八話 自己紹介
「貴様ら、依頼を成功させるために重要な要素はわかるか?」
生徒たちの目の前に立っている、課題が多かったり態度が悪いとすぐ怒ったりするので生徒間で人気がない担任が無駄に威圧感を出していた。
「一番わかりやすいのは実力だ。実力が十分に足りていれば基本的にどんなことでも成功させることはできるだろう。だが、実力は勉強、修練、実践を何度も繰り返すことでしか上げることはできない。ではギーベル、時間をかけずに成功率を上げる方法は何かを答えよ」
生徒たちに嫌われる先生にありがちな、いきなり指名をギーベルという人が受けた。
「うん~と~、ドーピングとかじゃね?」
「愚か者が!!そんなことを聞いているわけでないことぐらいわかるだろう!!それとなんだその言葉遣いは!!」
「はい、すみませーん」
頭に血管を浮かべて怒っていることが目に見えてわかる担任に対して、ギーベルさんは一切反省する気持ちがこもってない謝罪をした。
「貴様の評価がまた下がったぞ、ギーベル。お前の成績は確かに上位ではあるがそのような態度をとっていたら進級させると思うなよ!!」
「どうも、すみませーん」
担任はギーベルさんの馬鹿にした態度に苛立ったのだろう、顔が真っ赤になっている。
僕はこの担任が苦手の部類の人間ではあるけれど、さすがにかわいそうだな。うるさいけど。
「もういい!貴様にかまっているのは時間の無駄だ!……福崎、貴様はわかるか」
傍観者の心持ちでいたからいきなりの指名にびくっとした。
……だから嫌われるんだよと思いつつ、仕方ないので席を立つ。
「計画を立てたりや、情報を集めるなどです。後、複数人で事に当たるのなら連携を高めたり情報共有をしたりなどが言えると思います!」
いつも以上に丁寧な言葉遣いではきはきとし、疑問形にならないように心掛けた。
「その通りだ」
担任は満足げにうんうんとうなずく。
僕はあの威圧感のある声で怒鳴られなくて済みそうだ。
「貴様らはパーティーを組んでいくつかの依頼を達成しているため、連携が安定してきた者たちもいるだろう。だが、依頼によってはいつも通りのパーティーだけでは達成が困難であることは珍しくなく、ほかのパーティーとの連携や付き合い方も考えなければならない。よって、今回は二パーティーでいつも通りに我が学園からの依頼に当たってもらうことになった」
周りがざわざわしだす。おそらく、一緒に組もうなどといった話だろう。
「貴様らまだ話は終わってないぞ!それと、ここで話し合っても意味がない。なぜなら、学園側が組むパーティーを決めるからだ。仲のいい者たちで組んでも意味がないからな」
担任がそう言い切るのと同時にホームルームが終わりを知らせる鐘が鳴った。
「じゃあ、次はあたしね」
僕とルヴィエさんはこれから組む相手への自己紹介が終わり、今度は相手チームの紹介が始まっていた。
「あたしの名前はアリエル・エルディー。特に得意な魔法はこれっていうのはないけど、四属性魔法はそこそこ使えるわよ」
基本的に他人にあまり興味がなく、かかわることがない僕でも今自己紹介をしている人物のことを知っていた。
理由としては、ルヴィエさんの次に成績が高く、四属性魔法――火、水、風、土属性のどれもがクラスの中で三本の指に入るぐらいには使える有名人だから。
それだけだと僕はあまりそういうのに興味がないから知らない可能性もあるけど、単純に見た目がいいから目立つし、男の人同士の会話とかで話題に挙がっていて知っているという側面の方が強い。
実際、実力者ということを知っているのは、聞こえてきた会話で、という感じだし。
「で、福崎君とルヴィエさんは知っているかもしれないけど、今居眠りしているこの馬鹿はレジス・ギーベル。いろいろと問題はあるけど、一応実力は信用できるわ。……というか、あんた起きなさいよ!」
「……はぁぁ~、おはよ~。……で、なに?」
エルディーさんに起こされて、目をこすっているレジス・ギーベルという人の事も僕は知っていた。
授業の時はいつも不真面目で目立っているし、暇でほかの人たちの話を聞き耳しているときに、よく陰口をされているからだ。
それにもっと言うと、さっき担任に怒鳴られて目立っていた人だし。
「で、なに、じゃないわよ!あたしたちだけならまだしも、これから初めて一緒に組む相手がいるのに寝ているのはどう考えてもおかしいでしょ!」
ギーベルさんはエルディーさんがキレ気味で怒鳴っているのに一切反応をせず、自分達の方を見る。
「あ、これからよろしく。で、この後で一緒に遊びに行かない?」
ギーベルさんはこっちには一切視線を向けず、ルヴィエさんだけを見た。
その視線から、女癖が悪いという会話もあったことも思い出す。
ルヴィエさんは興味ないことには無視するタイプだから、怒鳴ったりと殴ってきたりとかはしないと思うけど、絶対に僕はルヴィエさんにそんなこと言えないわ。
「……福崎君、誘われてるわよ」
「えっ」
いきなり話を振ってきたルヴィエさんがいる方向を見た。違うでしょと口に出そうとしたが、ルヴィエさんの無表情を見て、やめた。
「じゃあいいわ」
ギーベルさんはそれでだけ言うとまた寝だした。
僕が断られた感じなのが少し気にくわなかったけど口に出すと面倒くさそうだし、もっと文句を言いたいであろう人物が何も言わないから気にしないことにした。
「ごめんね、ホントに。でも、こいつこういう奴だからあんまり気にしないで」
僕はエルディーさんの謝罪は主にルヴィエさんに向いているように感じた。
僕がエルディーさんの立場でもルヴィエさんを優先するから、特に文句はないけど。
「別に私は気にしてないわ。それよりも、あなたの隣にいる彼は誰かしら?」
圧倒的にキャラが濃い二人のせいとその人物は元々存在感も薄さで、ルヴィエさんが誰なのと聞いた人物のことを僕は完全に忘れていた。
「あ、えっと。……です」
……えっと、なんて言ったんだ?聞こえなかった。
「彼はトマ・カバネル。見ての通り人見知りで、特に初対面の人が相手だとこうなっちゃうの。だから、大目に見てあげて」
カバネルさんは何も言わずにペコリと頭を下げる。
僕は別にいいけど、それ大丈夫なのか?
というか、いつもどうしてるんだろう?だって、ギーベルさんはアレだしカバネルさんも人見知りだと、チームの中でまともに会話できる人がエルディーさんしかいないよね?
僕は興味なさそうにしているギーベルさんと一切喋らず縮こまっているカバネルさんが横にいる中で、依頼主と会話しているエルディーさんといった様子がありありと目に浮かんだ。
「自己紹介が終わった訳だけれども、これからどうするの?」
「うーんと、この後一緒に夕飯でも食べに行かない?」
「……そうね。私たちは構わないわ」
へえ~、ルヴィエさんこういうの断ると思ってたのに。
……というか、私たち?もしかして、私たちって僕のことも含まれてる感じかな?だとしたら、一切了承してないし、面倒くさいんだけど。
「トマくんは大丈夫?」
カバネルさんはちょこんと頭を下げる。
いいな~、カバネルさんには選択権があって。
……まあでも、ここで断れるほど度胸があるわけじゃないから別にいいけどね。……ハァ。
「それで彼はどうするの?」
ルヴィエさんはすやすやと眠るギーベルさんに道ばたのゴミを見るかのような目を向けた。
「いいわよ、こいつは別に。どうせ一緒に来させたって、不快になるだけなのは目に見えてるし」
「そうね」
僕はギーベルさんみたいな扱いを受けたいとは一切思わないけど、こういうときに自分の時間を他人に割かなくともいいことに少しだけ羨ましく思った。
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