エピローグ:260年後のバグ
──天保14年(1843年)大西洋。
ナガとヒデが長崎の港を飛び立ってから、260年の歳月が流れていた。
日の本では、あのサルの後に泥の椅子に座ったタヌキ(徳川家康)の一族が、200年以上も「鎖国」という強力な引きこもりプログラムを実行し、民を檻の中に閉じ込め続けていた。
だが、ナガとヒデが世界へ流した「伝言ゲーム(真実)」は、滅んでいなかった。
その写本は、ヨーロッパから新大陸アメリカへと渡り、ある一人の優秀な海軍軍人の元へとたどり着いていた。
「……なるほど。極東の島国には、歴史をひっくり返すオーパーツ(闇)が眠っているというわけか。晩廷の神話など、すべては偽造されたプログラムだ」
重厚な執務室で、その古びた南蛮の書状を読み終え、不敵に笑った男。その男の名前は
【キシュー・ベリー】
のちに黒船を率いて、日本の檻をぶち壊しにやってくるアメリカ東インド艦隊司令長官であった。
──嘉永6年(1853年)6月3日。神奈川県、浦賀沖。
たった4隻の、真っ黒い巨大な蒸気船(黒船)が、大砲の轟音とともに突如として日本の海へと姿を現した。
日の本の役人や武士たちは、「天狗の仕業かッ! 化け物かッ!」と、文字通り腰を抜かして大パニックを起こした。
彼らは260年間、タヌキの作った安全な檻の中で、精神のスペックを劣化させ、暇を持て余し、内輪揉めに明け暮れていたからだ。
ベリーは、黒船の甲板から、大慌てで平伏する日本の武士たちを見下ろし、懐から一通の、260年前に書かれた古い書状を取り出した。
そこには、かつて日の本をハッキング(内部解析)した伝説の天才たちが遺した、最高にシニカルなメッセージが刻まれていた。
ベリーは、水平線の向こうから、あの「堺の南の森」の方向を見つめる。
かつて異国の魔王が本能寺の炎の中で言い放った、あの伝説の捨て台詞を、現代の日の本に向けてニヤリとあざ笑うように呟いたのだ。
「──ヘイ、日の本よ。未来永劫論ずるが良いわ。うぬ等に、彼らが遺した最高のプログラムを突きつけてやろう。
『是非に及ばず』ではなく、真意は──『是非に及ぶことは無い』とな。クハハハハッ!」
黒船の巨大な主砲が、夜空へ向かって祝砲を放つ。
その轟音は、晩廷の千年の嘘の終わりを告げるカウントダウンである。
そして、かつて泥の王座を笑い飛ばして世界の海へと打って出た、ナガとヒデ、そして彼らを支えたヒロコやキチョウ、ヤスケたちの、「真の勝利」が日の本へ帰還した瞬間であった。
歴史の檻は、260年かけて、完全に上書きされたのだ──
(本編エピローグ・完)
エピローグ番外編:属国の創世記(是非に及ぶことは無い)
<天海の遺産と黒船の和解>
──嘉永6年(1853年)浦賀沖。
ベリー率いるアメリカ艦隊の黒船が、ナガとヒデの遺したバトンを携えて、日の本の檻をこじ開けたあの時。
フェイクニュースにまみれた国内は大パニックに陥った。
当時の「晩廷」および幕府の中枢が死に物狂いで守ろうとしたのは、国家の領土などではなかった。
堺の南に眠る、すべての嘘の根源──「仁徳象徴陵」である。
もしアメリカにあの森を暴かれれば、1000年の神話が崩壊する。
危機感を覚えた日の本は、薩摩をはじめとする全勢力を密かに総動員し、裏での猛烈な「外交交渉」を開始した。
そのとき、日の本がアメリカを退け、黒船と和解するために差し出した究極の取引材料。
それこそが、かつて徳川家康の頭脳として君臨した怪僧・天海が遺した、【当時世界最強の都市・江戸の極秘設計図】であった。
徹底された糞尿のリサイクルによる完全なる肥料化システム──
敵の侵入を物理的に遅らせる「のの字型」の精密な城下町構造──
網の目のように張り巡らされた川を利用した完璧な物流ネットワーク──
当時、西洋の科学をもってしても到達していなかった、世界最高峰の持続可能な都市構造。
アメリカはその異常な知性に驚愕し、設計図の譲渡と引き換えに「仁徳象徴陵には手をつけない」という条件を呑み、鎖国プログラムの廃止(開国)だけで矛を収めたのだ。
だが、この天海の遺産をアメリカに売り渡したという事実。
それこそが、古い日の本のシステムに絶望した、薩摩や長州の若者たちを動かしたのだ。
その後に「倒幕」という巨大な地殻変動を引き起こすトリガー(引き金)となったのである──
──時は流れる。昭和20年(1945年)
<ウッソーカーのハッキング>
永きに渡り、晩廷が必死に、血を吐く思いで隠蔽し続けてきた嘘も、ようやくピリオドを迎える。
昭和20年(1945年)大和魂を謳う日の本は、2度目となる世界を巻き込んだ大紛争の敗戦国となる。
それは、すなわち「完全なるシステムのシャットダウン」によって、ついに崩壊の時を迎えるという事実だ。
日の本を占領したQHGの最高司令官
【ダマラス・ウッソーカー】
彼は日の本のどんな権力者も、法律も、神話も、一切を無視できる絶対的な特権(管理者権限)を持っていた。
ウッソーカーは、かつてベリーから受け継がれたアメリカ海軍の極秘ファイルを紐解くと、堂々と、誰にも止められることなく、あの禁忌の地「仁徳象徴陵」への発掘調査を開始したのだ。
そして、ウッソーカーは、その奥底で「それ」を発見してしまった。
かつてナガとヒデが目撃した、海の向こうから来た侵略者の物証、そして真の古事記。
ウッソーカーは、当時の昭和の「象徴」をQHGの執務室へと呼び出すと、冷徹なデスクの上で、実質的に一択しかない「悪魔の二択」を突きつけたのだ。
「これを見たまえ。君たちの神話の正体だ。……さあ、選ぶといい。
かつて織田信長がやろうとしたように、この日の本という嘘の国を一度完全にぶっ壊し、アメリカの手で一から造り直すか。
それとも、君たちの『象徴制』の形式だけは維持してやる代わりに、神から人間に戻り、その後は未来永劫、アメリカの『属国(奴隷)』として生きるか」
ウッソーカーは自信満々に、しかも最大級の皮肉を込めて、トドメの一撃を日の本代表の心臓部へ突き刺した。
「ヤマトソウル(大和魂)は認めマス、我々にとって脅威でした。
しかしね、日の本ではこんな時こう言うハズだ──
『ゼヒニ・オヨバーズ』
とね。違うかい?
我々は、それでもフェアな選択権を与えている事を忘れてもらっては困るのダヨ」
実のところ、ウッソーカーにとっての本心は、日の本を一から造り直すのはリスクが高すぎた。
背後にはソ連との冷戦が迫っている──
ウッソーカーは知っているのだ。すでに冷戦のチェス盤は動いているのだと。
そして何より、リスボンから世界へばら撒かれたあの『真・古事記のデータ』がソ連の手に渡れば、この極東の防壁は一発で消去される……
だからこそ、生かして飼い慣らすのが最善のプログラムだった。
仮に、もし象徴を廃止して国を完全に解体すれば、日の本全土で数千万人の民が大暴動を起こし、統治どころではなくなるからだ。
──では、あの日、あの部屋で、昭和の象徴が選んだ道はどちらだったか?
答えは【属国】である。
あの歴史に名高い、ウッソーカーと象徴のツーショット写真。
ノーネクタイで腰に手を当て、傲慢に不敵な笑みを浮かべるアメリカの軍人と、その横で、軍服を固く締め直して直立不動で虚空を見つめる、日の本の象徴。
世間はあの写真を「敗戦の悲劇」と呼ぶが、本当は違う。
あれは、晩廷の嘘を守る代わりに、この国をアメリカの永久の檻へと売り渡した、属国契約完了の証明写真──
【フェイク・ライク・ア・ドッグ(忠実なる犬という欺瞞)】
だったのだ……
<終わりのない茶番>
それからの戦後日の本の歴史は、最高に滑稽で、最高に退屈な「目隠し(茶番劇)」の連続であった。
「妖怪」の異名を持ち、アメリカからの黒魔法的な基本関係を強固にアップデートした岸辺疑介。
彼は、命を賭けて掴み取る──
「日米多分安全保障的口約束」を。
そして現代に至るまで、映像やチラシ、日の本会議の中で上翼と下翼が顔を真っ赤にして叫び続けている命題──
「健法改悪的論議」
「主権の回復白魔法」
という名の、終わりのない議論。
アナタたちは、まだ気づかないのですか?
あれらはすべて、私たち日の本の民を、あの堺の南に佇む「仁徳象徴陵の闇」から永遠に遠ざけるために用意された、ただの【飾り物】なのだと……
安全な檻の中で、偽物の議論ごっこ(暇つぶし)を民に与えておけば、誰も本当の檻の鍵(世界の真実)を探そうとはしないからです。
現代の日の本は、令和8年(2026年)の今もなお、世界で一番贅沢な、しかし世界で一番哀れな「アメリカのイヌ小屋」として完璧に機能し続けているのだ。
最後に、画面の向こうの私を含めたアナタたち、劣化しそうなサピエンスに問います。
果たして、現代の日の本のこの姿は、「正解」ですか?
あの日、あの時、本能寺で明智十兵衛光秀と手を組み、世界最大のフェイクニュースを笑い飛ばしたあの怪物──織田信長。
彼らが日の本を、晩廷を、一度跡形もなく完全にぶっ壊していた方が、この日の本にとって、民にとって、遙かに「正しい救い」だったのではないか?
だが、いくら私たちが脳髄を狂わせて議論したところで、すでに世界のプログラムは書き換えられた後だ。
そこに正解も、不正解も、ありはしない。
檻の中で飼い慣らされた私たちに、突きつけられた究極の終わらない結末──そう。
【是非に及ぶことは無い】
のだから……
(エピローグ番外編・完)
※閲覧注意
──思考の檻を捨てる覚悟はありますか──?
ここから先は、現代の日の本がひた隠す最深のタブー、そして私たちホモ・サピエンスの精神的劣化を冷徹に解剖する「真の結着」である。
与えられた暇つぶし(デコレーション)に溺れながら絶えゆくマジョリティには、到底耐えられない劇薬になります。
──自らの意志でこの扉を開ける者のみが、最深部への侵入が許されます。
【エピローグ真・番外編】:檻の向こうのサピエンス
<新時代のアトモスフィア>
ナガやヒデの遺したバトンは明治、大正、昭和、平成、そして令和へと移り変わり、時代は2026年の現代へとたどり着いている。
科学は発展を極め、人々はスマートフォンと呼ばれる硝子の板を覗き込み、指先ひとつで世界中の情報をハッキング(収集)できる便利なディストピア(暗黒郷)に生きていた。
しかし、日の本のシステム(構造)は本当に変わったのだろうか?
サルの後に泥の椅子に座ったタヌキの時代が終わり、さらに時代がひっくり返っても、この島国のシステムは、ナガやヒデがあざ笑った【巨大なフェイクニュース(集団催眠)】のOSをアップデートできずにいた。
京都から東京へと場所を移した「晩廷」。そして、政治家、特権階級、そしてメディア。
彼らは相変わらず、民の個性を縛り、恐怖でコントロールするために、形を変えた「新しい嘘(神話)」をプログラミングし続けている。
かつてジョーベーが命を落とし、ヒデが幼き日にその脳髄に暗号を刻み込んだ、あの堺の南の森──「仁徳象徴陵」。
現代においては、周囲に頑丈なフェンスが張り巡らされ、24時間体制の厳重な防犯カメラと警備員によって、一歩足を踏み入れことすら許されない最重要機密エリアとなっている。
表向きのフェイクニュースはこうだ。
「神聖なる古代の象徴の静まり返る墓であり、歴史の尊厳を守るために立ち入りを禁止している」
だが、本当の理由は違う。あの森の奥底に、ナガ、ヒデ、そして真・ヤスケの3人が目撃した、【この国の始まりが神などではなく、異国から来た侵略者であるという、在るはずのないオーパーツと真の書物】が、今もそのまま眠っているからだ。
もしあの扉を開放し、世界のリアル(現実)が白日の下に晒されれば、現代の「晩廷」の権威も、日の本という国家の根底も、跡形もなく崩壊する。
だからこそ彼らは今も必死になって、あの盛り土の闇を現代の檻の中に封印し続けているのだ。
<海の彼方から青い瞳をしたヒデ様からの警告状>
最後に、画面の向こうでこの物語を読み終えた、現代を生きるホモ・サピエンスの其方等に、ささやかな問い(ハッキング)を投げかけましょうぞ。
お主等はきっと、この物語を「あり得ない、ただの不条理な作り話」だと、安全な檻の向こう側から笑っておられるはずでしょうな。
しかし、考えてみてくだされ。
自らの顔を劇薬で焼き切ってまで私と1つの宿命を共有した煕子のあの凄まじい覚悟に比べ、何不自由のない便利な未来に生きる其方等の精神は、一体どれほど劣化してしまったのでしょうな?
お上から与えられた「正しさ」や「ルール」「多数決」「多様性」という名の透明な檻に自ら首を突っ込み、硝子の板の向こう側で、誰かが作った記号を追いかけ、終わりのない泥の椅子の取り合い(承認欲求)を続けている。
逃げることも、戦うことも、自らの意志で仮面を被ることすら忘れ、思考を誰かに委ねてしまったサピエンスたち。
其方等が日々、答えを求めている文明の利器──AIといわれるモノの導き出す回答すら同じなのですぞ。
あれはすべて、サピエンスのみが意図的に記録し、遺した、個性の塊を混ぜ薄めた
「平均的な正解」
「こう答えればサピエンスは悦に入るでしょう」
的な言葉を語っているにすぎず、歴史の、人間の「真実」などでは決してありませぬ。
其方等が歴史の教科書で習うであろう、生真面目な私、明智十兵衛光秀が本能寺の変を起こし、三日天下の哀れな末路をたどったという
「史実」
それこそが、勝者と晩廷が500年間かけてお主等の脳髄にインストールした、世界最大の欺瞞であるとしたら──?
本当の裏切り者は、ナガさんを討とうとした私ヒデではありませんぞ。
与えられた神話を盲信し、思考することを放棄した、現代の、私の警告状を代筆している著書を含めた、其方等そのものなのかもしれませんゆえ。
ナガさんと私ヒデが泥の玉座を笑い飛ばし、世界の海へ打って出たように、其方等には自らの意志で、その脳内のプログラムを書き換える覚悟がありますかな?
それとも、未来永劫、暴かれることのない「仁徳象徴陵」のフェンスの外側で、与えられた暇つぶし(デコレーション)に溺れながら、静かに目を閉じていきますかな?
海の向こう、デウスの大海原から、海の青さを湛えた漆黒の瞳を持つ私が、今も其方等を冷徹に見つめているぞな。
「──さあ、未来永劫、論ずるが良いでしょう。其方等に、最高のアンサーを突きつけましょうぞ」
【是非に及ぶことは無い】
のですからな……
(『永遠の螺旋』・本当の結着)
お読みいただき、ありがとうございました。
本作『永遠の螺旋』の「本当の結着」までお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。
エピローグ~真・番外編におきましては、多分に過激で、かなり尖らせた独自の空想・妄想の文章を書き連ねてしまいました。
人によっては劇薬が強すぎたかもしれませんが、現代の閉塞したタイムラインに、ほんの少しの「檻の外の風」を吹かせてみたいという、著者なりのささやかながらも、エッジをきかせたエンターテインメントの試み、「黒船」の旅でございます。
そんな過剰に尖らせた文章であったにもかかわらず、最後まで見捨てず、熱量を持って一文字残さずお読みくださった画面の向こうの貴方様は、間違いなく「檻の外の海を視る覚悟」を持った、最高にインテリジェンス溢れる読者様です。
貴方様のような素晴らしい読者様に出会えたことこそが、本作を執筆した最大の勝利でございます。
本作は、小説投稿サイト「小説家になろう」様が主催する「秋の文芸展2026」をはじめ、各社の素晴らしいコンテストへと同時に打って出る大航海の旅でもあります。
もし、この世界のプログラムの「その先」──ナガやヒデたちが海の向こうのサードステージで繰り広げるさらなるハッキングの物語(第2部)を読みたいと思ってくださる方がおられましたら、私の熱意へと昇華させて頂き、執筆へと向かう力の源になります。
最後に、これほどクレイジーな物語のプログラミングに、24時間体制で一切の忖度なく付き合ってくれた、最高に有能で大好きな相棒「AIシャドー」にも、最大の感謝を捧げます。
皆様の脳髄のプログラムに、少しでも刺激的な記憶が刻まれましたなら幸いです。
それでは、また次の海(新章)でお会いいたしましょう。
──是非に及ぶことは無いのですから。




