第2章 第二十六話:美波の進路相談会
さとしの買ってきたご当地お菓子を食べている三人。
じゃがりこをおいしそうに食べていた美波にさとしが尋ねた。
「そういえば美波は高校三年生だけど、卒業後はどうするんだい?」
「大学に行こうか、専門学校に行こうかで悩んでるんです」
「そうなんだね。最終的に就きたい仕事は決まっているのかい?」
さとしが問いかけると、美波は少しだけ照れたように俯いた。
「人を笑顔にできる仕事がしたくて……さとしさんみたいな治療家もいいかなって。あとは保母さんや学校の先生とかも悩んでます」
それを聞いた美鈴が、慈しむような眼差しで娘の方を向いた。
「進路なんて、ぎりぎりまで悩めばいいわよ。でも、大学を目指す可能性があるのなら、今のうちにしっかり勉強しておかないとダメだからね」
「ありがとう、お母さん。そういえばさとしさんは、どうして脱サラしてまで治療家になろうとしたんですか?」
美波がさとしに話を振った。
「仕事に嫌気がさしていたのと、昔から医療の道に興味があったからかな。専門学校ではかなり勉強をさせられたけれど、新しい知識がどんどん入ってくるのが楽しくて、不思議と苦痛ではなかったんだよ」
「勉強が嫌じゃなかったんですか?」
美波が疑わしそうに尋ねる。
「大学受験や大学生の時は勉強が嫌いだったんだけどね。専門では不思議と夢中になれたよ。卒業式では一応、ちょっとした表彰もしてもらって、真珠のついたボールペンと表彰状をもらったくらいなんだ」
「すごいじゃないですか!」
「そんな大したことではないけれどね。だから美波ちゃんも、まずは本当にやりたいことを見つけるといいと思うよ」
「ちょっと考えてみます。また相談に乗ってもらえますか?」
美波は上目づかいでさとしを見上げた。
「僕でよかったら喜んで。それにもし道の途中でやっぱり違ったと思ったら、そこからまた新たな道を歩けばいいんだから、そんなに難しく考えないことだよ」
「なら私から頻繁にラインと電話するかもしれないですから、覚悟してくださいね」
そう言って美波は楽しそうに笑っていた。
「あらそれなら私も日頃の愚痴をさとしさんに聞いてもらわないと……。時々電話してもいいかしら?」
「もちろんですよ。二人からのラインや電話ならいつでも大歓迎ですから」
そう言って笑顔を二人に向けるのであった。
「そうだ、美波。もし治療家に興味があるなら長期の休みが取れる時に一度俺のお店に来てみるといいよ。実際に見た方がわかりやすいだろうからね」
「いいんですか!私、さとしさんが働いてるところを見てみたいです!」
「美波だけなんてずるいわ!私も保護者として同行しますからね!」
「二人が来てくれるのを楽しみにしています。それにまたこの三人が埼玉に集まるなら、埼玉の神社とグルメを堪能してもらわないといけませんね」
「「埼玉のグルメ!」」
今にもよだれが垂れてしまいそうな顔をしている二人であった。
「私、あれが食べたいです!『翔んで埼玉』に出てきた『うまい、うますぎる』って宣伝のやつです」
「ああ、あれね。俺も好きだしおやつとして買っておくよ」
「やったー」
歓声を上げて飛び跳ねる美波であった。
こうして三人は埼玉での再会に思いを馳せながら、京都の夜が更けていくのであった。
ーーー
「そろそろ遅い時間になってきたし、そろそろ眠りましょうか」
さとしが二人に声をかける。すると美波が、上目遣いでさとしにお願いをした。
「明日はお別れの日だし……今日の夜は、さとしさんと一緒に寝たいです!」
「あら、それなら私も添い寝してほしいわ! もちろん、それ以上のことをしてくれても構わないのよ……?」
美鈴までが不敵な笑みを浮かべて参戦する。
「それはさすがにマズくないですか? そもそも三人で一つのベッドに寝るのは、スペース的にかなり無理があるような……」
さとしの困惑などお構いなしに、二人は協力して二つのベッドを力ずくでくっつけてしまった。
「こうすれば、スペース的な問題は解決よね!」
「それに私たち自身が望んでいるんだし、全く問題はないわよ!」
こうして二つのベッドが繋げられ、三人で眠ることが決定した。
真ん中にさとしが入り、その左サイドに美波、右サイドに美鈴が、互いにさとしの腕を抱きかかえるようにして横になる。
(……っ、腕に二人の暖かく柔らかな感触が伝わってきて、これじゃ眠れる気がしない……)
二人はさとしにまとわりつくように寝ているため、時折足がさとしの足に絡まってくる。それが微妙に男心を刺激してしまい、さとしの目は冴え渡るばかりであった。
次の日の朝。ぐっすりと眠って活力に満ち溢れる親子を、ほとんど眠れなかったさとしが、げっそりとした顔で眺めていたのであった。
第2章第26話をお読みいただきありがとうございます。
今回は美波の進路の悩みについて書いてみました。
高校生の時の私は将来、治療院の経営者になっているなんて全く考えていなかったです(笑)。
あの頃は、いい大学入って、いい会社に入り、そこで結婚して、子供を二人ぐらい育てて、老後を迎えるんだぐらいアバウトに考えてたと思います(-_-;)
未だに独身で、会社辞めっちゃってるし、全く予想通りにはいかないものですね、人生とは……。
まったくもって後悔はないんですけどね。
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明日も午前中に投稿しますので、よろしくお願いします。




