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これが戦争、これも戦争10

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 ハインリヒは見るからに怒り心頭と言った様子だが、反論の言葉が見つからないのかパクパクと口を開きかけては閉口するのを繰り返している。

 どんな反論を口にしたところで、こちらは正論を返すだけだ。

 ツッコみどころ満載のことしか言わないのでこっちとしては楽なことこの上ない。

 帝国側はさぞや士気が下がっていることだろう。

 あれ? もしかしたら、自分たちの心の拠り所を全否定されてむしろ怒り心頭だったりするのか?

 まぁどうでもいいか。

 怒っていようが意気消沈していようが結果は変わらないのだ。


『で、もう反論はないのか? ないんだったらそろそろ戦いを始めるか?』

『戦い? そうだ、貴様の愚かな思い違いもこの戦いで真実を思い知らせてやろう!

 聞けっ! 愚かな王国の者どもよ!

 帝国の正義に賛同し、魔族は我らの味方となった!

 魔王はこの戦いに魔族の精鋭50を送り、さらなる増援も約束している!

 魔族が王国を滅ぼす剣となるのだ!』


 あ、ここでそれを暴露するんですね。

 Say yeah! だろうが精鋭だろうが魔族へんたいは所詮魔族だから役に立たないんだけどなぁ……

 まぁ、この会戦でどんな作戦を実行するのか義兄こくおうすら知らないんだから、この場にいる一般兵や農民兵は動揺しちゃってるね。

 本当は怯える必要もなにもないんだけどね。

 ハインリヒさんは実にナイスなピエロを演じてくれて俺は笑いを堪えるのが大変だよ。

 そもそも魔族のおかげで勝てたとしたら、それって優れてるのは帝国じゃなくて魔族だってことに気がついているのか?

 魔族を仲間に引き入れたことを功績にするつもりかもしれないけど、端から聞いたらすごいのは魔族だとしか思えないんだぞ?


『言いたいことはそれで全部か? だったらそろそろ戦いを始めたいんだが?』

『な!? 魔族だぞ!? 我ら帝国には魔族が味方しているというのにまだ戦うつもりなのか!?』


 え? 魔族へんたいを味方にしたぐらいで降伏するとでも思ってたの?

 そう言えば、俺と勇者様パシリくんが魔族領で暴れたのはトップシークレットだから、王国の貴族でも一部しか知らないんだったな。

 帝国の人間ハインリヒが知らないのも無理はないか……

 普通に考えたなら魔族を相手に戦争をするのはなかなかしんどいものがある。

 ハインリヒは魔族の精鋭50人が帝国の味方として戦場に立っていると言うが、たしかに魔力量だけで見たら人間の魔法兵と比べて100倍強いやつが50人いるのだから、5000人の味方が増えたとも言えるかもしれない。

 精鋭って言うぐらいだから魔王城勤めできるレベルか?

 それならだいたい魔力量は魔法兵の500から1000倍ぐらいだろう。

 でもね?

 魔力量は100倍だろうが1000倍だろうが、魔力量が戦場での戦力にそのまま直結するわけじゃないんだよ。

 実数で言えば、1人はあくまでも1人しかいない。

 それは当然だとして、実際に戦ったとすれば魔法兵の100倍という魔力量を誇る魔族の兵であっても、人間の精兵が5人もいれば十分に対処できる。

 精鋭と呼ばれる魔族の近衛レベルが相手でも人間の精兵が20人いれば対処するのも不可能ではない。

 まぁ、これもあくまで理論上の話だ。

 この戦場には精兵なんてほとんど連れてきていないが、手柄目当てで王国軍に参陣した冒険者の中には単独で魔族の近衛と互角のやつがちらほらいるんだよね。

 あとは、ほとんど連れてきていないとは言っても、リオンとかシュルムのおっさんとか一対一タイマンなら魔族の近衛を確実に倒せる王国軍の人間もいないわけではない。

 50人ぐらいなら普通に戦っても対処できない数ではないのだ。

 あと、究極的なことを言えば、俺が出てしまえば魔族の近衛ぐらい万の軍勢を相手取っても無傷で圧勝できちゃうんだよ。

 つまるところ一言で言ってしまえば、ハインリヒが自信満々にこちらの戦意を削ごうとした行為はまったくの無意味なのだ。

 まぁ、魔法兵と同じように扱って砲台として作戦に組み込むなら魔力量が戦力に直結するけど、今回の作戦ではこちらの軍が魔法兵の射程に入ることはないから、やっぱり無意味なことに変わりはない。


『よ、余の慈悲も分からぬとはこれだから王国の人間は愚かなのだ! もうよい。魔族の手によって蹂躙されながら自らの愚かさを乗ろうがいい!』

『はいはい。がんばってね』


 舌戦で勝つことは出来ないことをようやく理解したのか、背を向けて自陣に帰っていく負け犬ハインリヒを見送ってから俺も王国の陣へと戻る。

 舌戦は基本的に総大将が行うものなので、不意打ちをする絶好の機会だがそんなことをすると国際的な信用を一気に無くしてしまうので、いくら楽が出来るとは言えそんなことをしてはいけない。

 本陣まで戻った俺を出迎えたのはいつの間にやら本陣に来ていたらしいリオンだった。


「ずいぶんと独創的な舌戦だったな」

「帝国の程度の低さがよくわかるよな」

「いや……そうではなくて……まぁいい」


 なんでそんな可哀想なものを見る目で見るんですか?

 俺はお馬鹿な帝国の人でもわかるように優し~く真実を口にしただけですよ?


「それで? 帝国には魔族もいる。数で勝るとは言え、兵たちは不安がっているぞ?」


 一般兵からしたら魔族が相手ってのは絶望的だよな。

 魔力量である程度の差があると戦力差は絶望的に広がる。

 魔法兵や精鋭と呼べるような兵ぐらいの魔力量があれば魔族相手でもそれなりに戦えるが、魔力の乏しい一般兵ではロールプレイングゲームでレベル1で初期装備のまま最初のボスに挑むようなものだ。

 数で押せば倒せないことはないが、倒すまでにどれだけ犠牲が出るかは分からない。

 一般兵にとってはその犠牲に自分が含まれないという保証はないのだ。士気も下がるというものだろう。


「ダイジョブダイジョブ~、ケリーをシンジテ~」

「誰だ?」


 そういうネタだ。気にするな。


「カイト様、どうやら帝国は魔族を先頭に攻めるようです」

「ほぉ~ん」


 セロの言葉で帝国の陣を見れば、帝国兵とは違った装いの連中が前に出てきている。

 うん、あれは魔族だね。


「無駄なんだけどねぇ……」


 魔族が先頭だろうが、帝国兵が先頭だろうがこちらの勝利は揺るがない。

 それが蜃気楼のようなものであるとは知らずに帝国は自らの確信する勝利へと進もうとすることのなんと哀れなことか……

 俺が内心で帝国を哀れんでいると帝国側から銅鑼を叩く音が鳴り響く。

 舌戦で陣の前に出た人間が配置につき、会戦を始める準備が整った合図だ。


「銅鑼鳴らせぇ!」


 こちらも銅鑼を鳴らすのが開戦の合図であり、帝国にとって悪夢の始まりだ。

 指示通りに銅鑼が打ち鳴らされ、帝国側から王国側から自らを鼓舞するかのように鬨の声を上げる。

 帝国兵が一斉に駆け出し、戦争が始まった。


「そして終わりだ」


 鬨の声など鳥の囀りだったと思えるような、大地を揺るがす轟音。

 帝国側で一際多くの旗が立てられた場所、帝国本陣から黒煙が立ち上るのだった。


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