16、オタク
とりあえず2日程、休みをもらい仕事に復帰した。
警察の取り調べなど慣れたものだったが優勝できなかったということでイライラしていた自分に腹が立ち異常に疲れを感じてしまった。
店に行くと健太と支配人が雑談をしていた。
いつもの見慣れた光景がなぜか幸せに感じ嬉しかった…
「おっ!勇気、よく来てくれたな。」
支配人はそう言うと開店の準備へ向かった。
警察沙汰になりながら何事もなかったようにように接してくれるのはこの世界ならではかもしれない・・・
健太は少し心配してくれてる様子だった。
「ケンカでパクられたんだって?タカヒロさんも支配人も内心は結構、心配してたんだぞ!」
「悪い、悪い…優勝できなかったからイラついちまってさ。」
「優勝?あ…女子サッカーか?そういや、ニュースでやってたな。最終節が引分で優勝逃したんだろ?」
「うん…もう力が抜けて、ついイライラしてしまった。」
「そうか。今年1年追い掛けたんだもんな…」
「そうだ!健太、ゴール前でシュートを打たずにパスを出す選手ってどうなんだ?逃げてるってことなのか?」
「な…なんだよ急に。あの、なんとかちゃんって子か?」
「あぁ…最後に大チャンスがあったんだけど、ちさちゃんがシュートじゃなくてパスを選択したんだよ。」
「ん~俺の考えではそれは逃げではない!ホント、もう一瞬の判断なんだ。」
「そっか、昔からプレーを見てる人は悪いクセが出て逃げやがったと言ってたからさ…」
「それはその選手が考えた最高の選択だから周りがとやかく言う問題じゃねえよ。」
「だよな。それに試合後、一人だけ涙も流さず凍りついた表情してたから心配で心配で…」
「お前、その子でテンションが変化するようになってるんだな?そういや以前、ニコッとしてくれたとか言って喜んでたよな…。」
「うん、ちさちゃんの笑顔を見るだけでテンションが上がるんだ!」
「あのさ!俺、思ってたんだけど偶像崇拝ってやつだよな?」
「偶像崇拝?」
「ほら、アイドルとかアニメのオタクっているだろ?あれだよ?」
「えっ?俺がオタク!?」
「そうそう。アイドルグループの○○ちゃんが好きとかアニメのキャラクターの○○が好きとか言って生活の中心になってるのと一緒なんじゃないか?」
(俺がオタク…)
俺は健太の言葉が胸に突き刺さった・・・
「一緒だ…ああ、俺オタクになっちまってたんだ。ははは。」
「だろ?さしづめ女子サッカーオタクってやつだな。ははは。」
「そうだな。俺は女子サッカーオタクなんだ!ちさ推しなんだな!はっはっは。」
「あっはっはっはっはっはっは。」
俺と健太は二人で大笑いした。
「いや、良いと思うよ。お前、今まで人を好きになったとか
人を応援したとかなかっただろ?」
「ない。人とかどうでもいいと思ってたしな…あれ?俺、夢中になってるよ。
全国各地に遠征まで行ったしな!」
正直、今までオタクという生き方に嫌悪感を抱いていたが
いざ自分がなってみるとこんなに楽しいものはないんだなと気づいた瞬間だった。




