五十二話 初見殺し
「ぐふっ」
「まあ、いいか」
僕はおなかを抑えながらドロレさんのことを見上げる。
剣の柄でお腹を思いっきしぶん殴られて、ただひたすらに痛い。
痛いというよりも、息がしんどくてつらい。
「そろそろ大丈夫か?」
いや、大丈夫じゃないよ。
いきなり模擬戦をするとか言い出したら僕の腹をぶん殴ってきて。
模擬戦やるぞって言って殴って来るとか一種の暴力だと思うんだけど。
「……大丈夫じゃないです」
心に思っていることを言う勇気がなかったので、せめてもの抵抗として僕はそう口にした。
「しゃべれるなら大丈夫だな。なら、これからのことについて話すか」
僕がもう少し休ませてほしいと思っている中、ドロレさんは話を進めていく。
普通にひどくないか、これ?
「貴様と手合わせしてみて、次のステップに進んでいいと判断した」
「それって、前に言ってたやつですか?」
「ああそうだ。フォスティーヌ」
「はい」
「福崎と一戦やれ」
「分かりました」
僕のお世話係であるシェロンさんと戦うことになったみたい。
ドロレさんに初めて特訓をしたときに、シェロンさんが実践的な魔法について教えてくれたことがあったから、多分戦えるんだろうなとは思っていたけど。
「はじめ!」
僕はシェロンさんの容姿が小柄で可愛い系な感じなのでやりづらいなと思いながら、とりあえずいつも通り剣を複製してシェロンさんに発射する。
そんな僕の攻撃に対して、シェロンさんは無属性魔法のマジックアローで僕の剣を打ち落としていく。
こっちに近寄るそぶりもなく魔法で応戦して来るってことは、シェロンさんは魔法を主軸で戦うのかなと思っていると――、
「ぐんっ、わぁぁーー!!」
嫌な予感がして左腕をわき腹らへんに動かしたら、腕から物凄い衝撃が来て吹き飛ばされる。
左腕が変な方向に曲がるのを感じながら、シェロンさんが目の前に現れて意識が飛んだ。
ん、ここは?
寝ているのか、僕。
はぁ、さっきまで外にいたのに、目を覚ましたら室内で寝ている状況に慣れてきているのが悲しい。
何よりも、今回はただの模擬戦でボコられたからっていうのが嫌になる。
「福崎様、おはようございます」
僕をこの状況に追い込んだ人物――シェロンさんが挨拶してきた。
「おはようございます」
僕は変な方向に曲がったはずの左腕を気にしながら、挨拶を返した。
「大丈夫ですよ、左腕は。治癒術師が直したので」
「ありがとうございます」
けがをさせてきた相手にお礼を言うのはおかしいかもしれないが、直してくれたわけだし。
「福崎様、どうして今回私に負けたかはわかりますか?」
「……実力が足りなかったからじゃないですかね?」
「本当にそうですか?」
シェロンさんは僕の目をじっと見ながら言う。
……なんか、見透かされているみたいで目をそらしたくなる。
「シェロンさんのことを甘く見ていました」
「それはどうしてですか?」
「それは……、やっぱり使用人だからそこまで強くないだろうと」
「本当に?」
「……僕と年齢はそんな変わらなさそうだし、シェロンさんの見た目で油断してました」
「それも少し違いますよね。福崎さんは私が魔法使いだと思ったんですよね?」
「……はい」
僕はシェロンさんが自分よりも強い可能性を考えなかったわけじゃない。
だって戦えるから対戦相手になったんだろうし。
だったなんで不意打ちを食らってしまったのかというと、近距離戦が出来る人だと思わなかったためだ。
「福崎さんが私のことを魔法使いだと思ったのは、初手で魔法を使ったからですよね」
「はい」
シェロンさんの容姿と武器を持ってないことから、近距離で戦うタイプである可能性は低いなと思ったけど、少し警戒はしていた。
ただ、初手に魔法を使われたことで僕はその警戒を解いてしまったのだ。
「でもこれって油断していたというよりも、一杯食わされたって感じじゃないですか?」
これは立派な戦法といえるんじゃないか?
誰もがシェロンさんの容姿に油断して、さらに初手に魔法を使ってくることから主戦力だと勘違いさせるのは。
だってまだ若い見た目のシェロンさんが魔法と近接戦、どっちも実践レベルで使いこなせるとは考えないだろうから。
「ええ。私はこの手を使って勝利を収めたことは少なくないです」
「なら――」
「しかし、だからと言って今回負けたのは仕方ないことだと思わないでください。私のような奇策を使われたら、福崎さんは負けてしまうということになります。誰もが引っかかりやすい罠であるからこそ、そういった手をいなせる様にならなければなりません。だって、負けたら終わりなのですから」
「……」
負けたら終わり、か。
この世界での負けは死を意味するからか。
……それは確かに油断はしちゃいけないのか。
「福崎様、少し近寄って来てくれませんか?」
シェロンさんの言われた通り近づくと、いきなり魔法陣が現れてまじかと驚いたら、水鉄砲ぐらいの勢いで水が顔にかかった。
「これは設置型の魔法です。名前の通り条件を整うと自動的に発動します」
これ、殺傷性が高い魔法だったらかなり危なかったよね。
「私のような容姿を使った手は、油断しなければ違った相手でも二度引っかかることは少ないでしょう。しかし、魔法に関しては知識がなければいけません。そして自覚しているでしょうが、福崎様は他の方々よりも圧倒的に知識が足りていません」
僕には属性魔法が使えないからって何にも勉強してこなかったことが良くなかったってことか。
「まあ、お嬢様の隣に立ってもらうのなら、魔法の知識だけじゃなくてあの程度の初見殺しを反射神経だけでいなしてもらいたいところですが」
「え……」
無茶苦茶言ってないそれ?
僕、魔術師なんだよ?
もしかして、シェロンさんも結構シビアな感覚をお持ちの方なのかな?
「では早速、魔法の講義を始めましょうか」
僕病み上がりなんだけど。
シェロンさんってドロレさんレベルにスパルタ、なんてことないよね?
「……はい」
嫌って言えるような人間になりたい、そんな思いを抱えながら返事した。
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