27、執念
前節でようやく今シーズン初勝利を挙げた浅草エンジェルス。
第4節の相手は最強にして最大の壁・東京エリーザだ!
ホーム・台東区スタジアム
いつものように席に座って試合開始を待っていると…
「横、空いてますか?」
(他にも席は空いているのに変な女だな…)
「あっ…」
横に来たのはかつての常連客の春香だった。
3年程前まで俺にどっぷりハマり随分と貢いでもらった。
春香は多額の借金を抱え、首が回らなくなり行方不明になっていた。
「久しぶりだね。」
「なんで、ここにいるのが分かったんだ?」
「昨年からここに来てるでしょ?風俗してる子から聞いた。
今度はサッカー選手を地獄に落とすんだ?」
「なんだよ!地獄って?」
「よく言うわね。人を散々食い物にして!
私が借金でどんだけ苦しんだか分かってるの?」
「…」
「借金返済するのに3年かかった!風俗で必死になって働いて返したよ!」
「完済したなら良かったな。もうホストクラブなんか行くなよ!」
「あんたに貢いだ結果がこれでしょ!」
「俺は借金しろとか一言も言ってねーよ。」
「はっ!?他人事みたいに。」
そうこう言い合ってる間に選手が入場してきた。
「ちさ!エロホストの野郎、今日は女連れてるぞ?」
「別にお客さんが誰と一緒でもいいじゃん!」
「ホントかー?気になるでしょ?」
「なんで私が気にしなくちゃなんないの?バカバカしい!」
「イライラしちゃって~‼」
「してない!試合に集中!!」
(あの女の人…誰なんだろう)
「春香、少し黙っててくれないか?」
「私ね、結婚するの…」
「わざわざそれを言いに来たのか?」
「あんたにはいい勉強をさせてもらった…」
「勉強…」
「愛だの恋だのなんて人生には必要ない!
世の中、金だってことをね!」
「金持ちと結婚するのか?」
「ブサイクなヤツだけど親が資産家で都内に土地をゴロゴロ持ってるし。
顔なんかどうでもいい!風俗で鍛えられたから!」
「幸せにな…」
「あんたの顔なんか二度と見たくなかったけど…
私、お金と結婚する!お金があれば幸せになれる…」
春香は泣いていた。
春香の相手をしている間に前半が終了し選手がロッカーに引き上げていた…
「分かったからもう帰れ!」
「私、幸せになることをあんたに言うために…」
「他のお客さんもこっちを見てるじゃねーか。」
「言われなくても帰るし!
あの15番の子も可哀想。悪魔に取り憑かれちゃって…」
春香はそう言い残し泣きながら帰っていった。
(ふう…やっと帰りやがった。0対0か。
あっ!八神の野郎、こっちをガン見してやがる…)
「ちさ、あの女の人泣いてたよ…」
「もう、うるさい!」
「そう、カリカリするなって!」
「何考えて試合してるの?ホントどうでもいいから!」
「エロホストに聞いてやろうか?」
「バカなの?もう、あやとは口聞かない!」
「ゴメンゴメン。怒らないでよ!後半も任せときなって!」
「頼んだよ!」
(なんで泣いてたんだろ?帰っちゃったし…)
春香の結婚の話なんか正直どうでもよかった。
金持ちと結婚する?そんなことを俺に言うためにわざわざここまで…
女という生き物はよく分からないものだ…
それよりもせっかくの好ゲームを半分見逃してしまったことの方が悔しかった…
後半が始まると同時にエリーザ・寺本監督の怒号が飛んた。
「テメーら!前半みたいなサッカーするんじゃねーぞ!」
エリーザの選手達の顔が一段と険しくなっていた。
後半開始早々から怒濤の攻めを見せるエリーザ!
しかしエンジェルスも負けてはいない全員が体を張り粘り強い守りを見せる!
後方から大声で必死にチームを鼓舞する八神が印象的だった。
絶対にエリーザには負けないという思いがスタンドにもひしひしと伝わってきた!
エリーザの選手も八神には特に激しくぶつかってきていた。
しかし、さすがはエリーザ出身の八神!
まったく当たり負けをしていなかった。
そして後半45分を過ぎアディショナルタイムは1分。
エンジェルスはコーナーキックのチャンスを得る!
キッカーは戸田葵。
戸田のふわりと浮かしたボールに長身の八神が合わせる!
ラストチャンスに八神が決めた!!
「やったー!」
八神に真っ先に飛びついたのはちさだった!
子供のように大喜びする二人の姿にエンジェルスの選手達も抱きついて喜んでいた。
その直後に試合終了のホイッスル。
エンジェルスVSエリーザというよりは
むしろ八神VSエリーザという試合だった!
試合後、八神のヒロインインタビューが行われた。
「さあ、八神選手おめでとうございます。」
「ありがとうございます。ようやくエンジェルスに貢献できました!」
「この喜びを誰に伝えたいですか?」
「そこに座ってるもんじゃ焼き屋のおじちゃん、おばちゃん!今日、私やったよ!」
「おう、あやちゃん!よくやった!今年一年もんじゃ食い放題にするからいつでも遊びに来な!」
スタジアムは温かい笑い声と拍手に包まれていた。
「長老、あの人も八神の知り合いなんですか?」
「あやとちさが小さい頃によく行ってたもんじゃ焼き屋のご主人だよ。」
「へー。なんかアットホームでいいですね!」
「そんなことよりも兄ちゃん!女を泣かせてただろ?」
「ギクッ…見てたんすか?」
俺は長老に春香のことを話した。
「そりゃ兄ちゃんのことが忘れられなかったんだろうな…」
「そうっすか?さんざん嫌味を言ってきましたけど…」
「あの女の人は兄ちゃんの店に通っていたときが一番楽しかったんじゃねえのか?」
「え!?」
「女ってのは自分を正当化したがる生き物だからよ。負けの美学なんてものは存在しねえんだ!」
わざわざスタジアムまで来た春香・・・
エリーザには絶対負けないという意地でゴールを決めた八神・・・
俺はこの日、女の執念というものを見せつけられた…




