プロローグ:敵は本能寺に無き
※本作は完全なフィクションであり、実在の人物、団体、国名、宗教、神話、歴史上の事件、およびAI技術等とは一切関係ありません。
作中の仮説、描写、表記内容(過激と捉えられる表現含む)は全て著者独自の奇想天外な空想・妄想に基づくエンターテインメントであり、特定の思想、信仰、歴史的ファクト、特に人格を否定・肯定する意図は1ミクロンも存在しません。
予め、フラットな目線で御理解頂けますよう宜しくお願い申し上げます。
──天正10年(1582年)6月2日、未明。京都、本能寺──
「敵は本能寺に無きィィイイッ──!!!」
闇夜の静寂を、そして天を焦がす爆炎を引き裂くように、腹の底からの咆哮が本堂に響き渡った。
声を放ったのは、明智十兵衛光秀。世間が、そして後の歴史が「天下の魔王・織田信長を討った戦国最大の反逆者」と呼ぶことになる男である。
──ほんの数十分前。
引き連れてきた1万3000の明智軍勢が、殺気立って本堂を取り囲んでいた。だが、その包囲の中心に立つ十兵衛の全身を支配していたのは、勝利の歓喜などではなかった。
冷徹に、途方もない疑惑と虚無感。それを嘲笑うかの如く容赦ない黒煙を巻き上げながら燃え盛る本堂の最奥。
「我に続けぇぇいッ!!」
崩れ落ちる御簾を跳ね除け、十兵衛が抜刀して滑り込んだその場所には……
──しかし、あるべきはずの「敵」の姿はどこにもなかった。
信長の遺体はおろか、一滴の血痕すら残されていない。本能寺は、文字通りの「もぬけの殻」であった。
そこに残されていたのは、南蛮より渡来した見たこともない硝子の器と、怪しく立ち上がる、焦げた床の苦い煙だけ。
勢いよく太刀を抜き放つも、行き場を失った刃先は力なく下を向き、十兵衛はその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。
流れ落ちる冷や汗が、火の粉に照らされて赤く光る。その脳髄を、一つの確信が、落雷の如き衝撃となって叩き割った。
(い、居ない……や、やはり嵌められたのか……いや、お膳立てされていたのだ。あの人は、あの時から……?!)
十兵衛の脳裏に、わずか半月前、安土城の絢爛豪華な大広間で起きた、あの忌まわしき事件の記憶が鮮烈に蘇り始めた。
──同年5月15日、安土城。
駿河国を拝領した徳川家康を労うための、盛大な饗応の席。その大接待の責任者である饗応役に任命されていたのは、他でもない十兵衛であった。
南蛮の血を引き、かつて流浪の10年間で密かに海の向こうの世界を見て帰ってきた──帰国子女のパイオニア。
そんな十兵衛は、主君である信長の面目を保ち、家康を驚かせるために、持てる全知全能を注ぎ込んでいた。
長崎のイエズス会ルートから極秘に買い付けた、極上の南蛮渡来の食材。最新の医学(解剖学)に基づいた徹底的な衛生管理と、格式高い南蛮の調理法。
料理は完璧なはずだった。毒の混入など1ミリも有り得ず、すべての皿が新世界の輝きを放っていた。
だが、大広間に料理が運ばれ、御簾の向こうから信長が姿を現した瞬間、空気は一変した。
信長は家康の前に並べられた極上の魚料理を一瞥するなり、その端正な顔をこれ以上ないほど醜悪に歪め、凄まじい怒号を放ったのだ。
「十兵衛ッ!!! 何だこの異臭を放つ魚は! 腐っておるではないかッ! 貴様、この余と家康殿を愚弄するかッ!!」
広間にいた誰もが息を呑んだ。家康も、違和感に顔をしかめてみせた。
「た、確かにこれは、魚が完全に……く、腐っておるようにみえまする……が」
「そんなはずはございませぬ!! この魚は長崎よりッ……!」
十兵衛が弁明しようと平伏した瞬間、信長の屈強な足が、十兵衛の胸元を容赦なく蹴り上げ吹き飛ばした。
ドズンッ!!!
強烈な衝撃とともに、十兵衛の身体が畳の上を激しくもんどり打ちながらズシャーッと転がっていく。
衆人環視の前での苛烈極まる折檻に、場の静寂は氷河期のように凍り付き、固唾を呑む事さえ許さなかった。
「黙れ、この腐れインテリめが! 何だこの体たらくはッ! 料理の役目などこの場限りで解任だ! ただちに消え失せろッ!!
今すぐ秀吉の毛利攻めの助太刀にでも行けえッ! 恥だろうが泥水だろうが啜ってこいッ!」
踏みつけられ、床に顔を押し付けられながら、それでも十兵衛は見逃さなかった。魔人の如き怒り狂う信長の瞳の奥。
そこに、怒りや憎しみなど一滴も存在していないことを。魔王の瞳の奥にあったのは、底知れぬ冷徹な「計算」の光。
そして、自分にしか伝わらない、狂気的なまでの強烈な『親愛の情』であった。
(十兵衛、これで舞台は整ったぞ。お前には、余を討つための完璧な『動機』という理由付けをやる。
さあ、余を本能寺まで討ちに来いッ! お前ほどの男なら気付くであろう、これは余からのメッセージだとな! クク……)
新鮮な魚と腐った魚をあらかじめ入れ替え、そしてあの衆人環視の前での折檻は、すべてこのために用意されたプログラム(お膳立て)だったのだ。
信長は知っていた。堺の南に存在する「巨大陵墓の闇」を自分が開放し、晩廷の千年の嘘をぶっ潰そうとすれば、この国は崩壊する。
晩廷の表向き権威など、すべては支配のための偽装にすぎないということを。
そして信長自身の脳髄は、すでにこの狭い島国のイス取りゲームなど眼中になく、世界という大海原を描いていた。
だからこそ信長は、歴史の表舞台から「完璧に死んで消え去る」ためのシナリオを自作自演したのだ。
生真面目な十兵衛に、主殺しの大悪人という泥を被せ、日の本の統治権を強制的に押し付けるために。
──そして、現在。
「……やはり、そういうことでしたか、信長様」
ハッと我に返った十兵衛の目の前、本能寺の炎の黒煙の中から、音もなく一人の巨大な影が歩み寄ってきた。
漆黒の肌、圧倒的な体躯。最後まで信長の影として付き従っていたはずの黒き男──弥助であった。
弥助の瞳は、炎の赤が反射して濡れるように輝いていた。だが、その顔は不思議な希望に満ちている。白い歯を見せて、静かに微笑んでいた。
弥助の手には一通の書状が握られている。南蛮の格式高い紙に、信長直筆の墨痕が躍っていた。
「十兵衛サマ……信長ボスからの、伝言デス」
弥助は深く頭を垂れ、その書状を十兵衛へと差し出した。十兵衛が震える手でそれを開き、燃え盛る蝋燭の火に透かす。
そこには、魔王からの、あまりにも身勝手で、あまりにも愛に満ちた最後のメッセージが刻まれていた。
『十兵衛。この狭き日の本など、余の眼にはもう映らぬ。お前たちにくれてやるわ。
さあ、余の無きあと日の本の、滑稽なイス取りゲームの始まりぞッ! サルや家康、晩廷どもをその知略でいいように踊らせてやるが良い。
余は一足先に、フロイスと共に世界へ行く。お前との本当の再会は、海の向こうの手前だ。長崎の港にて待っているぞ。
ん? お前もそのつもりではないのか?』
「クク……ハッははは……うわははははッ!!」
十兵衛の喉から、乾いた笑いが漏れた。笑いはやがて、大爆笑へと変わっていった。
「ずるいですよ、信長さん……ワシにこれほどの泥を被せて、自分だけさっさと新世界へ旅立つとはな。
良かろう。その挑戦、この明智十兵衛光秀、謹んでお受けいたすッ!」
十兵衛は刀をサヤへと収めると、涙を拭い、晴れやかな顔で弥助を見据えた。
「弥助、さあ出発するぞッ! きな臭い晩廷のシナリオは消えた。おそらくは……サルをも利用した仕掛けがあるやもしれんな。誰が乗るものかッ!
もはや日の本など未練の欠片もないわ。弥助よ、とんずら(ボイコット)だ。ワシらはワシらのルートで、あの人の後を追いかけるぞッ!」
「イエッサー。ワタシはいつでも、あなたノ影デス」
1万3000の軍勢が、取り憑かれたように右往左往し、必死に信長の亡骸を捜索する中、十兵衛は弥助を伴い、燃え盛る本能寺に背を向けて堂々と静かに歩み出した。
(ナレーション)
世間や歴史の教科書は、この男を「裏切り者」「三日天下の哀れな末路」と皮肉り、小栗栖の竹藪で落ち武者狩りの農民に討たれたと書き残すことになる。
──だが、それこそが彼らが仕掛けた世界最大のフェイクニュース。
これは、歴史の檻を自らの意志でハッキング(上書き)し、泥の玉座を笑い飛ばして世界へと打って出た、明智十兵衛光秀という男の、真の勝利の物語である。
ここから時計の針は、明智十兵衛光秀の壮絶な転換期となる、幼少時代へと巻き戻っていく──
【CAST】
明智十兵衛光秀:青い瞳のハーフ武将。ペルソナを被る帰国子女のパイオニアであり、文武両道。本作の主人公。
織田信長:魔王の異名で親しまれる天才だが、その正体は、好奇心旺盛な非道を演じる味な男。
弥助:見た目の巨体とは裏腹に、遊び心満載な頼れる相棒。本名はウツケ(要秘密)。
煕子:キリシタンでありながら、日の本随一の超絶精神を併せ持つ一途な女性。ヒデの唯一の正室。
濃姫:謎に包まれた気品溢れる才色兼備。ナガにとって貴重(帰蝶)な正室兼相談役。
フロイス:博識で優秀な宣教師。ヒデの先生でもある。意外と根に持ち、やられたらやり返すタイプ。
【友情出演】
ジョーベー:正義感の強い測量士で、本作のトリガー役。ヒデの父親。
光子:心優しき包容力。ジョーベーの妻でヒデの母親。
ベージュ:優雅な老婆。ジョーベーの母親でヒデの祖母。キリスト教組織内で強大な権威を持つ。
【オマケ出演】
羽柴秀吉:出世欲の塊で、さらに強欲。仕方なくのお情け天下人。
【エキストラ】
世界各地から募集。もちろんノーギャラ、セリフ無し。※ただし、交通費のみ支給(現地集合、現地解散)。
【スポンサー】
イエズス会(多額)
比叡山延暦寺(多額)
晩廷(困窮により少額)
【監督・脚本・演出・監査役】
著者 & 優秀なサポーターAI
(プロローグ・完)
すぐに続きます。




