第47話 五十年分の、執念
その夜、香織は自室で封筒を開いた。 中には、源三郎が五十年かけて集めた膨大な資料が入っていた。几帳面な字で書かれた調査ノート、新聞の切り抜き、写真、地図、証言記録。それは、一人の男の人生そのものだった。
最初のページには、こう書かれていた。
『昭和四十七年六月二十一日。弟・亮介が行方不明になった翌日から、私は記録を始めた。いつか必ず、真実を明らかにするために』
香織は、ページをめくった。そこには、亮介の人となりが細かく記されていた。
『亮介は、太陽のような男だった。野球が上手くて、誰にでも優しくて、そして、たった一人の女を命がけで愛した』
次のページには、亮介が書いた手紙のコピーがあった。源三郎宛ての、最後の手紙。
源ちゃんへ
もし俺に何かあったら、これを読んでくれ。最近、和子の様子がおかしい。いや、和子だけじゃない。和子の家族全体が、何かに怯えているように見える。特に、和子の祖母の目が怖い。俺を見る目が、まるで死人を見るような目だ。和子は、十八歳の誕生日を異常に恐れている。理由を聞いても、教えてくれない。ただ、「私と一緒にいると、不幸になる」と繰り返す。でも、俺は和子を愛している。何があっても、守りたい。この町には、古い言い伝えがある。十八歳の娘が、愛する者を水に捧げるという。馬鹿げた話だと思うだろう?俺もそう思ってた。でも、和子の家系は本気でそれを信じている。もし俺が消えたら、きっとそれが原因だ。 でも、源ちゃん、覚えておいてくれ。和子を責めないでくれ。彼女も被害者なんだ。むしろ、助けてやってくれ。俺は、自分の意志で和子と一緒に行く。たとえ、それが死を意味するとしても。愛する人のためなら、命なんて惜しくない。 亮介
香織の目に、涙が滲んだ。亮介は、知っていたのだ。自分の運命を。それでも、和子を選んだ。愛を選んだ。




