妄執の帝国9
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「それで……カイト様?」
「ん?」
「どうなさるおつもりですの?」
「さて……どうしたもんかね?」
「もう。お尋ねしているのはわたくしですのよ?」
そうは言われても、俺だって決めかねているのだ。
馬鹿なハインリヒたち帝国の人間は魔族と手を組めば俺を始末できると考えているのかもしれないが、本当に敵に回っているのだとしたら変態がそんな楽観視をしているわけがない。
変態変態と呼んではいるが、ガライアスとて魔王として十分以上の実力はある。
歴代魔王の中でも随一の魔法を扱うセンスが有り、魔力量も歴代上位にランクインするぐらいの量を誇っていると自称している。
自称だが、自称するに値する実力があるのも事実だ。
種としてはドラゴンに及ばぬ魔族でも魔王ともなれば一対一ならドラゴンを倒せる強さを持つが、ガライアスならばチョコ蜥蜴――最強のドラゴンたる竜王を相手にしてもいい勝負ができるだろう。
しかし、その程度だ。
ドラゴンを倒せるだとか、ドラゴンの王を相手に善戦できるって程度の実力では俺を本気にさせることすら出来ないことをあいつはよく理解している。
一度徹底的に痛い目に遭わせてやったので、俺との実力差を正しく理解できているからだ。
それでもなお敵に回ると言うことは、実力差を理解していても俺を倒す手段を得たということであり、その手段に俺は皆目見当がつかない。
分からないのだから、どうすべきなのかの判断も出来るわけがない。
「どれだけ考えても答えが出ない問題で悩み続けることほど不毛なことはないと思わないか?」
「……諦めるのが早いのではなくって?」
「無駄無駄。どうせなるようにしかならんって」
「ですが、どうなるかによって自分がどうするかの方針を定めておくのは重要ではございませんの?」
わかってない。
わかってないぞアビゲイルよ。
もう俺は疲れたんだ。
この3日間で、カッツェからリッタナ村までわざわざ出張って豚を駆除し、カッツェに戻ったら今度は王都行きだ。
王都では戦爵なんてもんに叙爵されるわ、式典に参加させられるわで精神的に疲れるし、挙げ句の果てには帝国行きだぞ?
もう半年分ぐらい働いたんだよ俺は。
豚の首がグラウブルクに届くまで2、3日だ。
そう、この2、3日は待つことが仕事なんだ。
つまり、部屋でぐーたらしててもそれが仕事! ビバ仕事! 俺は寝るぞ!」
「それでしたら、わたくしと淫らな休日を過ごしましょう」
「ごめんなさい。しっかり方針を考えます」
「それはそれで失礼ではありませんこと?」
いや、だからね?
あなたと私はくっつけないの。
S極とN極、平氏と源氏、阪神と巨人、キノコとタケノコ。
ルファート帝国とドコカノン王国はそんな関係なんだよ。
お姫様がそんな仮想敵国からいつ仮想が取れるか分からない国の人間とそういう関係になるのはまずいでしょ?
「俺とお前じゃ、先が見えないだろ」
言ってもニュアンス以外は半分以上伝わらない本心は隠して、勤めて神妙な顔つきで告げる。
「男性は一時の快楽で女を抱けるものではなくて?」
アビゲイルさんの反撃、『身も蓋もない言葉』攻撃。
「いや、そらそうだが……お前はそういう感覚で抱ける相手じゃないって」
だって王女様ですしおすし。
お相手が俺じゃなかったら首が飛ぶ案件ですよ?
俺が平気なのは、そうなっても逃げられるだけの力があるからだ。
「一度会ったことが二度になっても三度になっても大して変わらないと思いませんの?」
変わると思います。
「それに、もうすぐ先が見えるようになりますわ」
「え? なんで?」
「兄上はもう後戻りできないところまで進んでしまいましたわ。きっと今回のことが失敗しても大陸統一を諦めることはないでしょう」
そんな人間がいつまでも皇帝の座に座っていれば、また何度でも争いを起こそうとする。
それを防ぐための方法は一つしか無いだろう。
そうなってくると必然的に……
「お前が皇帝……いや、女帝になるのか?」
しかし、そうなったら逆に国内の有力貴族から婿取らないと拙くない?
「そんなわけないじゃありませんの。帝国は王国になるのでしょうね」
つまり王国に帝国を併呑しろと?
やだよ国民みんな抵抗するのわかりきってるじゃん。
「いや、普通に皇帝の座から引きずり下ろせばいいじゃないのか?」
「では誰が次の皇帝になりますの?」
「え? だからお前、アビゲイル女皇帝」
「そんなのは御免被りますわ」
王位を争って血みどろの内戦を起こしてる連中に伝えてやりたい言葉だな。
しかし、アビゲイルが皇帝ならいろいろ丸く収まりそうなもんだが……
「わたくしはカイト様の下に嫁ぎたいので皇帝の座は必要ありませんの」
「あ、そういう……」
皇帝の座と比べるなんて、そんなに俺はいい男ですか?
少なくとも、俺が女なら俺みたいな男は絶対にお断りなんだけどねぇ……
だって穀潰しだもん。
「ああ、カイト様に婿入りしていただいて、カイト様が皇帝になるのはいいかもしれませんわね」
「却下」
アビゲイルはさも名案とでも言いたげに両手を打ち合わせて言うが、皇帝なんて面倒なことこの上なさそうな立場は御免被ります。
「そうすれば帝国は間接的な王国の支配下に入りますし、わたくしは晴れてカイト様と一緒になれる。こういうのを勇者様の国の言葉でウィーンウィーンと言うのでしょう?」
「だから却下」
というか、それはウィーンウィーンじゃなくてwin-winだな。
なんでオーストリア首都の名前を連呼してるんだ。
いや、ロボットとか機械が動く音か?
って、んなこたどうでもいいが、その理論で行くと王国とお前は勝ってるかもしれないけど、俺だけ1人負けしてるよね?
win-winって大小はあれど味方にあたる協力者全員に利益があって、負ける人間がいないからwin-winなんだろ?
俺が負けたらそれwin-winじゃないじゃん。
実は俺、利益を享受できない部外者だったの?
当事者なのに?
「だから、俺は面倒なことは嫌なんだよ」
「……わたくしのことはお嫌いですか?」
その聞き方は卑怯だと思う。
嫌いな相手なら扉に鍵をかけられた時点で、情報を得た後に扉を破壊してでも部屋から追い出している。
しかし、俺とアビゲイルは敵対する国の人間なのだ。
そう、ロミ男とジュリエッ太なのだ……あれ? 両方男になってる!?
「沈黙は肯定と同じでしてよ?」
下らないことを考えている俺が黙っていると、するりとドレス脱ぎ捨てたアビゲイルはそう言いながら俺をソファに押し倒して上から組み伏せてくる。
俺とアビゲイルでは、男と女どころではすまない力の差があるのだから、振り払うのは簡単だ。
しかし、簡単に振り払おうとは思えないぐらいにはアビゲイルのことを憎からず思っているし、そうしてしまうのはもったいないぐらいのいい女なのだ。
「拒絶なさらないのですね」
「一回やったことは二回も三回も同じなんだろ?」
笑みを浮かべたアビゲイルに抵抗しなかった俺は、唇によって唇をふさがれた。




