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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
29/55

第三話 「過去の遺志は受け継がれず」 10


    10


 譲に対して銃を使おうとは思っていなかった。そもそも譲には銃など意味がないのだから。それを知っているヨルは、一度譲を撃ってからは自分の腰にある拳銃に手をかけなかった。

 一瞬迷いが生じてしまった。譲の後ろで霊猫の首を縛り拘束している部下を撃ってやろうか。しかしもし霊猫に外せばどうなるか。彼女の能力は『破壊』。故に銃弾すら破壊してしまう能力を持っている。だがどうだろう、見たところ彼女は部下を殺せていない。あるいは彼女は動揺して、超能力を上手く発動できていない。

 考えた末、彼は先刻同様強引に突破しようとする。

「だから言っているだろ」

 銃声が響き、ヨルの体が高く薙ぎ払われた。彼は譲の頭上を通過しようとしたが、譲が彼を銃で打ち払ったようだ。

「目を凝らさなくてもいいって」

 再び彼を悩ませることが起きた。彼は銃弾を跳ね返す能力を発動していたが、それが正常に機能していない。銃で撃たれ、薙ぎ払われた。そこで気付く。殴られた時に爆発音が響いていたことを知っていたが、正確に表現すればガラスが割れたような音だった。彼が殴られた時、銃によって薙ぎ払われた時、ガラスが割れる音ながら爆発を感じさせる不可解――否、不愉快な音が轟いた。

「かっこ悪いねえ、大切な女子の目の前でボコボコにされる気分はどうだ、ヨル」

 譲は嘲笑う。橘のようなものとは全く異なる。心の底から馬鹿にしている。

「ふざけるな! おまえは何がしたいんだ!」

「何度も言っているだろ、おまえへの挑戦だ。ここで俺がおまえをぶっ殺したら、俺がこの世界の第一位ってね」

「その為だけに少女を攫うのか? おまえの価値観はどうなっているんだ!」

 その怒鳴り声に譲は増して笑う。

「おまえは女だから助けるタイプの人間か、ああなるほどなるほど、今までもそう、超能力の研究者と手を組んでいた強弓が霊猫を()()()()()()()()()とした時、おまえは霊猫が女だから助けたのか。英司が情報屋と中学生を狙った時も、女だから助けたのか。随分と露骨な女好きだな」

 強弓が霊猫を狙った理由が明らかになった。研究者に差し出す。それこそが真実。辻褄も合わないわけではない。

 馬鹿にされも、ヨルは繋がりを発見した。譲と英司は何かしらの関係がある。そうでなければ、データの新聞にも載っていない、リナとかのんの情報など知りようがないのだ。

 譲が引き金を引く。その刹那、ヨルの体が後方へ飛ぶ。銃弾が跳ね返らない。そして銃弾は彼の肉体に埋まらない。まるで鉄球に薙ぎ払われているようだ。彼は最悪の状況を考えた。まさかこいつ、自分の能力を物に流しているのか?

「おおっと、勘付いたようだね、そうだ俺は物に超能力を入れられる。霊猫も『破壊』の超能力らしいから、後ろの部下に念のため『完全治癒』を入れておいた防具をつけさせている」

 だから霊猫は能力が使えない。破壊も攻撃の能力で、つまりヨルと同じようなことが発生する。彼女はそれをわかったのか、能力をわざと発動していないのだろうが、もし彼女が破壊の能力を使えば、彼女の体は粉砕されるだろう。

 ヨルの十八番、空気による念力のような拘束攻撃を譲があっさり脱出できたのは、その空気に治癒を使ったからだ。

「大切な女が目の前にいるんだぞ、ほらかっこうつけて見ろよ!」

 譲が挑発する。ヨルはこの状況の打開策を必死に考えた。

 俺はこいつに勝てないのか? 考えれば簡単なことかもしれないではないか。

 考えろ、俺。何かあるはずだ。銃は意味がない。殴っても意味がない。殴られては駄目だ。やはり、いい場所に拳を入れるしかない。しかしそれでもあいつは死なない。あいつをどこか遠くへ吹き飛ばして、霊猫を助けて逃げるしかない。

 いや逃げるのか? 俺は無様にこいつから逃げるのか?

 そもそも俺は何故戦っている。そこまで俺は自分の第一位を守りたいのか?

 結局俺は自分を守りたいのか?

 いや、違う。俺は霊猫を守りたいのだ。自分なんて関係がない。俺がどうなろうと知ったことか。俺は霊猫を助ける為ならこの場で何だってしてやろう。土下座でもしてやろう。

 だから俺は逃げない。せめて彼女を救うまでは何が何でも逃げない。

 それまで考えるんだ。俺には何ができる。俺は負けてもいい。例え第一位が奪われても、彼女が助かればそれでいい。

 考えろ――目の前の敵は譲じゃないだろ!

 譲との戦闘を放棄して、譲をどうにか回避し、霊猫を救って逃亡するという計画まで行きついたヨルだったが、一足遅かった。答えとしては正解だ。今の彼では譲には勝てない。ヨルは無限のエネルギーを操作できないからだ。だが、遅かった。

 その頃には霊猫の首筋にナイフが当てられ、わずかに血を流していた。霊猫は痛みと怖さに涙を零す。遅かった。彼は彼のままでいることができなかった。

 霊猫が涙を流しながら必死にヨルへ訴えたからだ。

 ――助けて、と。




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