四十七話 指南の始まり
シェロンさんに頼むとか言ってたけど……。
別に僕としては休憩時間でもいいんだけどな。
「福崎様、申し訳ありません。ドロレさんは少し休息をとるようなので、私が福崎様のことを指南させていただきます」
「あ、はい分かりました。それで何をするんですか?」
僕に戦い方を教えることが出来るということは、ただのメイドさんじゃないってことなんだろうけど。
「物質強化魔法についてお教えします。まず福崎様は物質強化魔法についてご存じでしょうか?」
「なんとなくは。物の強度を上げる魔法ですよね?」
「そうです。それにしても、魔法学園の学生さんなのによくご存じでしたね」
「いえ、まあ」
火とか水属性の魔法みたいな属性がある魔法は僕には使えないので、剣を複製する魔法以外は身体強化とか物質強化といったような魔法しか使えない。
だから、他の学生とかは目を向けないような物質強化魔法について知識として持っていた。
「では、使えるのですか?」
「いや、それがちょっとどういう風に使えばいいのかが分からなくて」
自主的に特訓を始めて、まずはどういうことをすれば強くなれるのかということを考えていた際に、物質強化魔法を覚えようとしたことがある。
でも、教科書には物質強化魔法というものがあるみたいな説明しかなくて習得できなかった。
今思えば、図書室にある本で物質強化魔法について調べてみても良かったな。
「そうですか。身体強化魔法はさっきの模擬戦で使っていましたよね」
「はい」
「では身体強化魔法が一時的に強度を上げたり、一部分だけを強化できることはご存じでしょうか?」
「……いえ、そんなことできるんですか?知らなかったです」
「なるほど。では先に、そういった身体強化魔法について学んでもらいます。よろしいですか?」
「はい」
物質強化魔法を使うためには応用的な身体強化魔法の使い方を覚えなきゃいけないのか、それとも身体強化魔法の方が重要だからなのか、それとも他の理由があるのかは分からない。
でも、わざわざシェロンさんの方針に背く理由が思い浮かばないので同意した。
「では、普通に身体強化魔法を使ってください」
「分かりました」
僕は特に何も詠唱せずに身体強化魔法を掛ける。
一応詠唱すると消費魔力量が抑えられるというメリットがあるんだけど、身体強化魔法の魔力消費量がかなり少ないので、わざわざ唱える必要がほぼないんだよな。
「身体強化は出来ましたか?」
「はい」
「ならば、全力でジャンプして下さい」
僕はシェロンさんに言われた通りジャンプをした。
体が軽い。結構飛んでいる気がする。
必要な時以外には身体強化魔法は使わないから、いつも違和感があるんだよな。
「次は身体強化の強度を上げてください」
強度を上げるっていうのは効力を上昇させるってことだよな。
どうすればいいんだ?
「身体強化」
何も分からないけど、もっと効力が上がれ!と思いながらとりあえず詠唱してみたけど、なんかよくわからないな。
「もう一度ジャンプをしてみて下さい」
僕は言われた通り二度目のジャンプをする。
「うわ!?」
思った以上に飛んじゃって、下を見ると普通だったら怪我しちゃうくらい地面が遠いから若干怖いんだけど!?
「上手くいったようですね」
特にけがもなく着地出来た僕は、シェロンさんの言葉から意図した通りにできたのだなと安堵した。
いまいちどうすればいいのかが分からなかったからな。
「今福崎様が行った魔法の効力を上げるという行為は、何も身体強化だけに適応されるものではございません。アーススパイク」
シェロンさんが魔法を唱えたことで、地面からタケノコみたいなのが生えてきた。
「アーススパイク」
シェロンさんはもう一度魔法を唱えたら、先ほどのタケノコみたいなものと違い、二メートル程あるだろうか突き刺さったら致命傷を負ってしまうような土でできたトゲが現れた。
「お分かりになられたでしょうか?こういった属性魔法でも効力が変わってきます」
「はい、なんとなくは」
「このことから、込める魔力の量によって効力が変わってきます。また、練度や――」
「戻ったぞ」
この場から離れていたドロレさんが戻ってきたみたいだ。
「ドロレさんも戻ってきたようですし、またの機会に続きの話をしましょう」
僕としてはシェロンさんの話は気になるものだったから、ドロレさんがもう少し帰ってくるのが遅ければ、なんて思った。
「すまなかった!」
かなり僕のことを毛嫌いしていたように見えたドロレさんが、帰って来ていきなり頭を下げてきた。
「えーとー……。すみません」
確かに僕の中ではドロレさんの態度に思うところがあったけど、こう頭を下げられてしまうとどう対応すればいいのかとなってしまい、とりあえず自分も頭を下げてみた。
「何故貴様が謝る」
「いえ、僕の気づかないところで気を悪くさせてしまったのかなと思って」
向こうが謝ってきているはずなのに面倒くさいこと言ってくるなと思ったが、謝った理由として相手が納得してくれる――そういう見解もあると認めざるを得ない言い分を口にした。
というか貴様呼びは変わらないんだな。
「そう屁理屈を……。はあ、まあいい。まだ他に貴様に言いたいことがある。それは私が貴様のことを気に入らないということだ」
「……はあ」
まあそうだろうな、という感想しか浮かばない。
「私は貴様みたいなはっきりとモノを言わずに言葉を濁し、ほどほどに手を抜こうというような輩が嫌いなのだ!」
「……すみません」
「そうやってすぐ謝るのが気に入らん!謝っとけばいいとでも思っているのだろう!」
「……いえ」
「じゃあ、どう思っている!」
「ただ申し訳ないという気持ちでいっぱいで」
「ならばしっかりとやれ!」
めんどくせー。
謝ってもダメで、そうじゃないと言ってもダメ、なんて言えば満足するんだよ。
確かに楽をしたいなーとは思ってるけど、やることはやってるんだからいいじゃん!
そんな風には思うけど、言っても拗れるだけなので勿論口には出さない。
それに殴り合いになったらぼこぼこにされるのは僕だと考えると、相手を苛立たせるのは怖いし。
「うちの屋敷の使用人にも貴様のような奴はいるが、ほとんど無視をしている。ただお嬢様の周りどころか仲間として貴様のような奴がいるというのが我慢ならんし、何故私が稽古をつけねばならない!」
知らねーよと言いたいところだか、向こうの言い分も理解できる。
理解できるからと言って、こうずけずけと言ってくることに思うことがないわけではないけど。
まあ、こう直接言ってくるような人であるからこそ、陰険なことをしてこないという安心感はある。
「すみません」
「謝るな!」
これ以上何か言葉を口にしても相手を苛立たせるだけなのは分かったので僕は黙ることにした。
「正直言って、いくらお嬢様のパーティーメンバーと言っても貴様のようなのに稽古をつける気にはならなかったから、サンドバッグにでもしてやろうかとも思ったが――」
こわ!
さっぱりしたような性格に見せかけて、かなり陰険なことを考えていたんだけど!
「そこそこやるようだし、何より体が最低限は鍛えているようだからしっかりと稽古をつけてやることにした」
良かったー!しっかりとルヴィエさんに従って体を鍛えておいて!
稽古をつけてやるという言い方に少し思うところはあるけど、実際僕はありがたがる立場ではあると言えるし。
それに下手なこと言って怒らせるのは怖いしね。
「まず、剣を振ってみろ」
ルヴィエさんとの特訓は基礎身体能力を上げたり体の動かし方を教えてもらったりはしたけど、剣術は習ってないのでダメ出しはされるだろうなと思っていながらも、出来るだけ綺麗に鋭く、を意識しながら剣を振ってみた。
「次は身体強化を使って振ってみろ」
「うわ!?」
ドロレさんの言われた通り身体強化を使ってさっきと同じ感じで剣を振ってみたら思ったよりも勢いが出てしまい、ちょっと体勢を崩しそうになってびっくりした。
「貴様、あまり身体強化を使いなれてないな?」
「えっと、多分」
他の人がどんなもんなのかは分からないけど、使い慣れていない部類な気はする。
「なら、身体強化を使った状態で私の後ろについてこい」
「え?剣は?」
「それは後でやる。四の五の言わずについて来い!」
「……はい」
反論することが無駄なのは分かりきっているので素直にうなずいた。
ランニング程度の速さのドロレさんの後をつける前に、剣を振り下ろした時みたいに思ったよりもスピードが出てしまうという予想がついたので、いつもの感覚よりもゆっくりめで走り出した。
そして少しずつドロレさんのスピードに合わせるように調節していく。
「はあ、はあ」
そろそろ三十分ぐらい経ったのかな?
五分前ぐらいからちょっとずつしんどくなってきてはいたけど、真面目にしんどくなってきたな。
ドロレさんが最初のスピードからどんどんと上げていくから、今は身体強化を使わない素の身体能力での全速力ぐらいの速さは出ていそう。
昔の僕だったら四、五分を過ぎたあたりからだいぶしんどくなってきただろうな。
ただ、今はルヴィエさんに永遠と走らされたせいでこの程度じゃまだ余裕があるはずなんだけど……。
「あの!すみません!あと、どれくらい、走る――」
んわ、気持ち悪い……。
吐けそうで、吐けないんだけど……。
「ん?ようやく気持ち悪くなったのか?思ったよりも長かったな」
気持ち悪くなって足を止めているけど、一切ましにならない。
「魔法を止めてみろ」
僕はドロレさんの言葉を聞いて身体強化魔法を止める。
はあ、はあ、ちょっと、楽に。
「貴様は今魔法を使いすぎて気持ち悪くなっている状態だ。だから体力と違って、魔力がある程度回復するまでは気持ち悪いままだ。貴様の状態なら、大体四、五分ほどしたらましになってはきはするだろうが」
これが、魔力切れか。
楽になってきている、ようで、全然楽じゃない。
「立て。剣の素振りを始めるぞ」
「え?」
何言ってるの、この人。
普通に無理だよ。
「ほら立て」
ドロレさんはそう言って、僕の腕をつかんで無理やり立たせた。
「あの、しんどいんです」
「分かっているそんなことは。じゃあまずは――」
「あの、本当に無理なんです。体を動かす気になれないんです」
僕は若干泣きそうになりながら訴える。
ああ、しゃべるのもしんどい。
「大丈夫だ。動かせる気になれないだけだったら、動かせるということだ。分かったなら早くこの剣をにぎ――」
「なにも大丈夫じゃないです。あのホントに許してください。しんどいんです。だから――」
「いいからやれ!」
ドロレさんは剣を無理やり泣いている僕に握らせる。
「……はい」
これ、何言っても無理なんだろうな……。
とりあえず剣を振ってみたけど、ヘロヘロすぎてこの世界に来たばっかりの方がまだましだと思う。
「ほら、全然ヘロヘロで、無理なんです」
「大丈夫だ。私が振り方を教える」
ドロレさんはそう言って、僕の腕をつかんで剣を振らせる。
いつもの僕だったら、美人であるドロレさんに触られてドキッとしたかもしれないけど、そんなことを感じている余裕は一切ない。
「じゃあ、もう一回振ってみろ」
こんな極限状態で一回振り方を教えてもらったところで、ヘロヘロなのは直らない。
「無理です。辛くて集中できないです」
「ほら、こうするんだ」
ドロレさんは僕の言うこと全く無視して、僕の腕をつかんでまた剣を振らせた。
「あの、本当に――」
「しゃべっていてもしんどいだけだぞ」
その言葉を機に、僕は黙って涙を流しながら剣を振り続けた。
剣を振っているうちに魔力が回復してきたためか楽になっていったが、そのことがドロレさんには分かったのか、振り方について厳しくなっていった。
そしてその素振りは、僕がしんどすぎて逃げ出そうとしたらドロレさんに羽交い絞めされるなんてことがありながらも、日がぎらぎらと照っている時間から日が暮れるまで続いた。
勿論特訓が終わった後に風呂はおろか夕食なんて食べる気力なんてあるわけもなく、屋敷に入ったら一直線に自分の部屋に向かい、ベッドに寝そべった瞬間に意識がなくなった。
高評価とかでなくていいので、評価してくれたらうれしいです。
マイナスなものだとしても、感想も書いてくれるとうれしいです。




