ある夢みる女性の話
夢
夢をみている
昔の夢 ーー 懐かしい夢 -- 儚いオモイデ
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見渡す限り一面のお花畑。白色や黄色、そして薄紅色の小さなお花が咲き乱れています。
大きな敷物を広げ、その上に座りお弁当を並べます。お父様が朝早くから作ってくれた玉子焼きを頬張ります。
「作ったというか、無理矢理作らされたんだが・・・」
「あら? 何か言ったかしら?」
「イイエ、ソラミミデショ」
お父様はお義母様と楽しげに談笑しています。それを見てお母様が微笑んでいます。
「おいしいね。ほら、ちぃ姉さまも食べようよ」
「眠い」
「だめだよ~。ほら、起きて」
妹たちも仲良くお弁当を分け合っています。
美味しいお弁当を食べたらのんびりとお花を編んで花冠作りに挑戦です。
「思ったより難しいですわね」
お義母様は花冠作りは初体験だそうです。子供の頃やらなかったのでしょうか?
お母様が「こうやるんですよ」と教えています。わたしも幼い頃お母様に教わりました。
「姉さますごいじょーず」
妹の一人がわたしの冠を見て褒めてくれます。彼女の編んでいるお花は茎が不揃いに飛び出ています。
「う~ん。むずかしい。姉さまどうやるの?」
手を取って教えて上げます。でも、実はお父様の方がもっと上手なのです。
そう言うと、彼女にせがまれて父様が編み始めます。すると、あっという間に編み上がります。
「こういう役に立たないことは無駄に上手いですわね、貴方は」
「余計なお世話だ。ほら、お前にやるから起きろ」
食休みしていたもう一人の妹に被せます。
ポカポカしてお昼寝によさそうな日和です。でも、せっかく来たのだからみんなで楽しみましょうよ。
「え~、面倒くさい。ほら、姉様も難しいこと考えずにまったりしようよ」
「舞ったり? 踊る?」
「え? 何で?」
みんなが 哂う、笑う、咲う、嗤う、ワラウ
ーー楽しいオモイデ
けれど、彼女らの名前が・・・思い出せない。
なき声が聞こえる。どこからか聞こえてくるのか、もう知ることが出来ない。
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夢
夢をみていた独りの女性が立っている。
かつて、彼女が生まれた屋敷があった場所。
今は見渡す限り一面の花畑。
数年前に焼け野原になった場所とは思えないほどに白色や黄色、そして薄紅色の小さな花が咲き誇っている。
その女性は胸に一冊の本を抱いていた。己が夢想した物語を記した手書きの本を大事そうに撫でて、夢を見続けている。