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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 下
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第五話 「スロースタート」 3

    3


 同日、午後十時十五分。

 リナが便利屋を飛び出すと、聞き覚えのある声が背後から放たれた。

「あら、リナさん」と唇に人差し指を当てて言うユイネ。

 リナは、おまえには構ってはいられないと言いたげな視線を送ったが、ユイネはそれを無視し話題を振った。かつてゴーストの一員であった彼女はゴーストなりに言う。

「あれからずっとあなたを見ていると、何か口実を見つけて街を飛び回り誰かの情報収集をしているとしか思えないのだけれど、お忙しいかな?」

「奴を知っているのか!」

 何か知っている風に話すユイネに何か期待を抱いて飛びつくリナ。

「いや、わたしは知らないけれど。それが誰かなって」

「私はゴーストの真のリーダーが熱海正一だとは思っていない。おまえはどう思うか?」

 彼女の気迫はいつもとは違う。それもそのはず、彼女が探している人物とは既に対峙したことのある人物なのだから。

 ゴーストの拠点を攻撃している中、一人だけ戦線から離脱したリナが戦闘していた人物。白髪で仮面の若い男。

「そう言っても、ゴーストを指揮していたのは熱海さんだったよ?」困ったように答えるユイネ。

「その熱海をさらに指揮していた人物がいると言っているんだ。何か知らないのか? 白髪で若い男を。人を見下して神のような気分に浸ってそうな男を」

 もはや問われた「何か」が詳細であったが、それでもユイネは深く考えた挙句首を振った。

「そうか……ならいいわ」とリナは言って走り出した。

 首を傾げ、ユイネは便利屋へ入った。

 走り出したリナは迷わずに橘の元へ向かった。決して彼に用事があったわけではないが、静かに行動するため、わざと軍へ赴くのだ。

 橘が軍事基地の前で車を用意し、リナを待っていた。ゴーストを崩壊させてから毎日この調子なのだ。橘も気が利かない男ではない。

「情報屋よ、少しは落ち着いたらどうだ? 毎夜この調子じゃあ、いつかおまえも体を壊すぞ?」と彼の前まで走って来たリナに言った。

「それくらいでなくては困る。私の体と奴の身柄では私の方が安い」橘が苦笑したが無視し「あいつは異常だ。私とて第四位までは暴力でひれ伏せられる。けれど奴は余裕とかそのレベルではなかった」

 口調が乱れる彼女は、もはやいつもの優しい人格と異なっている。目がいつも異常に鋭い。口も笑っていない。

「ひょっとすると銃を持って行っても、奴は私を簡単に追い返せただろう」吐き気を覚えたのか一瞬目を見開く。そして静かな声で怒鳴るように告げる。「なんたって奴は私の攻撃を一度としてくらわなかったんだぞ」

「ヨルの性格でも移ったか? 自信過剰だ。まあおまえの攻撃はあの少年でも避けるなど不可能だとは思うがな。第三位なら簡単に受け流せるだろう」

「何故あいつが超能力者の候補に載っていないのか不思議でしょうがない。スーシェとは別ものだぞ、あれは。筋力がどうとか、体力がどうとか、そのレベルじゃない。あれは超能力じゃなきゃおかしい」

 超能力研究をしている情報屋橘でさえ白髪の若者は知らない。現在男の存在を疑っているのはリナとヨルだけなのだから。

「私は突然表示されたこの現実世界と同じ時刻も奴の仕業ではと思っている」

 彼女はわざわざデータを開いて橘へ見せた。時刻は十時三十分を示している。本来設けてあって当然の時刻が表示された原因は、彼女が追っている男の仕業であると考えているのだ。

 橘は笑って見せた。「こんなことができる奴は運営しかいないぞ。データ、情報端末の改造と反映。幾らどんな超能力を持っていようと不可能だ」

「しかし、奴が運営側の可能性だってある。あなたも戦ってみればわかるわよ、奴は異常だ。超能力者のリストに入っていないことがおかしく思える」

「何故そうと言える」橘は問うた。

「私が『イレギュラー』であることくらい知っているでしょう? 私は勿論奴との戦闘でヨルの超能力を使った。というのに奴は私の攻撃を一度としてくらわなかった」

 どんな卑怯な攻撃をしても、奴は避けて見せた。笑いながら――それを仮面で隠しながら。

「まるで()()()()のように」

 橘は彼女の表情が深刻になっていくのを黙って見ていた。その男との戦闘に何かを感じているのだ。

「今日はどこへ情報収集に行くのだ? 情報屋よ」

 リナは橘が用意した軍の車に乗りながら答えた。ゴーストとの戦争があった日以降、彼女は街をまわり、男の情報を集めているのだ。

 彼女は情報屋だ。普段街を旅し、情報を集めている。しかしその頻度と重要性が著しく増した。例え男の情報がゼロだと知っていても、彼女は街を巡り情報をかき集める。なんとしてでも私は奴の尻尾を取るのだ。

「今日はオリジンゲート辺りよ」

 ヨーロッパ、オランダを連想させる広大な草原の街。原点なる街。この世界の中心。何事の最初であり、この世界に人間を呼び寄せた聖地。

 驚くべきことに彼女の勘は優れているのだった。しかし当の彼女も橘も知る由がない。


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