第三話 「過去の遺志は受け継がれず」 10
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譲に対して銃を使おうとは思っていなかった。そもそも譲には銃など意味がないのだから。それを知っているヨルは、一度譲を撃ってからは自分の腰にある拳銃に手をかけなかった。
一瞬迷いが生じてしまった。譲の後ろで霊猫の首を縛り拘束している部下を撃ってやろうか。しかしもし霊猫に外せばどうなるか。彼女の能力は『破壊』。故に銃弾すら破壊してしまう能力を持っている。だがどうだろう、見たところ彼女は部下を殺せていない。あるいは彼女は動揺して、超能力を上手く発動できていない。
考えた末、彼は先刻同様強引に突破しようとする。
「だから言っているだろ」
銃声が響き、ヨルの体が高く薙ぎ払われた。彼は譲の頭上を通過しようとしたが、譲が彼を銃で打ち払ったようだ。
「目を凝らさなくてもいいって」
再び彼を悩ませることが起きた。彼は銃弾を跳ね返す能力を発動していたが、それが正常に機能していない。銃で撃たれ、薙ぎ払われた。そこで気付く。殴られた時に爆発音が響いていたことを知っていたが、正確に表現すればガラスが割れたような音だった。彼が殴られた時、銃によって薙ぎ払われた時、ガラスが割れる音ながら爆発を感じさせる不可解――否、不愉快な音が轟いた。
「かっこ悪いねえ、大切な女子の目の前でボコボコにされる気分はどうだ、ヨル」
譲は嘲笑う。橘のようなものとは全く異なる。心の底から馬鹿にしている。
「ふざけるな! おまえは何がしたいんだ!」
「何度も言っているだろ、おまえへの挑戦だ。ここで俺がおまえをぶっ殺したら、俺がこの世界の第一位ってね」
「その為だけに少女を攫うのか? おまえの価値観はどうなっているんだ!」
その怒鳴り声に譲は増して笑う。
「おまえは女だから助けるタイプの人間か、ああなるほどなるほど、今までもそう、超能力の研究者と手を組んでいた強弓が霊猫を実験台として攫おうとした時、おまえは霊猫が女だから助けたのか。英司が情報屋と中学生を狙った時も、女だから助けたのか。随分と露骨な女好きだな」
強弓が霊猫を狙った理由が明らかになった。研究者に差し出す。それこそが真実。辻褄も合わないわけではない。
馬鹿にされも、ヨルは繋がりを発見した。譲と英司は何かしらの関係がある。そうでなければ、データの新聞にも載っていない、リナとかのんの情報など知りようがないのだ。
譲が引き金を引く。その刹那、ヨルの体が後方へ飛ぶ。銃弾が跳ね返らない。そして銃弾は彼の肉体に埋まらない。まるで鉄球に薙ぎ払われているようだ。彼は最悪の状況を考えた。まさかこいつ、自分の能力を物に流しているのか?
「おおっと、勘付いたようだね、そうだ俺は物に超能力を入れられる。霊猫も『破壊』の超能力らしいから、後ろの部下に念のため『完全治癒』を入れておいた防具をつけさせている」
だから霊猫は能力が使えない。破壊も攻撃の能力で、つまりヨルと同じようなことが発生する。彼女はそれをわかったのか、能力をわざと発動していないのだろうが、もし彼女が破壊の能力を使えば、彼女の体は粉砕されるだろう。
ヨルの十八番、空気による念力のような拘束攻撃を譲があっさり脱出できたのは、その空気に治癒を使ったからだ。
「大切な女が目の前にいるんだぞ、ほらかっこうつけて見ろよ!」
譲が挑発する。ヨルはこの状況の打開策を必死に考えた。
俺はこいつに勝てないのか? 考えれば簡単なことかもしれないではないか。
考えろ、俺。何かあるはずだ。銃は意味がない。殴っても意味がない。殴られては駄目だ。やはり、いい場所に拳を入れるしかない。しかしそれでもあいつは死なない。あいつをどこか遠くへ吹き飛ばして、霊猫を助けて逃げるしかない。
いや逃げるのか? 俺は無様にこいつから逃げるのか?
そもそも俺は何故戦っている。そこまで俺は自分の第一位を守りたいのか?
結局俺は自分を守りたいのか?
いや、違う。俺は霊猫を守りたいのだ。自分なんて関係がない。俺がどうなろうと知ったことか。俺は霊猫を助ける為ならこの場で何だってしてやろう。土下座でもしてやろう。
だから俺は逃げない。せめて彼女を救うまでは何が何でも逃げない。
それまで考えるんだ。俺には何ができる。俺は負けてもいい。例え第一位が奪われても、彼女が助かればそれでいい。
考えろ――目の前の敵は譲じゃないだろ!
譲との戦闘を放棄して、譲をどうにか回避し、霊猫を救って逃亡するという計画まで行きついたヨルだったが、一足遅かった。答えとしては正解だ。今の彼では譲には勝てない。ヨルは無限のエネルギーを操作できないからだ。だが、遅かった。
その頃には霊猫の首筋にナイフが当てられ、わずかに血を流していた。霊猫は痛みと怖さに涙を零す。遅かった。彼は彼のままでいることができなかった。
霊猫が涙を流しながら必死にヨルへ訴えたからだ。
――助けて、と。




