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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 下
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第五話 「スロースタート」 2


    2 


 九月二十四日、午後十時十三分。

 違和感にいち早く気付いた人物といえば、情報収集を趣味とするヒビヤだった。実体のないスクリーンで表示される「データ」に時刻が記されていたのだ。

「みんな、見てよ!」と彼は叫んだ。

 スーシェを除く便利屋の全員が既に揃っている。いつもの光景であり、こうしてヒビヤが話題を持ち出すのもまた日常だった。

 リナは彼に倣ってデータを開いた。ニュースやメニューが表示される中、右上に時刻が記されている。

「時間がわかるわね。アップデートでもされたのかしら」

 この世界は頻繁にアップデートされていた。元々バグというのは少なく、アップデート内容は主に街の増加やデータの変更だ。

「しかしやっとか。たかだか時刻を表示するために一体何年経ったと思っているんだ」とヨルはぶっきら棒に言う。

 この世界が世に出回ってから約六年。それまでに時刻が表示されていなかったのは不思議である。

 プレイヤーにとって時刻を把握できないというのは恐怖だ。ひょっとすると閉じ込められているのではないのか、と錯覚してしまう。

 時刻はリアルタイムで刻まれていた。現在の時刻は午後十時。この世界は午前五時に終わるのであと七時間ほどで鐘が響く。

「七時間ってわかると急に長く感じられるっすよね」

「そりゃ感覚より数値の方が正確だからな。俺達は七時間という長さを知っている。故に七時間と聞けば長く感じる」ヨルが返答すると続けた。「運営側はこの長く感じるようなことをプレイヤーにさせたくなかったのではないか」

 運営側がプレイヤーを慮って、その時間の長さから覚える退屈感をなくしたかったのではないか。

「殺人を見過ごす運営がしょうもないところで人を想うかな」と霊猫がヨルへ言う。

「それもそうだな」とヨルは簡単に折れた。

 彼は基本的に負けず嫌いな性格だったとも言える。令嬢舞歌が死ぬ前もまた同じで、誰かに屈しることは少なかった。少なくとも暴力で負けることはなかった。喧嘩をしていた頃は全勝、親と教師に何度も説教をくらったが無視。喧嘩を止めた頃はもはや争いがないため敗北がない。虐められていた頃も彼にとってあれはいつでも返り討ちにできると考えた上で看過していた。わざと暴力を振るわれた。令嬢舞歌が死にこの世界へ亡命しても、彼は超能力を手に入れ常に頂点でい続けた。

 それ故に自分より強い人間が現れると、どうしても彼は闘争心が剥き出しになってしまう。譲との戦いでは、彼に勝機はなくその上人質も取られていた。だから彼は暴走し、自分の意思ではなく譲に勝利した。

 彼が暴力や言葉で誰かに屈するのは珍しく、久しぶりである。舞歌を尊敬していた頃以来のことだからだ。

 これは彼なりの成長と見える。ゴーストを倒し、舞歌の柵をなくしたため、彼は良心を取り戻し、一般人として生きようとしているのだ。

「では、私はこれについての情報を聞きに行ってくるよ。何か依頼が入った時はよろしくね、ヨル」

 リナは綺麗な笑顔で言って見せた。

 対してヨルは表情を緩ませていたが、彼女が部屋から出ると急に真剣な表情に変えた。

「なあ金髪、おまえ最近新しいニュースは届いていないか?」

「どうしたんすか、いきなり。最近は少ないね、ゴーストの記事ばっかだったから」

「もっと裏の情報はないか? 例えば新たな超能力者が生まれたとか、運営側が姿を見せたとか」

 ヨルはヒビヤに問う。その表情は真剣。

「持ってないな、そういう情報は橘さんの方が持ってるんじゃないかな」

 橘は情報屋だ。いつもは裏の情報は橘から仕入れている。しかし今回はその前に知っておくべきだと考えた。

 この世界の裏で何かが起こっているという情報の知名度を。表の人間がどれほどそれを知ることができているのかを。

「そうか、ならいい」

「一体どうしたんだい?」とヒビヤが逆に問う。

「おまえは知っているかわからないが、ゴーストとの戦争の最後だ、熱海が俺達のいた部屋から逃げた。それからすぐ部屋を確認すると、熱海が銃殺されていた」

 不思議だ、不自然だ。熱海は俺達に殺されまいと逃げたのに自殺をするなどおかしい。何かがあった。自分で仕掛けた罠にでもはまったか、あるいは仲間に銃殺されたか。

「それだけではない。戦争の終盤、リナが血だらけで戦闘へ参加してきた。それに、銃痕じゃなくてナイフのような傷を作って」

 服が破けていた。誰かと殴り合っていたに違いない。しかしゴーストの兵と殴り合う必要があるだろうか。リナもまた殺人を恐れていない悪党だ。いちいち殴り合う必要があるか。

「他にも、俺は憶えていないのだが、霊猫から聞いた話だ」自分の名前を出されて一瞬驚く霊猫を無視し「俺が殺した譲の死体が戦場から消えていたらしい。しかも翌日には死亡だ」

 上条譲は感電による心停止で死亡していた。死亡推定時刻は深夜二時あたり。彼が第三位の譲であることに間違いはない。しかし何故彼が死亡したのかわからない。

 蔵里英司は現実世界で犯罪行為を仕出かそうとした。そのため現実世界でリナに銃殺された。そもそもこの時にリナは誰から銃を貰ったのだ、という話だが結局ヨルの中では運営側だということでおさまった。

 だが上条譲は現実世界で犯罪をしていない。死亡時刻が深夜二時なら彼が仮想世界で死亡し、意識がないままログアウトの午前五時まで待っている状態のはずである。それが、警察に仮想世界と意識を繋ぐ機械が発見されていない。彼は機械を片付けることはできない。しかし機械は発見されず、感電による心停止とされた。

「何かが起こっている。この世界の裏で、誰かが動いている」

 ヨルがそう呟いた直後、便利屋のドアが勢いよく開かれた。リナが戻ってきたか、と思えば、知った声が聞こえた。

「お邪魔します! みんな気付いてるかな、データに時間が表れてるよ」

 軽快で無邪気な少女の声。ゴーストの一員だったユイネがいつも通り便利屋の部屋に入った。

 便利屋一同は呆れ、ヨルは「気付いているよ」といい加減に答えた。データの時刻は十時十七分を示していた。


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