


『ギギギギギギー、バタン!!』


砦の下を覗き込むと、開いていた城門が閉じられている。城門の横に設置されていた窓からマウシーが顔を覗かせ、腕をグルグルと回している。『閉門成功』の合図だった。


「上手く作動すればいいんだけど……」

「それがタイチの言っていた『信号拳銃』か?」

「まぁ使い道はいろいろあるんだけど今はこの彩光弾っていうちょっと明るい色が光るぐらいかな」


本郷は信号拳銃を真上に構え引き金を引く。特殊な弾薬は打ち上げた後に空中で破裂、分離し、弾の先が燃焼を始める。そしてパラシュートが開くので、ゆっくりと燃えながら落下する仕組みだ。



『バンッ………シュゥゥゥゥ』


打ち上げらてた弾が夜空で破裂すると、ゆっくりと白く光りながら落下していた。


◆ ◇ ◆


「来たわ、突撃合図よ! よーしアンタたち! 行くぞオラァ!!」


そういうとアイネと数人の兵士を除き、ジェリド達は城門前の基地に向かって全速力で突撃していった。 

アイネと残った数人は逃げ出した敵の掃討である。もっとも、アイネには狙撃の指示も出してはいたが。


◆ ◇ ◆


『くそ! なんで門がしまってるんだ!』

『おい開けろ! 敵がこっちに来る!』


閉じられた門の前に敵兵が集まり何とか門の内側に入ろうとしていた。城門を確保してていたマウシーの部隊が城門の側面に開けれていた窓から銃を向けて発砲している。


「順調、順調。作戦通りじゃないか」

「私とジェリドがみっちり鍛えたんだ。伊達じゃないさ」

「川に投げ込まれていた時が懐かしいなー」


その時、背後から近付いていた敵兵に本郷は気が付いていなかった。傷だらけで血まみれだったが、致命傷を免れていたのだろう。何とか、一矢報いろうとしていたのだった。少しずつ、相手に気が付かれまいと進んでいた。


「タイチ! 後だ!」


先にその気配に気が付いたのはコブスだった。その言葉に驚いた本郷が振り返ると、そこには血相を変えて

こちらに剣を突きつけようと走り出している兵士の姿があった。太刀か銃を取り出さないと、そう考えたがどう考えても間に合わない勢いでこちらに向かってきている。もうダメだ!


『ヒュン!』


何かがもの凄い速度で飛んできて、本郷の横を通り過ぎ、向かってきていた兵士の体に当たる。突然の事だったが、気が付くと兵士はすでに倒れていた。


「なんだ!? 何が起きた! いきなり倒れたぞ!」

「多分、アイネだと思う。狙撃してくれたんだよ」

「この距離をか? 魔法の射程よりも長い距離だぞ」


確かに、腕が良ければ届くかもしれないが、たった数回の訓練でこの距離が当たるのだろうか。ともかく、そのおかげで助かった!


◆ ◇ ◆


「当たった!」


想定以上の長距離の狙撃に成功したことを一番驚いていたのはアイネ自身だった。


この少し前、ふと、本郷は大丈夫だろうかと心配してスコープでその姿を認識したとき、良かった、無事みたい! と思ったが、その後ろから敵が剣を持って動いている姿が見えた。


撃たなきゃ! すぐにそう思ったが、本郷が教えていた距離よりもさらに遠い、もしかしたら本郷やコブスに当たってしまうかも、むしろ外れてしまうかもという気持ちがあった。それでも、背後から近付いて敵に2人が気づいていない。このままではやられてしまう。どうするべきかと考えた時に本郷から言われていたことを思い出していた。


『弾も魔法もそうだけど、重力って言うんだけど、地面に引き寄せられる力や、空気の抵抗なんかで少しずつ威力が落ちていくんだ。だから適正な距離は大事なんだ』


重力の事に関しては良く分からない。でも空気が壁となってぶつかるのであれば……。

スコープを除き、しっかりと狙いをつけて引き金を引く。


『ズバン!』


スコープでとらえていた敵が倒れ、本郷とジェリドがこちらを見ながら驚いた表情をしているのが分かった

アイネが行ったのは魔法による弾丸の強化であった。極限まで風の抵抗を減らし、かつ風の力で更に勢いをつけることで射程距離を無理やり伸ばしたのである。正直、一か八かの賭けではあった。


「本当に当たるとは思わなかったなぁ……」


◆ ◇ ◆


「ホンゴーさん! コブスさん!」


階段を駆け上がり、ベアーズがこちらに向かってきていた。何か問題があったのだろうか。思っていたよりは順調に進んでいた作戦だと思っていたが……」


「どうしたんだ? まさか、誰かが負傷したのか!?」

「いや、俺たちは無事です。ただ……敵の指令室の守りが固くてそこだけ制圧できてない」

「指令室か……。まぁ予想通りだろう」


何かあったのかと心配する本郷をよそに、なんとなくそんなことだろうとコブスは思っていたらしい。自分たちが訓練した兵士がこんなところで負けることがないという自信があったのだろう。


「敵が指令室の前でバリケードを作って籠城してるんです。これじゃ時間がかかり過ぎてしまう!」


城門で守りを固めてはいるが、敵も何とか中に入ろうと城門へ魔法による攻撃を繰り返していた。早めに内部を制圧して表側の敵に備えなければ、ジェリド達の突撃部隊による挟撃が失敗してしまう……。


「あのさ、司令部の位置はどこだ?」

「ちょうどここの反対側の下の階です」


砦内の反対側に回り込み、下を覗き込む。何人かの兵士達が難を逃れ逃げ出していたが、今は放っておこう。門の上、ちょうど本郷たちと城門の間の階の明かりが窓からこぼれているのが分かる。本郷はそれを見てアイテムボックスからロープを取り出した。


「コブス、ベアーズ……。俺を縛ってくれ!」


突然の発言にコブスもベアーズも目を丸くしていた。

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