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「パメリア、申し訳ないんですが、明日の夜会にはシルヴィアと先に参加しておいて貰えますか? ……急遽、魔術結界修理の依頼が舞い込みまして……」
エーフェ公爵位を引き継いだばかりのアークヴェル様が申し訳なさそうにわたしに頭を下げた。
わたしとの正式な婚約を発表した手前、ここの所、わたし達は夜会に引っ張りだこである。
さすがに連日、とは言わないがかなりの頻度で参加させていただいている。
特に、わたしの旦那様となるアークヴェル様は、社交界では誰もが羨むような絶世の美男子。
しかも、学生時代は、その氷の様な美貌を持ちながらも、全くと言って良いほど女性関係に興味・関心が無く、『永久凍土』だの『春知らず』だのと、あだ名をされていたようなのだ。
そんな孤高の男性が妻として選んだのが、わたし……パメリア・レインである。
貧乏子爵家の長女で、さらには、顔面の左半分には大きな火傷痕があるような女だ。
そのうえ、その傷跡には、わたしの趣味で、青く輝く魔法陣が刻まれている……という、ね。
まぁ、なかなかに尖りに尖った容姿をしている。
そりゃ、社交界に出るようなお嬢様・奥様方からしたら「何故!? こんな女と?」と声を揃えて問い質したくもなるだろう。
特にわたしは、今まで碌に社交界には出た事がないので余計に皆様の興味を引かれるのだとか。
そんな訳で、基本的には呼ばれた夜会には、参加し、無難にこなしている……と、思う。
「ええ、わかりましたわ」
「すいません、私が共に居ないと……奇異な目で貴女を見る者も増えてしまうかもしれませんが……苦労をかけます」
「いえ、お気になさらないでください」
わたし個人としては、夜会に対して「苦労」という気持ちはあまり無い。
華麗に着飾った皆様方の美しいドレスや宝飾品を目の保養にし、美味しい珍味で舌を楽しませて、適当に参加者と歓談していれば良いだけである。
……気を付ける事と言えば、度数の高いアルコールとか、辛すぎる珍味くらいか?
それに、今回はアークヴェル様が序盤はご一緒できないから、と、友人のシルヴィアさんも一緒なら、さらに問題はない。
「魔術結界の修理はクロードも一緒なので、夜会の途中で合流できると思います」
なるほど。だからクロード様の奥様でもあるシルヴィアさんとご一緒なのね。
「かしこまりましたわ。……お仕事、無理をなさらないでくださいね?」
そんな訳で、その日は皇太子殿下主催の夜会にわたしとシルヴィアさんとで、先に参加することとなった。
「パメリア様には、やはり青の宝飾品が似合いますわね」
ニコニコと優し気に微笑むシルヴィアさんは、流石、宝飾品を扱う魔道具技師だけあって、センスの良さがわたしの比ではない。
「ありがとうございます。シルヴィアさんにドレスとセットで選んでいただけたおかげですわ」
「いいえ! そんなことありませんのよ!? ご自身の顔面の傷を堂々とデコれる勇気と美意識あってこそ、宝飾品でさらに盛れるんですから! 私の方こそ、楽しませていただいておりますのよ?」
でへへ……
そこまで直球で褒められると照れてしまう。
元々はわたしの顔の傷……ただの火傷痕に過ぎなかったのだ。
だが、実の娘の顔に傷が残ってしまった事を心配した父が、わたしに薦めたのが『勇者伝説』という過去の実話を元にした物語である。
『勇者伝説』にはわたしの傷と同じような「顔に傷のある賢者様」が登場し、大活躍するのだ!!
もちろん、お顔の傷のせいで辛い思いもするんだけど、親友の勇者様や仲間たちに支えられ、『半顔の賢者』として武名を轟かすその様は、まさに圧巻!
そんな最高の「推し」である賢者様と同じような傷が自分にも有ったら、そりゃ……隠すなんて、もったいないが過ぎますよね!?
「あら……? 顔面の傷に魔法陣……貴女がアークヴェル様を射止めたという噂の?」
とは言え、これだけ目立つ顔面なら、当然、社交界では名前が知れてしまっている訳で。
「はい。お初にお目にかかりますわ。パメリア・レインと申します。」
にっこり。
わたしはとりあえず微笑みを浮かべてゆっくりとカーテシーをしながら挨拶を返し、目の前の美女を鑑賞することにした。
えーと……誰だろう?
赤いドレスに首筋には黒いリボンのチョーカー、つややかな金髪、少しキツそうな印象の大きな瞳はパッチリとしていて非常に愛らしく、洗練されている様子だ。
わたしよりも少し年上……かな?
まるで深紅の薔薇を美女へと擬人化させたら目の前の女性になるんじゃないかな? というような印象だ。
さらには、取り巻きというか、部下というか……3,4人の女性の取り巻きを連れている。
取り巻きの皆様も、黄色、緑、オレンジ、紫とそれぞれ色鮮やかなドレスを纏った淑女の皆さんだ。
「……ふぅん?」
赤いドレスの美女は、じろじろ、と足の先から頭の先まで値踏みするような不躾な視線でわたしを吟味されているご様子。
……だが、安心して欲しい。
この装いは、わたしの隣に立つハイセンスの申し子、シルヴィアさんチョイス!!
当然、シミ・ほつれ・ツギハギなんかは存在しないピッカピカの最新流行の品である!
「ワタクシ、マーヤ・アテウと申します」
ん?
マーヤさんは初対面だけど、アテウ?
聞き覚えがあるな。
確か……アテウ公爵って四大公爵の一角じゃなかったかしら?
昨晩、アークヴェル様がお仕事でお邪魔していたはずだ。
「貴女程度の魔力量しかない女が、どうしてアークヴェル様に見初められたのかしら?」
「ああ、それはアークが魔力量の大小を、妻選びの際の判断材料にされなかったからだと思いますわ」
にっこり。
「……っ!」
あ、あれ……?
本当の事を答えただけなんだけど、妙に睨まれてしまったな……?
いや、でも、おっしゃるとおり。
わたし……もともと下級貴族だから、こちらのマーヤさんと比べると魔力量なんて全ッ然少ないですし?
「……おほほ……そうよね、でなければ貴女のような方が選ばれるはずございませんもの……!」
「そうよ、そうよ」「ご自身が世間一般でどうおっしゃられているかご存じ無いんですのね」「お可哀想に」「お気の毒ですわ」
マーヤさんは、一瞬だけ怯んだ顔をしたものの、すぐにセンスで口元を隠しながら言葉を続けると、取り巻きの皆様もそれに同調する。
「……昨晩、アークヴェル様はワタクシの所へお越しいただいていたの」
「はい、存じ上げております」
確か、ダンジョンから新たな魔法陣の発見報告があり、その解析にアークヴェル様も呼ばれていたはずだ。
「アテウ公爵におかれましては、日頃より何かとお心にかけていただき、感謝しておりますわ」
それを聞いたマーヤさんが、ニヤリと何故か勝ち誇った笑みを浮かべた。
そして、すっと、首筋に飾っていた大きなリボンのついたチョーカーをずらす。
すると、その白磁のような皮膚に、見慣れない赤黒い鬱血痕があった。
ん?
何だろう? 虫刺され? ……に、しては蚊やアブにやられた跡ではない。
「……昨晩、ワタクシのベッドでアークヴェル様とお話をさせていただいている時に付いてしまいましたの」
「ベッドで?」
……と、いう事は、まさか……
ダニ?
いや、でもただのダニであれば、あんな見慣れない妙な痕にはならない。
だけど、内側からプチプチと毛穴よりも小さな赤い点が密集する赤黒い奇妙な痣のような傷を付ける虫に心当たりはない。
通常のダニの可能性が薄いならば……まさか、マダニ?
サクッと短めです!




